その講談社が満を持して世に送り出したのが、「モーニング食」という料理漫画専門誌なのです。
思えばここ数年、料理漫画のみを集めた雑誌がいくつか出ました。日本文芸社の漫画ゴラク増刊「食漫」や、集英社のスーパージャンプ特別編集増刊「まんぷくジャンプ」です。とうとう料理漫画も麻雀漫画と同じように、専門誌がいくつも出る時代になったか……と感慨深く思ったものですが、残念ながら食漫は1年で休刊。まんぷくジャンプも1号でたきりで続きが出る気配がしません。
果たしてこの「モーニング食」はいかなる位置づけになるのか。料理漫画界全体を牽引する存在となるのか。見て行きたいと思います。
まずは出だしの特集です。これがすごい。漫画家が行きつけの焼肉屋特集なのです。しかもクーポン付き! カラー写真を載せられて、なおかつ大きなサイズで魅せることのできる雑誌グラビアで、まさかのお肉特集です。32ページに渡って35店舗を紹介しているのですが、これがまたどれも美味しそう! さすが漫画家さん!
クーポンは本誌持参で料金割引があったり、ドリンクサービスがあったりするもの。
漫画について見ていくと、おおまかには全くの新作漫画、今連載されているものの番外編、昔連載されていたものの復刻連載、実録漫画系、ギャグ系、読切とに分けることができます。もちろんどれも料理漫画です。
例えば全くの新作連載でいうと『おせん-真っ当を受け継ぎ繋ぐ』のきくち正太先生は「はなれのおねえさん」という作品を描いています。しがない漫画家である主人公は、両親が引っ越した後の実家の離れを人に貸して家賃収入を得ようとします。そこでその離れを借りようとしたお客さんとして登場したお姉さん。借りる決め手は「庭で焼き魚を焼けること!」でした。そしてそのお姉さんが庭でお魚を焼いて食べるというお話になるのですが、まあこのお魚が美味しそうなこと! 思わず「ごくり」と喉を鳴らしてしまうこと請け合いです。
他にも『バリスタ』『珈琲どりーむ』の花形怜先生原作で、『サトラレ』の佐藤マコト先生作画の「酔いどれインターポール」はビールがテーマの作品で、酔えば酔うほど頭が冴える泡島醸は、インターポール所属のメンバーです。国際問題の絡んだ問題を、(酔った時の)明晰な頭脳と抜群の行動力で解決していく……という話なのですが、これまたビールが飲みたくなってきちゃうのです。
今連載されているものの番外編でいうと、鬼頭莫宏先生の『のりりん』や真刈信二先生原作で赤名修先生作画の『勇午』でしょう。自転車漫画「のりりん」は舞台となっているラーメン屋の店主にスポットライトをあて、体を作る食事がテーマな番外編。
ところで勇午とカレーと言えば、初期にヒンドゥー教徒(牛が食べられない)に「しゃべらないのならこのカレーを食わせる」「ま、まさかそれは・・・」「そう、ビーフカレーだ」「や、やめてくれそれだけは。しゃべるから」という拷問をするシーンがとても印象深かったのですが、今回はそれを上回るカレーエピソードに期待大です。
昔掲載されていたものの復刻連載は、森田信吾先生の「新駅前の歩き方」でしょう。前作が『駅前グルメの歩き方』として復刊したのはこのためか! とも思いましたが、ファンとしてはとても嬉しい限りです。
『駅前グルメの歩き方』は「常食」という、その土地で日常的に食べられるものの中に真のご当地グルメがあるという考えをもった小説家・花房と編集者・加藤が色んな土地に行ってB級グルメを探すというものです。連載されていたのはB-1グランプリ開催の7年前という先見の明があった作品でした。今回の「新駅前の歩き方」はこの花房・加藤コンビが復活しているのですが、現在のB級グルメブームをふまえた内容になっています。
ここまですべての要素を組み合わせたのが、『ミスター味っ子2』『喰いタン』の寺沢大介先生の巻頭作品「喰いタン 水戸光圀」と言えるでしょう。喰いタン(昔連載されていた漫画)の番外編でありつつも、違う主人公、時代による新作という作品です。タイトルの通り主人公は後の水戸黄門こと水戸光圀です。これが、当時の料理を食べまくりながら事件を解決するのです。
ちなみに寺沢大介先生は、本誌の中のニコ・ニコルソン先生の「ごはんですか」にも登場しています。寺沢ファン必見です。あ、いや、ちょっと衝撃の事実(?)もあるのでイメージが崩れてしまうかもしれません……。
実録系では『夢幻の軍艦 大和』の本そういち先生の東日本大震災を扱った「震災を喰う」や、『新釈 うああ哲学事典』の須賀原洋行先生の「実在ゲキウマ地酒日記」などがあげられます。実は何を隠そう僕も地酒は相当好きなので、須賀原先生の挙げたお酒とそのエピソードには「そうそう、そうなんだよね!」と納得しまくりでした。ああ、お酒が飲みたい……。
ギャグや読み切りの作品を解説するのはちょっと野暮なので置いておいて。どの作品も読み応えがあり、続きが楽しみでたまりません。料理漫画ブームが来ることを祈りつつ、またそのブームを先頭に立って切りひらいていくことを祈りつつ、2012年春に出るNo.2を待ち続けたいと思います。(杉村啓)
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掲載作品リスト
寺沢大介 『喰いタン 水戸光国』
きくち正太 『はなれのおねえさん』
真刈信二+赤名修 『勇午 インド・カレー編』
鬼頭莫宏 『のりりん 番外編 とあるラーメン屋さんの裏メニュー』
守村大 『新白河原人 出前版!』
久保保久 『食王は食べたくない』
森田信吾 『新 駅前の歩き方』
須賀原洋行 『実在ゲキウマ地酒日記』
花形怜+佐藤マコト 『酔いどれインターポール』
トニーたけざき 『無味も喉三寸』
ハグキ 『きぐるみクッキング』
木下晋也 『DELIポテ』
唐沢なをき 『へんしょく!』
本そういち 『震災を喰う』
岡本健太郎 『山賊ダイアリー リアル猟師奮闘記 禁猟期 栄養補給編』
ニコ・ニコルソン 『ごはんですか』
大ハシ正ヤ 『健康でいて、元気に食事ができたら一番いいですね』
浅茅峰子 『HUMAN KITCHEN ―だるま弁当』
小説 山上たつひこ+挿絵 和泉晴紀 『ケチャップ航海記』