『エゴ・ドキュメントの歴史学』(岩波書店)著者:長谷川 貴彦Amazon |honto |その他の書店
ここで扱う「エゴ・ドキュメント」とは歴史学の史料としての価値を問題とする。形態としては、書簡、日記、旅行記、回想録、自叙伝、聞き語り、検診記録、警察調書、法廷審問、写真、歌、映画、自画像、メモ、落書きなどがあげられる。
ありふれた個人の語りを用いながら、西洋史と日本史の専門研究者10名がそれぞれの事例を分析する。

「序章」では、研究史をたどりながら、記憶・感情・欲望などの主観性と過去を再構成するための方法論を考察する。中世末期イタリアの「魔女裁判」を扱う章では、審問記録から告白書にいたる段階で、嫌疑をかけられた女性の心の変化の謎が解明される。「話すこと(オーラル)と書くこと(エクリ)の間(あわい)」を主題とする章では、18世紀フランスの女性作家の書簡体小説のなかで、女性の自己表出をめぐって、作家と主人公との関係が解きほぐされる。「遊女の日記」をとりあげる章では、幕末期におこった遊郭の遊女による集団放火事件をめぐって、ひらがなで綴(つづ)られた遊女の日記を手がかりに、書くという作業がどのような内面の力になったかを解明する。

比較史研究ならではの最新成果として読み甲斐のある一書である。

【書き手】
本村 凌二
東京大学名誉教授。博士(文学)。1947年、熊本県生まれ。1973年一橋大学社会学部卒業、1980年東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。東京大学教養学部教授、同大学院総合文化研究科教授を経て、2014年4月~2018年3月まで早稲田大学国際教養学部特任教授。専門は古代ローマ史。
『薄闇のローマ世界』でサントリー学芸賞、『馬の世界史』でJRA賞馬事文化賞、一連の業績にて地中海学会賞を受賞。著作に『多神教と一神教』『愛欲のローマ史』『はじめて読む人のローマ史1200年』『ローマ帝国 人物列伝』『競馬の世界史』『教養としての「世界史」の読み方』『英語で読む高校世界史』『裕次郎』『教養としての「ローマ史」の読み方』など多数。

【初出メディア】
毎日新聞 2020年8月22日

【書誌情報】
エゴ・ドキュメントの歴史学著者:長谷川 貴彦
出版社:岩波書店
装丁:単行本(284ページ)
発売日:2020-03-31
ISBN-10:4000223038
ISBN-13:978-4000223034
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