違う。叶わない夢もあるんじゃないかな。
ぼくはそう、ドルバッキーに教わりました。
「小さな恋のメロディ」で愛し合った少年少女は、二人でラスト逃亡し感動を呼びました。
でもあのトロッコどこにもいけないじゃない。
お金もないし、線路だってどこまで続いているのやら。結局帰ってくるか、どこかで朽ち果てるか、地獄行きかのどれかなんだよ。
そうオーケンに教えてもらいました。いい免疫になったよ。
やりきれないね、と苦笑できるようになったら、大人になっちゃったんだなあとしみじみ感じる。
ぼくはまだそれをブルースにして笑える域には達していません。
子供の頃はなんだってできると思っていたものです。あの万能感、今思えば羨ましいよ、自分が。
けれども「どうやったってできない」ことに出会い、泣いて、泣き止んだら諦めるしかない。
尾崎かおりの『神様がうそをつく。』は、少年少女の健気で真っ直ぐな生き方と、それを引き裂いていく残酷な現実を描いたマンガ。
読み終わった後の胸くその悪さったらない。
なんでだよ、どうしてだよ、納得いかないよ。そんな感情のオンパレード。
でも僕がどうあがいても、この二人が思った通り幸せになれるわけじゃない。
まず主人公の少年、小学六年生の七尾なつるの境遇が、ガツンとくる。
サッカー選手を夢見る、明るく元気な少年です。
父はガンで亡くなっています。
別にそれをいつも気に病んでいるわけじゃないんですが、デリカシーの欠片もない新しいサッカーのコーチにずけずけと踏み込まれ、心の繊細な部分を傷つけられてしまいます。
しかも、大好きだった前のサッカーのおじさんコーチは、……ガンで入院中。
なんだよ。
怒ることも、泣くこともできないじゃないか。どうしろっていうんだ。
振り上げた拳の行き場がないどころか、拳振り上げようもなく、モヤモヤする。
その後、彼が拾ったネコを預けた同級生の少女、鈴村理生の境遇はさらにガツンとくる。
弟とボロ屋にすんでいて、母は失踪、父もアラスカに出稼ぎにいっている苦しい生活の子。
いや、その生活おかしいだろう? 小学生だって分かるよ。
わかるけど、言えない。そもそも子供だけの生活が公になれば施設送り。
サッカーの合宿がいやで逃げ出したなつるは、ワケアリな理生の家に泊まることになります。
理生とその弟と、なつるの、小学校最後の夏休み。
短い期間ですが、しっかりもののなつると理生は、お互いモヤモヤを抱えながら、一瞬の楽しい夏休みを過ごします。
特別なことはないんです。普通である幸せ、というだけなんです。
特にお祭りのシーンは、眩しくて仕方がない。
貧乏な子ですから、お金なんてないですよ。でも3人で行ったお祭りは、まるで夢の世界のようでさ。
途中雨が降ってきて、理生は言います。
「大人になったらさ、こんな所で濡れながら、雷見てたら、おかしな人だと思われるよね。だから今のうちに、濡れていようよ」
浴衣姿で、無力な子供であることを理解しつつそれを精一杯噛み締め、雨に濡れる理生。
あまりにも美しくて、恋に落ちるには十二分でしょう。
彼女のために何かできないのか。できるかもしれない。
そう思うのも、当然でしょう?
子供の頃は、色んな物が輝いて見えるのです。
恋だってちゃんとします。その子のためならなんだってできる、やってやるんだって、思うものです。
でも、どうだ。できないでしょう? できないんだよ。
物語は後半、理生が隠していたもう一つの大きすぎる問題が発覚。
現実は結局、子供の意志と努力ごときでは、どうにもならないことがまざまざと見せつけられます。
お祭りで最高潮まで上り詰めた二人のささやかな希望が、何もかもものすごい勢いで崩れます。
なつるは叫びます。
「悪いことだってわかってても、それしかできない時って、どうしたらいいの!? どうしたらよかったんだよ!? 他にどうしたら……」
このマンガのすごいところは、子供の目から見て理不尽な人間達が、なんの制裁もされないことです。
大抵の場合、因果応報でひどい目にあったりするんですが、あわないんです。そういう勧善懲悪的なものはありません。
哀しい目にあうのは、なつると理生。
世の中図々しい奴が必ずしもひどい目にあうかっていったら、そうじゃない。
もっとも、そんなずるい大人側にいるのが自分なんじゃないかとゾクリとしますが。
夢は必ずしもかなうわけではない。
理想には必ずしも到達できない。
徹底してシビアに描かれるこの物語、子供視点なので泣くに泣けない変な気持ちでパンパンになります。泣いてすむならいいのに。
だから、タイトルは「神様がうそをつく。」。
ただ。ただね。
夢はかなわないかもしれないけど、夢をかなえるために頑張ったことは、別の方法でプラスになるんじゃないか、とは思う。
思いたい。
このマンガのラスト、人によってはバッドエンドでしょう。しかし見る人によってはハッピーエンドでもあります。
一巻で見事にまとまっているので、是非読んで確かめて下さい。
多分その日の気分でラストシーンの見え方、変わります。
理想通りじゃないかもしれないけど、何かが予想外に転ぶこともある。
ラストのネコのシーンは必見です。
だから、タイトルは「神様がうそをつく。」。
(たまごまご)