6月4日、英国の教育調査機関Quacquarelli Symonds(以下、QS)が「QS世界大学ランキング2025」を発表した。今年は105の教育システムから1,500を超える大学を対象に評価し、新たに「雇用可能性(Employability)」と「サステナビリティ(Sustainability)」の指標が正式導入された。
2位に躍進したインペリアル・カレッジ・ロンドン(英国)は、理工系分野に特化し、国際共同研究の数と質の両方で高い評価を得ており、雇用可能性スコアの上昇も顕著だ。
オックスフォード大学(英国)は研究、教育、公共貢献の全領域で高水準のバランスを保ち、パンデミック以降は生命科学分野で特に注目を集めている。
ハーバード大学(米国)は法学、医学、ビジネスといった分野で圧倒的な存在感を誇り、研究論文の被引用数でも常にトップクラスだ。
ケンブリッジ大学(英国)は数学や物理学の分野で世界的に名高く、ノーベル賞級の研究者を多数輩出してきた伝統と実績が現在も評価されている。
7位 ETHチューリッヒ(スイス)
8位 シンガポール国立大学(NUS)(シンガポール)
9位 ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)(英国)
10位 カリフォルニア工科大学(Caltech)(米国)
非英語圏から唯一トップ10入りを果たしたETHチューリッヒ(スイス連邦工科大学)は、欧州における理工系教育の頂点に立つ存在だ。EUとの研究連携やサステナビリティ関連分野でのリーダーシップが高く評価され、教育の実践性と研究の社会的貢献が際立っている。
北京大学は14位と、前年から順位を上げた。特にAI、材料科学、社会科学など幅広い分野での国際共同研究が活性化しており、英語での論文発信や高い被引用数も評価されている。
清華大学(20位)は、工学・情報通信分野において世界をリードしており、政府との連携による研究資金の投入と、スタートアップ育成への注力が成果に直結した。
復旦大学(39位)は、医学・生命科学を中心に欧米との国際連携を強化しており、グローバル人材の育成にも力を入れている。
上海交通大学(45位)は、都市工学・輸送・ロジスティクスといった分野での実学志向が評価されており、国際学生受け入れ制度の整備も進んでいる。
浙江大学(47位)は、スマート製造、新素材、環境エンジニアリングといった領域で政府の研究助成を集中的に獲得し、論文数・引用数ともに急増中だ。
QSが重視する国際教員比率、外国人学生の割合、英語論文数、国際共同研究といった評価項目で、日本の大学は伸び悩みが続いている。また、研究費の減少や設備老朽化といった問題も、長期的な研究力の低下につながっている。
特に東京大学と京都大学は、国内においては高い評価を維持しているが、グローバル水準での競争となると、「世界とのつながり」における戦略の遅れが顕著となっている。語学教育の不十分さや、教職員の国際化が進んでいない点も指摘されている。
一方で、東京工業大学は理工系に特化した研究体制と、企業との実践的な連携が成果をあげており、わずかではあるが国際的な存在感を高めている。だがこれは例外的な成功にとどまり、日本全体としての「研究大国」としての姿は揺らぎつつある。
とはいえ、英語圏優位や理工系重視といったバイアスが存在するのも事実であり、ランキングを絶対視するのではなく、「参考情報のひとつ」として捉えることが重要である。
世界は確実に変わっている。その変化にどう応えるか、日本の大学が次に試される番だ。
<出典・参考>
QS公式ランキング:https://www.topuniversities.com/world-university-rankings
文:岡徳之(Livit)
この変化により、大学の教育・研究の質だけでなく、社会的影響力や卒業後の進路へも評価の軸が広がった。
世界トップ10の構図:米英の牙城は堅固も、非英語圏が挑戦
同ランキングでは、マサチューセッツ工科大学(MIT)が13年連続の首位を獲得。続いてインペリアル・カレッジ・ロンドンが2位へと大きく順位を伸ばし、オックスフォード大学(3位)、ハーバード大学(4位)、ケンブリッジ大学(5位)と続いた。トップ5大学の強み
マサチューセッツ工科大学(MIT/米国)は、AI、宇宙工学、クリーンテックなど先端研究分野で圧倒的な成果を挙げており、産学連携やスタートアップ創出支援の体制が極めて強力で、13年連続で首位を維持している。2位に躍進したインペリアル・カレッジ・ロンドン(英国)は、理工系分野に特化し、国際共同研究の数と質の両方で高い評価を得ており、雇用可能性スコアの上昇も顕著だ。
オックスフォード大学(英国)は研究、教育、公共貢献の全領域で高水準のバランスを保ち、パンデミック以降は生命科学分野で特に注目を集めている。
