ハナコが「キングオブコント王者」に輝き、霜降り明星が「M-1」を制し……お笑い界を席巻する、20代芸人たち。いわゆる「お笑い第7世代」だ。
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――いま最も注目されている「お笑い第7世代」のお2人に、この世代のお笑い観について語っていただこうというのが今日のテーマなのですが……。
宮下 お笑い観……。
草薙 すごい恥ずかしいやつ……。
――確かに。これはやめときましょう。出会いは養成所で、でも宮下さんはピンで、草薙さんはコンビで活動されてたんですよね。
宮下 僕は「養成所内で間違いなく自分が一番面白い」と思ってたんですけど、最初に草薙を見た時に「あ、売れるのってこういうやつだな」って。自分みたいな尖ってるタイプより、こういう本当にキャラの強い人が売れると。まぁ、掘ってみたらすごいセンスもあったんで。
草薙 語ってます、語ってますよね。
宮下 仕事だぞ。本当は俺だって言いたくないよ!
――草薙さんも語ってください。
草薙 恥ずかしい。
宮下 こいつマジひどいんですよ、こういうところ。
草薙 だって、僕はもともと『ごっつ』(『ダウンタウンのごっつええ感じ』/フジテレビ系)すら見たことなくて。それこそ『はねるのトびら』とか『爆笑レッドシアター』(同)とかくらいで。相方は志村けんさんから当時の若手まで、全部見てた。
――ミスターストイック。
草薙 組んでからいろいろ見させられて「あ、ダウンタウンさんって漫才やってたんだ」って知りました。
――コンビを組もうと誘ったのは宮下さん?
宮下 そうです。草薙が前のコンビを解散した時に芸人やめそうだったんで、もったいないなと思って。
草薙 前の相方が「モデルの養成所行く」って言いだしたんですよ。
――モデル事務所!?
草薙 芸人にしてはまぁ……シュッとしたほうだったかもしれない。りゅうちぇるさんとかが出てきた時で、モデルだったら売れるって思ったみたい。
――宮下さんは、お笑いに関してめちゃめちゃストイックじゃないですか。そのあたり、不安はなかったですか?
草薙 最初は、ずっとケンカしてましたね。全然合わなかったんで。なんかわけわかんない街ブラの練習とかさせられたり。
――街ブラロケの?
草薙 もう5年ぐらい住んでる近所を、初見みたいな感じで歩かされたり。
宮下 『モヤさま』(『モヤモヤさまぁ~ず2』/テレビ東京系)です。
――—宮下さんが、草薙さんにお笑いを教えていった?
宮下 いや、教えるってほどじゃないんですけど、最低でもこれくらいは見とかないと始まんないぞと。そもそも、なんで有名なお笑い番組も知らなくてこの世界に入ってきたのかが、よくわかんなかった。
草薙 僕も面白くてびっくりしました(笑)。本当、はんにゃさんが一番面白いと思ってたんですよ。いや、今でも好きですけど。でも、ダウンタウンさんが2人でしゃべってるやつとか「なんかすげぇ」みたいな。めちゃめちゃ面白いし「あれ? 危な!」とも思った。
――「危な」というのは?
草薙 これ知らないまんまいくとこだったと(笑)。
――宮下さんに感謝ですね。
宮下 そうですね(うなずく)。
――(笑)。宮下さんは、何がきっかけでお笑い好きになったんですか?
宮下 ……やだなぁ、こいつの隣でそういうの語るの。
草薙 ……言ってみな。
宮下 子どもの頃から人を笑わすのが好きで。うちの両親、めちゃめちゃケンカが多かったんですよ。よく家庭内がシリアスな場面になるんですけど、そこで僕が笑わせるとケンカが丸く収まったりして。たぶん、それが僕の……。
――原点……。
宮下 ルーツ。
草薙 (ニヤニヤ)
――確か、宮下さんは、お父さんがめっちゃ怖いんですよね。
宮下 そうですね。オヤジは結構ヤンチャやってたんで。
――自分もヤンチャな方面に引っ張られる感じはなかったんですか?
宮下 母親もすごい幼い人というか、自分のことをお姫様だと思ってるような女性で。本当に親を反面教師として僕は育ちました(笑)。この人たちみたいには絶対なりたくない。だから、教育されたことはないんです、僕。
――お笑いに救われたという感じですか?
宮下 そうですね。お笑いがあってよかったなと思ってます。でも、ピンでやってても絶対今みたいな状況にはなってないんで、本当に飛び道具として出てってくれる草薙はありがたいです。
――草薙さんは、どういうきっかけでお笑いの道に?
