――デビュー作の『むすんでひらいて』、第5巻が発売になりました。まずは、今の率直な心境から教えて下さい。
水瀬 連載を2年半くらいやらせてもらっているんですけど、「やっと5巻!」という感覚は無いんですよね。オムニバス形式で描いてるから、キャラクターの入れ替わりが激しいので。一人一人のキャラを一生懸命描いてたら、「あ、5巻や」みたいな。
――長い道のりを歩いてきたというより、目の前のチェックポイントを一個ずつ通過してきたような感覚でしょうか?
水瀬 そんな感じですね。やっぱり、それぞれのキャラクターについて、一個一個ちゃんと終わらせたいと思っていて。しかも、ただ恋愛が成就するというよりは、キャラクター一人一人が、自分で悩みながらも前に突き進んでいって。
――あとがきマンガなどでは、作中のヒロインたちが水瀬さんのことを“お母さん”と呼んでいますが。
水瀬 キャラに、自分でお母さんとか言わせて、めっちゃ痛いんですけど(笑)。でも、けっこう本音です。
――それだけの愛情を込めて描かれている『むすひら』について、今日はじっくりお話を伺いたいと思っていますが、その前に。まずはデビュー以前のお話も伺わせてください。水瀬さんは、子供の頃から、いわゆる漫画少女だったのですか?
水瀬 はい。
――投稿などは、いつ頃から始めたのですか?
水瀬 高校生になるまで、投稿作品は1本も描いたことがなくって。高2くらいの時、「これじゃ、アカンわぁ」と思って、描き始めたんです。
――それは、どんな作品だったのでしょう?
水瀬 当時はファンタジーを描きたかったんです。それが初めて描いた漫画ですが、話が壮大になり過ぎて、読み切りの状態では描けず。中途半端な内容になりました。
――壮大な物語の序章のような内容だったのですね。
水瀬 はい。話が完結してないし、本当に描いてて楽しいっていう自己満足だけの作品でした。
――でも、その後も漫画は描き続けたのですよね?
水瀬 私、漫画以外に特技が無いので。ずっと、「漫画でご飯を食べなきゃ、他に何してご飯食べんねん」、みたいな感じでしたね(笑)。
――漫画一筋!? 本当にデビューできて良かったです(笑)。デビューのきっかけは、2008年に「プロダクションI.G×マッグガーデンコミック大賞」の漫画部門に入選されたことですよね。入選作品の『鬼が来る』は、ホラーテイストの作品だったそうですが。『むすひら』のようなラブコメでは無かったのですね。
水瀬 はい。動きのあるものが描きたかったので、それまでも、バトル物を描いてみたり。賞をもらって、『EDEN』さんで連載をという話になった時も、ラブコメを描くつもりは全然無かったです。でも、連載に向けて出していたファンタジーのネタが全然通らなくて。掲載の時期は決まってたから、作画作業の時間を考えたら、もうそろそろやばいなって感じになって……。(隣に座る、担当編集者Aさんの方を見る)
担当A ファンタジーのネームを出してもらっていたのですが、あまりうまくいかなくて。でも、その中で描かれていたキャラクターの日常のやりとりが、すごく良かったんですよ。それで、「これは、別にファンタジーじゃなくて、良いんじゃない?」と思って(笑)。「ラブコメはどう?」って聞いたら、「1回描いてみます」と描いてくれて。
――1巻のあとがきに描かれている展開は、本当だったんですね。
水瀬 まさに、そんな感じですね。
担当A そのネームが『むすひら』の1話なんです。一発OKでした。
――おー、すごい。
担当A 実は『鬼が来る』を読んだ時も、出てくる高校生のキャラクターがすごく良かった印象があって。なんとか、普通の女の子を描かせる術はないかなと、ずっと思ってたんですよ(笑)。それで、実際に描いてもらったらすごく面白かった。その後は、本当に何の問題もなくて。毎回、ネームもすごく良いですし。
水瀬 自分に、合ってたんでしょうね。
――でも、水瀬さんは、最初に「ラブコメで」と言われた時はどう思われたのですか? 抵抗感もありましたか?
水瀬 女の子を描くのは好きだったので、女の子を描くというのは絶対に外せないと思ってたんですね。それで、私もうっすらと、ファンタジーがダメだったら、普通に高校生の恋愛物でも良いかなって思ってたんですよ。ちょっとパンチラとかもありつつみたいな感じで。そうしたら、担当さんが同じ事を言って下さったので。じゃあ、それで行こうって。
――難しいのかなと思いながらも、ずっと好きで考えてきたファンタジーを、自分で切り捨てる決心はできなかった感じでしょうか?
水瀬 はい。言われて、捨てられましたね(笑)。たぶん、私がめっちゃ若かったら、捨てられなかったと思うんですよ。どうしても描きたいし、面白いって自分だけで思っていたので。でも、いざ連載を始められる。漫画を描くことが仕事になるとなったら、(ファンタジーでは)通用しないなって客観的に見えたので。そこに関しては切り替えてやろうかなって。
――なるほど。ところで、先ほどサラッと「パンチラとかもありつつ」と仰いましたが(笑)。バトル物が好きだったり、パンチラも描きたかったりという少年漫画的な好みは、子供の頃から変わらないのですか?
水瀬 そうですね。特に、少年漫画の中の紅一点が好きだったんですよ。男の子ばかりでバトルしてる中に、一人だけいる女の子。しかも、男の子に守ってもらう立場でなくて、めっちゃ強いみたいなキャラクター。私は、そういう子だけを愛していました(笑)。
――今、バトル物が好きだというお話を聞いて、僕の中で、すごく合点のいったことがあって。
水瀬 え、なんですか?
――4巻の中でヒロインの一人、古屋舞が、空手の板割りを披露する場面がありますよね。あの場面、他のページとは線のタッチも違い、動きにもすごく迫力があって。明らかに、バトル物を描いていた人の絵だなと思ってたんです。少なくとも、ずっとラブコメばかり描いていた人ではないなと。
水瀬 あ、ありがとうございます。ああいう、ザザザって線、好きなんです(笑)。
(丸本大輔)
(part2に続く)