『デカメロン2020』(方丈社)著者:イタリアの若者たちAmazon |honto |その他の書店
正直いって、コロナのことはもう見たくない、考えたくない。気が滅入(めい)るばかりだから。
でも、イタリアの若者たちと内田洋子による『デカメロン2020』(方丈社・2750円)は、読んでほんとうによかった。以前、菊地信義さんも「COVER DESIGN」の欄で取り上げた本だ。

ファッション写真集かと見まがう鮮やかな表紙。大判で、開くとたくさんの写真と文章がちりばめられている。背表紙のないコデックス装という製本で、ページが180度開く。中川真吾のデザインだ。

内容はコロナ禍により外出が禁止されたイタリアから24人の若者たちが発信した言葉と写真、そして翻訳者であり本書の企画者でもある内田のコラム。若者たちの最年少は17歳で、最年長は29歳。ヴェネツィアやローマ、ミラノなどイタリア各地に住んでいる(ひとりはオランダのデルフト在住)。

3月11日、ヴェネツィアのジュリは友人と「『デカメロン』を読み直してみない?」と盛り上がり、書店で豪華な4巻本を購入する(この日はまだ、書店は営業していた)。ボッカッチョが書いたこの古典は、ペストを逃れてフィレンツェ郊外にこもった10人の若者が、10日間10話ずつ語る物語集。古代から交易の地であったイタリアは、感染症とその対策の先進地でもあった。


ネットでリアルタイムに発表された文章はいきいきとしていて、若い彼らの気持ちがストレートに伝わってくる。ロックダウン当初は、新しい事態に興奮していて、どこか楽しげ。やがて退屈を紛らわすために、料理をしたり部屋の模様替えをしたり。見えない不安といらだちがつのる。友人の訃報に打ちひしがれ、遠く離れた家族に会えない寂しさに落ち込む。

人びとの助け合う姿に感動する。たとえばミラノの路上に置かれた椅子には、缶詰などたくさんの食べ物が置かれている。「必要な人をご存じなら、持っていってあげてください」という貼り紙とともに。まずは自助を、なんてことはいわないのである。

【書き手】
永江 朗
フリーライター。1958(昭和33)年、北海道生れ。法政大学文学部哲学科卒業。
西武百貨店系洋書店勤務の後、『宝島』『別冊宝島』の編集に携わる。1993(平成5)年頃よりライター業に専念。「哲学からアダルトビデオまで」を標榜し、コラム、書評、インタビューなど幅広い分野で活躍中。著書に『そうだ、京都に住もう。』『「本が売れない」というけれど』『茶室がほしい。』『いい家は「細部」で決まる』(共著)などがある。

【初出メディア】
毎日新聞 2021年2月27日

【書誌情報】
デカメロン2020著者:イタリアの若者たち
翻訳:内田 洋子
出版社:方丈社
装丁:単行本(256ページ)
発売日:2020-12-02
ISBN-10:4908925690
ISBN-13:978-4908925696
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