草薙 高校やめちゃって、通信(高校)通いながら、ゴミ収集車乗ってゴミ集めたり、警備員やったり、宅配の仕事やったり、いろいろしたんですけど、全部本当に続かなくて。1カ月、続いて3カ月ぐらい。で、通信を卒業するってなった時に、することがなんにもなかった。それでとりあえず……お笑い好きだったんで、とりあえず養成所受けて……。
――新しい学校に行く感覚で。
草薙 テレビで島田紳助さんが言ってたんです。『ヘキサゴン』(『クイズ!ヘキサゴンII』/フジテレビ系)だったかな、「来いよ」って。こう、なんていうんですか、あんまり勉強ができない人たちが活躍されてたじゃないですか。
――「おバカタレント」ブームありましたね。
草薙 紳助さんが「テレビ見てるこういうやつらは来いよ!!」みたいに言ってたんですよ。
――テレビを通して。
草薙 語りかけてきたんです。俺、頭悪いから「おお」って思って。
宮下 お前に言ってると思った?
草薙 うん。だけど、NSC(吉本総合芸能学院)受けたら落ちた。
――まさかの。
草薙 養成所に入ってからどうなるかはわからないと思ってましたけど、まさか養成所落ちるとは考えてなかった。
――レアケースかもしれない。
草薙 それで、ほぼなんの説明も見ずに太田プロのスクール(太田プロエンタテイメント学院東京校)に応募しました。
――太田プロじゃなかったら、お2人は出会ってないわけですもんね。宮下さんは、NSCに行こうとは思わなかったんですか?
宮下 思わなかったです。そこはわりとコイツと似てるのかなと思うんですけど。あんまりガチャガチャしたノリが苦手で。養成所で「自分の殻を破ろう」みたいな授業があったんです。みんなで爆弾になって爆発する、丸まってバーンッみたいな。それが嫌で、トイレにこもってたんですよ、その時間。で、その時隣のトイレに誰か入ってて。後から話聞いたらコイツだった(笑)。
草薙 僕も受けたくなくて。
宮下 根本はすげぇ似てるというか。
草薙 馴染めなかった。授業終わると飲みに行く人もたくさんいたんですけど、僕らは誘われなくて。そんなんで仲良くなった。
宮下 人間性は結構似てる。
――いま草薙さんは「ネガティブキレキャラ」という新ジャンルを開拓されていますが、そのネガティブさはいつぐらいから始まったんですか?
草薙 子どもの頃からずっとです。いいことがなんにもなかったんですよね。本当かろうじて生きてきて。いつも1人で遊んでましたね。友達いなかったんで。それこそこの前、初めてスピードワゴンさんの番組で人とボードゲームをやった。
――それまでは1人で……?
草薙 1人でトランプやってました。
――みんなでやるボードゲーム……楽しかったですか?
草薙 楽しかったですね。ただ……楽しいんだろうなって予想はしてたんで。「うわぁ、すごい楽しいぞ」って感じではなかった。そもそも周りに人がいなかったので、暗いと指摘されることもなかったんですよ。養成所入って初めて「暗いなぁ」って言われて、そうなのかと。
――宮下さんは、そのネガティブさが面白いと思ったんですか?
宮下 そうですね、最初に見たネタは、そんなネガティブっていう感じでもなかった。暗いっちゃ暗いんですけど。
草薙 小学校の頃、急に学校でお弁当が必要になったことがあって、でもお弁当箱がなかったんですよ。で、すごい探してやっと見つけたのが、幼稚園の時のお弁当箱だったんです。フタにサンリオのキャラクターの絵が描いてあるやつ。僕、それちょっと嫌だなって思って、深夜に工具箱のマイナスドライバー出して、サンリオのプリントだけこうやって削って。その話をしたらすごい笑ってくれたんですよ、コイツ。あ、やりやすいな、これウケるんだって思いました。
――宮下さん覚えてます?
宮下 はいはい。僕らのライブ、本当に最初ウケなかった。やってることは今と大きくそんなに違わないのに。
草薙 「暗すぎて怖い」ってアンケートに書かれてた。
――あんまり聞いたことないですよね、「暗すぎて怖い」。
宮下 確かに、お笑いで教わったことには反してきましたよ。お笑いでやっちゃいけないってことを、ずっとやってきた。こんなにたどたどしく話ちゃダメだし、もっとテンポよくしないといけないけど。
草薙 できなかったんで。
宮下 逆にそれがなんか個性になって、ほかと比べられなくなったから世に出れたんじゃないですか? テンポの漫才でやってたら、霜降り明星さんに勝てるわけないし。信じてやってきてよかったです。
――お2人の関係って、ちょっと編集者と書き手に似てるのかも。編集者は「読むプロ」で、読者に怒られても「読むプロが『面白い』って言ってくれたから大丈夫だ」っていうのが、ライターの心の支えになるんです。宮下さんが編集者で、草薙さんが書き手とすると。
草薙 そうですね。どんなにこっちが一生懸命作ったものでも、つまんないものはちゃんと「つまんない」って言ってくれるんで。そこはオーソドックスだから、逆に安心しますね。
宮下 僕コンビ組んだ時、「じゃない方」になる覚悟はあったんです。ただ最近思うのは「じゃない方」になるほど無個性でもないんだよな俺、って。自分で思ってるよりヤバいやつみたいなので、そこは二の矢になれればいいかな。
――冷静に分析されてますね。
草薙 後付け……これたぶん後付だと思うんですよね。だって、そんなの聞いたことないよ。
宮下 お前にプラン言ったところでね、計画通りに行えないでしょう。
草薙 いや……。
宮下 営業もそんな得意じゃないんで。なんとかテレビで食ってくしかない。
草薙 めちゃめちゃスベりました、この間営業行って。めちゃめちゃスベりましたよ。
――そんなに……?
