ベントレーとは何か? その茫洋たるテーマについて、手短に書き記すことは容易ではない。ヒントは過去と現在を結びつけるモデルネームや、ブランドを代表するデザインに込められているように思える。
2003年に登場し、現在では3代目へと進化を遂げているコンチネンタルGT。この優雅な2ドアクーペは、現在ではGTレースでも活躍するアクティブなモデルとして知られている。コンチネンタルという言葉の訳は「ヨーロッパ風、大陸的」というもの。だが深堀りしていくと、「島国イギリスから見た場合の」という視点が追加されたものであることがわかる。
ドーバー海峡を渡った先にあるイギリスから最も近い「コンチネンタル」で行われる耐久レース。草創期のベントレーがその名を上げたル・マン24時間レースは、自らの持つ性能を高らかに宣言するための格好のステージだったというわけである。
コンチネンタルを名乗る歴代ベントレーの中でも最も印象深く、伝説的に語り継がれてきた1台がRタイプ・コンチネンタルである。1950年代に誕生したこの車は、パワートレインとアクスルを組み合わせたローリングシャシーをベントレーが供給し、注文主が好みのコーチビルダー(ボディ架装業者)に持ち込んで自らの好みを反映させて仕上げるという伝統的なスタイルをとっていた。
ロールス・ロイス傘下で逡巡していたベントレーが自らの個性を再定義するきっかけにもなったRタイプ・コンチネンタル。この豪奢な2ドア、4シーター・クーペの格式のようなものを今日の車に当てはめることは難しいのだが、その顧客リストに王侯貴族や大富豪、実業家といった著名人がずらりと名を連ねていたといえば、おおよその空気感が伝わるだろうか。
時を彩った彼らは、ロンドンの街中で靴やスーツを誂えるのと同じように、ジャック・バークレーのような老舗のディーラーでRタイプ・コンチネンタルを注文し、コーチビルダーとしてH.J.マリナーを指名し、グランドツーリングに思いを馳せたのである。
2003年にベントレーがコンチネンタルGTを発表したとき、黒地に新旧2台のベントレー・コンチネンタルのサイドシルエットが描かれた画像が話題を呼んだ。突き進む流体のような前後のフェンダーラインと、眉のようなカーブを描き収束していくルーフライン。実にシンプルな線画であるにも関わらず、それが指し示す事実は誰の目にも明らかだった。
すこぶるパワフルなW12エンジンと最先端の4駆システムによる圧倒的な動力性能を核とするコンチネンタルGT。この車が秘めた世界観は直列6気筒エンジンとFRレイアウトを持った半世紀ほど前のRタイプ・コンチネンタルのそれと変わらない。いつの時代もベントレー・コンチネンタルは、豪奢でしかし滋味深い、グランドツーリングを実現するための手段に他ならないのである。
だが銘車中の銘車といわれるRタイプ・コンチネンタルにもデザイン上のモチーフは存在している。それが戦前のベントレーであることは言うまでもないだろう。
戦前に端を発する歴代のベントレーのデザインには何ひとつ突飛なものはなく、ことほど左様に全ては一本の線でつながっているのである。ではこのメイクスの未来はどうか?
ベントレーはつい先ごろ、ブランドの創立100周年を盛大に祝い、その席で2035年のラグジュアリーモビリティーを具現化したコンセプトカー、EXP100GTを提示した。当然のようにフル電動化され、自動運転が可能になっており、AI(人工知能)が乗り手の意思を汲む。素材に関しても先進的だが、しかしサステナブルであることに重きが置かれている。
世紀を挟んだ生産車のスタイリングに一本筋が通っているように、未来のベントレーが目指す世界観も来し方と大きく変わらないだろう。それはいつの時代も、伝統を踏まえた、粋人のためのグランドツアラーに他ならないのである。
ベントレーとは何かという問いの答えは、コンチネンタルGTに代表される、全てのベントレーのスタイリングと様式美によって体現し続けられているのである。