ハーバード大学(米国)は法学、医学、ビジネスといった分野で圧倒的な存在感を誇り、研究論文の被引用数でも常にトップクラスだ。
ケンブリッジ大学(英国)は数学や物理学の分野で世界的に名高く、ノーベル賞級の研究者を多数輩出してきた伝統と実績が現在も評価されている。
6~10位のランキング
6位 スタンフォード大学(米国)7位 ETHチューリッヒ(スイス)
8位 シンガポール国立大学(NUS)(シンガポール)
9位 ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)(英国)
10位 カリフォルニア工科大学(Caltech)(米国)
アジアと欧州の台頭:中国とシンガポールの戦略が実を結ぶ
アジア最高位の8位にランクインしたシンガポール国立大学(NUS)は、国策として進められてきた教育改革と、産業界との連携体制の強化により国際的な評価を高めてきた。教育の質、研究の深度、そして雇用可能性の指標すべてにおいて高得点を記録しており、グローバルな人材輩出機関としての役割を果たしている。非英語圏から唯一トップ10入りを果たしたETHチューリッヒ(スイス連邦工科大学)は、欧州における理工系教育の頂点に立つ存在だ。EUとの研究連携やサステナビリティ関連分野でのリーダーシップが高く評価され、教育の実践性と研究の社会的貢献が際立っている。
中国の大学が順位を大きく上げた理由
中国の大学群の存在感は年々高まっており、今年はその傾向がさらに強まった。北京大学は14位と、前年から順位を上げた。特にAI、材料科学、社会科学など幅広い分野での国際共同研究が活性化しており、英語での論文発信や高い被引用数も評価されている。
清華大学(20位)は、工学・情報通信分野において世界をリードしており、政府との連携による研究資金の投入と、スタートアップ育成への注力が成果に直結した。
復旦大学(39位)は、医学・生命科学を中心に欧米との国際連携を強化しており、グローバル人材の育成にも力を入れている。
上海交通大学(45位)は、都市工学・輸送・ロジスティクスといった分野での実学志向が評価されており、国際学生受け入れ制度の整備も進んでいる。
浙江大学(47位)は、スマート製造、新素材、環境エンジニアリングといった領域で政府の研究助成を集中的に獲得し、論文数・引用数ともに急増中だ。
日本の大学の現状:後退する“研究大国”
日本の大学は、多くの主要校が前年より順位を落とす結果となった。東京大学は前回の28位から32位へ、京都大学は46位から50位へと後退。東京工業大学は91位から84位へと順位を上げたものの、大阪大学は前年と同じ86位にとどまり、全体として日本の大学のプレゼンスは縮小傾向にある。QSが重視する国際教員比率、外国人学生の割合、英語論文数、国際共同研究といった評価項目で、日本の大学は伸び悩みが続いている。また、研究費の減少や設備老朽化といった問題も、長期的な研究力の低下につながっている。
特に東京大学と京都大学は、国内においては高い評価を維持しているが、グローバル水準での競争となると、「世界とのつながり」における戦略の遅れが顕著となっている。語学教育の不十分さや、教職員の国際化が進んでいない点も指摘されている。
一方で、東京工業大学は理工系に特化した研究体制と、企業との実践的な連携が成果をあげており、わずかではあるが国際的な存在感を高めている。だがこれは例外的な成功にとどまり、日本全体としての「研究大国」としての姿は揺らぎつつある。
QS世界大学ランキングの意義と今後の展望
QS世界大学ランキングは、大学の国際的な評価を示す指標として、世界中の学生や教育関係者、企業から注目されている。特に雇用可能性やサステナビリティといった新しい指標の導入により、大学の社会的価値が一層問われるようになった。とはいえ、英語圏優位や理工系重視といったバイアスが存在するのも事実であり、ランキングを絶対視するのではなく、「参考情報のひとつ」として捉えることが重要である。
日本の大学は世界とどう向き合うのか
QS世界大学ランキングは、単なる数字ではなく、世界の大学がどのような未来に向けて進もうとしているのかを示す鏡でもある。研究力だけではなく、社会課題への対応、国際的な人材流動性、そして教育の革新性が評価される時代に、日本の大学が再び存在感を発揮するには、構造的な変革が求められる。世界は確実に変わっている。その変化にどう応えるか、日本の大学が次に試される番だ。
<出典・参考>
QS公式ランキング:https://www.topuniversities.com/world-university-rankings
文:岡徳之(Livit)
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