
なかでもいちばん衝撃だったのは、件の「チョコレート味噌汁」で、31歳にもなって、いまだにその未知の味を知りたいという思いと、知ってはいけないという思いの間をいったりきたりしている。そんな呪縛から解放されるには、実際に作ってみるしかない…というわけで、長年の思いをかけ、勇気を出して再現してみた。
といっても、作り方はマンガには全然のってなかった(はず)ので、とりあえずチョコレートと比較的相性がよさそうな具材を検討し、まったりとろりの風味が似合いそうな「なめこ汁」を選んだ。
まず昆布、かつおぶしで出汁をとり、なめこ汁を普通に完成。お椀に注ぎ、アクセントとして(?)ミルクチョコレートの板チョコを4片ほど加えて混ぜてみた。味噌汁の中で、茶褐色がぐるぐる螺旋を描き、溶けていく。と、同時に、むせ返るような甘いニオイがたちこめてくる。
色がほどよく均一になったところで、飲んでみた。ツンとする甘いニオイ(ってのもへんな表現だけど)の次に、甘さ、しょっぱさが別々に口に広がる。甘くてしょっぱい、へんな味。味噌で甘く煮る料理「鯉こく」の遠い遠い不愉快な親戚のような感じもする(鯉こくが好きな人、ゴメンナサイ!)
甘いミルクチョコがいけないのかと、次に同じ割合で、ブラックの板チョコで試してみた。ミルクチョコバージョンより甘さ控えめで、若干スッキリした飲み心地ではあるが、しょっぱさが際立ち、さらに不味い。
この味噌とチョコの「ケンカ状態」を少しでも解消するには…と、今度は、「あとのせ」方式でなく、小鍋で一緒に煮てみることにした。これで案外、仲直りしちゃったりして。
火にかけたことで、しょっぱいニオイとからまり、甘ったるいニオイが強烈に部屋中に漂う。地獄ってこんな感じだったりするでしょうか。
これを口に含むと…驚いたことに、原点の味噌汁の出汁に使った鰹節のニオイがふいに分離・独立し、飛び出してくる感じがした。味噌と、カツオブシと、なめこと、チョコレート、すべてがケンカ別れし、思い思いの方向に旅立った感じ。火にかけたことで、いったい何がおこってしまったのか。
あさりちゃんの「チョコレート味噌汁」は、すべての材料を絶縁させる強力な代物だった。未知の味には違いない…。(田幸和歌子)