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「聲の形」大今良時がデビュー作『マルドゥック・スクランブル』で光らせていたキレ味

2013年8月8日 11時00分 ライター情報:松浦達也

『マルドゥック・スクランブル』(講談社/原作・冲方丁/漫画・大今良時)

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昨日、週刊少年マガジンでの初連載をスタートさせた『聲の形』の大今良時。受賞作が「問題作」として受け止められ、異例の雑誌に掲載されないキャリアスタートとなった彼女が商業誌デビューを果たしたのは、2009年のことだった。連載デビュー作は、冲方丁の『マルドゥック・スクランブル』のマンガ化だった。

原作となった小説の『マルドゥック・スクランブル』は第24回日本SF大賞受賞作品でもあり、サイバーパンクの王道とも言える作品だ。ちなみにサイバーパンクとはSFの1ジャンルで、人体や意識を機械的もしくは生物的に拡張・改造し、社会ネットワークとつながり、巨大な組織・体制に立ち向かう……というような近未来的モチーフで描かれる。

自分自身の話をすると、僕はこの原作版を読みかけて途中で挫折したことがある。サイバーパンク小説は冒頭から前半で背景や状況、そして機能の説明が入る。例えば小説版『マルドゥック~』の冒頭なら次のような部分だ。

「ほどなくして少女の全身の皮膚感覚が鈍くなっていった。男の手の感触が遠のき、完全な虚脱には至らない程度に体から力が抜けてゆく。全身の関節は圧力を加えられれば動くが、元の位置に戻ろうとする意志を失っていた。柔らかな硬直とでも言うべき状態が訪れ、目に見えぬ薄い殻が少女を覆った。全ては殻の外側で起こることにすぎなくなった。」(『マルドゥック・スクランブル The 1st Compression──圧縮』完全版P24より)

叙情的に見えて、とても丁寧に状況が説明されている。映像化するならこれ以上ないくらいわかりやすいだろう。しかし僕はここで引っかかってしまった。説明の丁寧さに加えて、この段階では正体のわからない「殻」の存在に引っかかってしまい、気づけば『マルドゥック~』は“積ん読タワー”入りしてしまっていた。

しかし今年の2月、『聲の形』のショートレビューを書いた直後、「大今良時」がクレジットされている唯一のコミックス『マルドゥック・スクランブル』を読んだ。受信メディアが変わったせいか、全7をあっという間に読了し、その後久しぶりにページを開いた原作もサクサク読み進めることができた。脳内に“コミックス補助線”が引かれ、瞬時に映像が浮かぶのだ。

この作品について言えば、原作とコミックスでディテールに多少の違いはあれど、ストーリーの大きな流れは同じだ。ポイントは「作画」ではなく「漫画」担当の大今良時という作家の存在にある。

ライター情報

松浦達也

ライター/編集者にして「食べる・つくる・ひもとく」フードアクティビスト。マンガ大賞選考員。著書に『大人の肉ドリル』、『新しい卵ドリル』(ともにマガジンハウス)など

URL:Twitter:@babakikaku_m

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