ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム「報道部畑中デスクの独り言」(第435回)

■日産、国内市場で久々の新型車投入、それは軽自動車

「日産復活のカギを握る重要なモデルです」

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日産から国内市場に久々の新型車「ルークス」

東京・秋葉原のイベントスペース。お盆休みが明けて、8月22日、日産は新型車「ルークス」を発表しました。日産としては約3年ぶりの国内市場への新型車投入となります。

私が小さいころは、お盆休みが終わると「秋の商戦」とばかりに各社から新車が次々と発表され、週末の新聞はクルマの広告で埋め尽くされたものです。お盆明けの新車発表、少し懐かしくも感じました。

さて、この「ルークス」、軽自動車のスーパーハイトワゴンというジャンルに属するクルマです。車体の先に超広角のカメラを設置し、運転席の死角にあるものを映し出すなどの安全機能が目玉です。発表会にはイメージキャラクターの俳優・仲里依紗さんも登場し、車両のディスプレイに、別の車両の陰に隠れた仲さんを映し出すデモンストレーションもありました。

ルークスは今年秋に発売予定で、日産はこのクルマをきっかけに国内市場を立て直したい考えです。一方で日産自身が考える「日産らしさ」について、日本市場担当の杉本全執行役にききました。

「クルマへのこだわりが我々の強み。単に新しい技術ということではなくて、日常の中で生きる技術を日産として皆様に提供する。開発・販売・生産の現場、一緒になってやっていきたい」

ルークスについても日産らしさは「もちろん満たしている」と胸を張りました。

国内の軽自動車市場は現在も激化しています。そこに中国のEV(電気自動車)メーカー、BYDが参入すると言われています。

杉本執行役は次のように語ります。

「大歓迎。BYD含めてほかのクルマと戦って勝っていくという自信をもって投入する」

2026年にかけて、日産は国内市場にリーフ、エルグランド、キックスを投入する予定です。シェアの拡大につながるかが注目されます。

日産復活はあるのか?【3】 提携のカギは軽自動車?
安全装備に関するデモンストレーション 左端には仲里依紗さん

安全装備に関するデモンストレーション 左端には仲里依紗さん

■軽自動車、生産拠点をめぐる駆け引き、これからも……?

ところで、軽自動車は国内市場で約40%のシェアを占めます。日本の道路では極めて使いやすく、もはや「国民車」と言っていいほどの存在です。それだけに競争も激しいわけですが、実は利益面では「うま味」が少ないのが現状です。

自動車専門誌「マガジンX」の神領貢編集長によれば、軽自動車と、それ以外の「登録車」ではコスト面の違いはあまりないと言います。廉価な軽自動車はそれだけ利幅が少ないというわけで、軽自動車主体のスズキ、ダイハツはもちろんのこと、各社は利益を得るために様々な工夫をしています。中でも日産と三菱自動車はNMKVという合弁会社をつくり、軽自動車を共同開発、生産は岡山県にある三菱自動車の水島製作所が担っています。一方、ホンダは軽自動車を三重県の鈴鹿製作所で生産しています。

一度打ち切りになったホンダと日産の経営統合協議の際、この軽自動車の生産拠点が俎上に上ったと、神領編集長は指摘します。

ホンダは合流できれば、鈴鹿、水島でそれぞれ担っている生産拠点を将来「鈴鹿に統合したい」という意向を示す一方、日産は追浜工場の生産集約を対案として挙げたというのです。この「追浜統合案」については、私も日産関係者に取材したところ、こうした動きがあったことを認めました。結局、追浜工場については車両生産終了の方針が発表されましたが、日産がギリギリまで追浜工場の維持を模索していたことがみてとれます。

ホンダと日産の統合協議が打ち切りになったことで、この話は立ち消えになりましたが、前回の小欄で神領編集長が“予言”したホンダ・日産の資本提携交渉が復活すれば、軽の生産拠点統合の話がまたぞろ出てくる可能性はあります。

日産復活はあるのか?【3】 提携のカギは軽自動車?
新型ルークスの運転席

新型ルークスの運転席

一方、中国・BYDが軽自動車市場参入の可能性については先にお伝えしました。神領編集長は次のような可能性を指摘します。

「仮にBYDの軽自動車が月に5000台も出るようなことになると、結構なインパクトだ。となると、輸出でなくていいよねと。荒唐無稽ではあるが、日本での生産を求める可能性がある。求めるなら新規ではなく、既存の工場。そして日産からすればキャッシュが欲しい。すべてはつながっている」

神領編集長が「荒唐無稽」と話したように、中国車を日本で生産することは、日本の自動車産業が国内経済を支える現状の中、相当高いハードルが予想されます。

国民感情としても大きな抵抗があるでしょう。あくまでも仮説であり、確証のある話ではありません。ただ、単純に工場を生産拠点の「パズル」と考えれば、追浜工場が「居抜き」のまま、BYDの車両組み立てを担う……、不思議とピースが埋まるような気もします。

日産・追浜工場の跡地活用については、今後も様々な説が飛び交うことでしょう。ただ、日本が誇る軽自動車が提携や再編のカギを握る可能性があることは確かなようです。「軽自動車は芸術品」と語ったのは、スズキの故・鈴木修元会長ですが、グローバル市場の視点で軽自動車を見ると、また違った構図が見えてくるのが現状です。

(了)

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