アメリカ人は時々すごくグロテスクな冗談を思いつく。たとえば、葬儀産業。
長編第二作目の『連続殺人記念日』もまた、プリルのアメリカを茶化す手つきに黒い笑いを誘発される作品だ。舞台はミネソタ州の人口五千人にも満たない小さな町。この町では毎年一件の殺人事件が発生している。犯人が捕まることなく二十年が経過しており、殺人事件が起こる季節には連続殺人記念祭まで開催、それが退屈な町の名物イベントにまでなっているのだ。デビイはそんな異様な町に生まれ育った女子高生。絶叫クイーン・コンテストで優勝するのが夢で、日夜悲鳴の練習に明け暮れているものの、実は彼女、生まれてこのかた恐怖を感じたことがない。コンテストの結果は? 今年こそ犯人は逮捕されるのか? 様々な謎をはらみつつ、祭りの盛り上がりは最高潮に達し――。
絶叫クイーン・コンテストばかりか、殺人現場をめぐるツアーや、殺人狂の女家庭教師が登場するミュージカル等々、奇想の仕掛けをちりばめつつ、プリルがここで試みているのは、恐怖ですら荒っぽく消費してしまう、アメリカ人のグロテスクな横顔のパロディなのだ。グリム童話で変奏される〈怖がらない者〉のテーマ、頻発する連続殺人事件、『エルム街の悪夢』をはじめとするホラー映画など既成イメージの援用も的確。その上で、一人の少女が成長する小説にもなっている。アメリカ小説には珍しい、ひとひねり加えたブラックな哄笑を、プリルの二冊の小説で堪能して下さい。

【書き手】
豊崎 由美
1961年生まれ。ライター、ブックレビュアー。「週刊新潮」「中日新聞」「DIME」などで書評を連載。著書は『そんなに読んで、どうするの?』『どれだけ読めば、気がすむの?』(以上アスペクト)、『文学賞メッタ斬り』『百年の誤読』(以上、共著、ちくま文庫)、『勝てる読書』(河出書房新書)、『読まずに小説書けますか』(共著、メディアファクトリー)、『石原慎太郎を読んでみた』(共著、原書房)など多数。近著に『「騎士団長殺し」メッタ斬り!』(河出書房新社)がある。
【初出メディア】
流行通信 2003年11月号
【書誌情報】
連続殺人記念日著者:デイヴィッド・プリル
翻訳:赤尾 秀子
出版社:東京創元社
装丁:単行本(266ページ)
発売日:1999-06-01
ISBN-10:4488016278
ISBN-13:978-4488016272