『生きるための読書』(新潮社)著者:津野 海太郎Amazon |honto |その他の書店
著者には「お祭り読書」と名づける読書術がある。新しい問題にぶつかるたびに、それと関連する本を大量に読みまくるというものだ。


齢を重ね、自身を「もうじき死ぬ人」と定義する著者が、「最後のお祭り読書」に選んだのは、これまで敬遠してきた若い研究者の本だった。きっかけは伊藤亜紗『目の見えない人は世界をどう見ているのか』。以降、斎藤幸平『人新世の「資本論」』、森田真生『数学する身体』、小川さやか『チョンキンマンションのボスは知っている』、千葉雅也『現代思想入門』、藤原辰史『歴史の屑拾い』などを読んでいく。いずれも書き手は30代から40代なかばまでの人たちである。

そして著者は気づく。彼らにはかつて大学知識人たちがまとっていたエリート臭が薄いという共通点があること。そのかわり、「街を行き交う人たち」と対話する柔軟な力を身につけていること。

こうした「お祭り読書」の果てに著者が再発見したのはアナキズム、というところが感動的。権力ぬきの助け合いの社会を目指す、かつて鶴見俊輔が夢見たもの。何歳になっても、読書は未来へとつながる。

【書き手】
永江 朗
フリーライター。1958(昭和33)年、北海道生れ。
法政大学文学部哲学科卒業。西武百貨店系洋書店勤務の後、『宝島』『別冊宝島』の編集に携わる。1993(平成5)年頃よりライター業に専念。「哲学からアダルトビデオまで」を標榜し、コラム、書評、インタビューなど幅広い分野で活躍中。著書に『そうだ、京都に住もう。』『「本が売れない」というけれど』『茶室がほしい。』『いい家は「細部」で決まる』(共著)などがある。

【初出メディア】
毎日新聞 2025年2月1日

【書誌情報】
生きるための読書著者:津野 海太郎
出版社:新潮社
装丁:単行本(ソフトカバー)(224ページ)
発売日:2024-12-18
ISBN-10:410318535X
ISBN-13:978-4103185352
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