いかなる分野でも最前線に立つ人にしか見えない情景がある。通り一遍の情報ならネット検索で済んでしまいそうだが、本書を紐解けば、誰が書いたか分からないネット情報との落差が一目瞭然なのだ。
たとえば、「十字軍」の項目を開けば、上梓したばかりの大著『十字軍国家の研究』(名古屋大学出版会)の著者・櫻井康人が十字軍の多面性について整理する。また、「ボナパルティスム(第二帝政)」については、近著『ナポレオン四代』(中公新書)の著者・野村啓介が支配層としての名望家論に注目しながら、その問題点を整理する。さらに、「ファシズム論」をめぐっては、近著『日独伊三国同盟の起源』(講談社選書メチエ)の著者・石田憲が実証研究の深化のなかで、古典・修正主義の解釈を乗り越える試みの論点と難しさを整理する。
このように一三九の項目をとりあげ、第一線の研究者が執筆しているのだから、信頼度は比類ないのだ。しかも、見開き二頁のなかに要領よくまとめられているから、簡潔に要点を理解できる。学生・関連領域研究者ばかりか、歴史愛好家にも、必携!の一冊である。
【書き手】
本村 凌二
東京大学名誉教授。博士(文学)。1947年、熊本県生まれ。1973年一橋大学社会学部卒業、1980年東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。東京大学教養学部教授、同大学院総合文化研究科教授を経て、2014年4月~2018年3月まで早稲田大学国際教養学部特任教授。専門は古代ローマ史。
【初出メディア】
毎日新聞 2020年7月18日
【書誌情報】
論点・西洋史学著者:藤井 崇,青谷 秀紀,古谷 大輔,坂本 優一郎,小野沢 透
監修:金澤 周作
出版社:ミネルヴァ書房
装丁:単行本(340ページ)
発売日:2020-04-13
ISBN-10:4623087794
ISBN-13:978-4623087792