『連続殺人記念日』(東京創元社)著者:デイヴィッド・プリルAmazon |honto |その他の書店
アメリカ人は時々すごくグロテスクな冗談を思いつく。たとえば、葬儀産業。
生前の姿に近くするために遺体防腐処理人は死体にメスを入れ、詰め物をし、薬を注入し、派手な化粧を施す。かつて英国の作家イーヴリン・ウォーが、滞米中に見聞したこの葬儀ビジネスの隆盛ぶりをヒントに『囁きの霊園』(早川書房)という傑作小説を完成させたほど。それから半世紀近く後の九十五年、ウォーの作品以上に奇妙な葬儀産業小説が本場アメリカで誕生することになる。それがデイヴィッド・プリルの『葬儀よ、永久につづけ』。ここでプリルは、葬儀ビジネスをアメリカ人の大好きなスポーツになぞらえて、そのグロテスクな冗談ぶりに一層の拍車をかけているのだ。

長編第二作目の『連続殺人記念日』もまた、プリルのアメリカを茶化す手つきに黒い笑いを誘発される作品だ。舞台はミネソタ州の人口五千人にも満たない小さな町。この町では毎年一件の殺人事件が発生している。犯人が捕まることなく二十年が経過しており、殺人事件が起こる季節には連続殺人記念祭まで開催、それが退屈な町の名物イベントにまでなっているのだ。デビイはそんな異様な町に生まれ育った女子高生。絶叫クイーン・コンテストで優勝するのが夢で、日夜悲鳴の練習に明け暮れているものの、実は彼女、生まれてこのかた恐怖を感じたことがない。コンテストの結果は? 今年こそ犯人は逮捕されるのか? 様々な謎をはらみつつ、祭りの盛り上がりは最高潮に達し――。


絶叫クイーン・コンテストばかりか、殺人現場をめぐるツアーや、殺人狂の女家庭教師が登場するミュージカル等々、奇想の仕掛けをちりばめつつ、プリルがここで試みているのは、恐怖ですら荒っぽく消費してしまう、アメリカ人のグロテスクな横顔のパロディなのだ。グリム童話で変奏される〈怖がらない者〉のテーマ、頻発する連続殺人事件、『エルム街の悪夢』をはじめとするホラー映画など既成イメージの援用も的確。その上で、一人の少女が成長する小説にもなっている。アメリカ小説には珍しい、ひとひねり加えたブラックな哄笑を、プリルの二冊の小説で堪能して下さい。

毎年一件の殺人事件が発生する町、アメリカを茶化す手つきに黒い笑いを誘発される作品
葬儀よ、永久につづけ
『葬儀よ、永久につづけ』(東京創元社)著者:デイヴィッド プリルAmazon |honto |その他の書店

【書き手】
豊崎 由美
1961年生まれ。ライター、ブックレビュアー。「週刊新潮」「中日新聞」「DIME」などで書評を連載。著書は『そんなに読んで、どうするの?』『どれだけ読めば、気がすむの?』(以上アスペクト)、『文学賞メッタ斬り』『百年の誤読』(以上、共著、ちくま文庫)、『勝てる読書』(河出書房新書)、『読まずに小説書けますか』(共著、メディアファクトリー)、『石原慎太郎を読んでみた』(共著、原書房)など多数。近著に『「騎士団長殺し」メッタ斬り!』(河出書房新社)がある。

【初出メディア】
流行通信 2003年11月号

【書誌情報】
連続殺人記念日著者:デイヴィッド・プリル
翻訳:赤尾 秀子
出版社:東京創元社
装丁:単行本(266ページ)
発売日:1999-06-01
ISBN-10:4488016278
ISBN-13:978-4488016272
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