『もう生まれたくない』(講談社)著者:長嶋 有Amazon |honto |その他の書店

◆死が起こす波すくい取る
この小説を読んでいて思い出したのは、東日本大震災の後、名前を知っている人も、そうではない人でも、訃報が届くと、それまでとは違った衝撃があったということ。死に対して過敏になっている部分が誰にもあったのではないか。


この小説の舞台は、震災の後の3年間。スティーブ・ジョブズや元X JAPANのTAIJIなど、亡くなった人のことが登場人物の何気ない日常に入り込んでくる。マンモス大学で突然ナースの恰好をさせられる春菜、一人で息子を育てるゲームオタクの美里、美人清掃員の神子。彼らの日常を繊細な手つきで描きながら、人の死が起こす小さな波を掬(すく)い取る佳作。長嶋ワールド全開。あの頃の感覚が甦る。

【書き手】
陣野 俊史
1961年長崎生まれ。文芸評論家、フランス文学者。ロック、ラップなどの音楽・文化論、現代日本文学をめぐる批評活動を行う。最新作に『戦争へ、文学へ 「その後」の戦争小説論』(集英社)。その他の著書に『フランス暴動 - 移民法とラップ・フランセ』『じゃがたら』(共に河出書房新社)、『フットボール・エクスプロージョン』(白水社)、『フットボール都市論』(青土社)など。

【初出メディア】
日本経済新聞 2017年7月2日

【書誌情報】
もう生まれたくない著者:長嶋 有
出版社:講談社
装丁:文庫(272ページ)
発売日:2021-11-16
ISBN-10:4065250560
ISBN-13:978-4065250563
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