草薙 わりとみんなワーッて出ていって「僕らのこと知ってる方~?」みたいな感じでいって、そこからネタをやるんです。ネタもいわゆる営業用のネタというか、わかりやすいやつを。
――おなじみのやつを。
草薙 それなのに僕ら「僕らのこと知ってる方~?」もやらず、いきなりネタを……しかも、一昨年ぐらいの『M-1』の予選でやったゴリゴリのやつを出ていってやって。本当誰も聞いてくれない、みたいな。それ7分ぐらいやって……7分後ぐらいに「僕らのこと知ってる人~?」って最後に聞くっていう。わけわかんない、パニックになって。
――宮下草薙を知らない方が多かった?
草薙 いや、まあまあみんな知っててくれてて。それでスベるんかいっていう。
――(笑)
宮下 うん、俺は「(ネタ前のトークを)やろう」って言ったんですけど、こいつが「やりたくない」って言ったんで。
草薙 恥ずかしい。お前やってくれよ。
宮下 いやいやいや、それは見づらいでしょ。お前がやって、全然できないところに「お前できねぇじゃねぇか」っていうのが一番わかりやすいだろ。
草薙 楽な仕事だよ。ツッコミなんて。
宮下 ちゃんと仕事は果たしてますよ。
草薙 お前はボケない。楽な仕事だよ、本当に!
――本当に仲がいいんですね(笑)。
草薙 ないです、全然。何も出ないです。何が欲しいんですか? 「仲がいい」が欲しいんですか??
――いや、特に何も考えずに言いました。
草薙 何が正解か……わかんない……仲が……仲いいが欲しいか……。
――草薙さん! 大丈夫です!
草薙 でも、その……ずるいポジションを取ってますよね、最近なんか宮下は。お父さんポジションというか。EXITのりんたろー。さんもやってるやつ。
宮下 りんたろー。さんのそのポジションは取ってないよ、俺は。
草薙 あのポジションの取り方はずるいなって、兼近くんとよく話してます。
――宮下さんは、仲のいい芸人さんと飲みに行ったりするんですか?
宮下 僕は飲みがまぁ苦手なので。唯一芸人の中でLINE知ってるのはトム・ブラウンの布川さんぐらい。
――そこは何きっかけで?
宮下 ライブで一緒になることが多くて、そこでお話しするようになって。すごい話しやすい人で、本当にふざけてくるんですよ。ちゃんとこっちがタメ口でツッコめるような空気を作ってくれる。
草薙 お前、普段は『遊戯王』しかやってないから。
宮下 なんか芸人に素性を知られたくないんですよ。口軽いやつしかいないんで。あいつあんなこと言ってた、こんなことやってた、ってすぐ言うんですよ。
草薙 芸人が嫌いなんですよ。
――売れてる先輩と飲みにいって仲良くなってテレビに出る、みたいなことは考えないですか?
宮下 そんなことで仕事ってもらえるんですかね? 知ってたら行きますけど。「仕事をもらえる飲み会だよ」って言われたら、頑張って行くんですけど……。俺たち合コンも行かないし、浮いたウワサひとつない、珍しいコンビだなぁって思います。
――しかし、ネットで「草薙さんかわいい」っておっしゃってる方多いんですよ。
草薙 これ大丈夫かな……教えちゃって。
宮下 いいよ、全然。
草薙 俺好きなやつ……変なんですよ。
宮下 確かにな。
草薙 だって女の人どころか、お客さんが来たことなくて、ライブに。ノルマ制のライブは、場当たり終わってから変装してお客さんの列並んで「宮下草薙で2枚ください」って。
宮下 そうそう、お客さんのフリして。
草薙 自分たちでチケット買ってた。今はそれしなくていいのはありがたいですが、かわいくはない。
――ネガティブ漫才という、ネタの方向性が認知されてきて。これからもそのやり方で行くのか、それとも変えようと思っていますか?
宮下 できるところまでやりたいですよね。このネガティブな想像はすごい面白いし。でも、売れてない時期は「今度バイトしようかと思ってるんだけど」みたいな形は成立しやすいけど、だんだんそれはできづらくなってくる。
草薙 ネガティブに作ってるつもりは……ないんですけどね。
宮下 結構ウケてるんだから、ある程度自覚はあると思うんですけどね。さすがにこれだけやってたら。
草薙 なんの自覚?
宮下 いや、ネガティブな自分ウケてんなぁって。
草薙 だって、作ったネタの原稿全部送るんで。で、こいつが「これ残しで、これ消して」みたいなことやる。それは全然変わんないですけどね。
――本当、編集者みたいですよね。
草薙 ちゃんとやってんのかな、あれ。すごい速いんですよ、選ぶのが。
――敏腕編集者は、パッと見ればすぐわかるらしいですよ。
宮下 そうですね(ニヤリ)。
(取材・文=西澤千央)