2025年9月5日から沖縄で行われているWBSC U-18ワールドカップには、野球が盛んな北中米やアジアだけでなく、オーストラリアやイタリア、ドイツ、南アフリカなど12カ国・地域が参加しています。

日本代表には夏の甲子園で優勝した沖縄尚学の左腕、末吉良丞投手や快速球右腕としてプロから注目される健大高崎の石垣元気投手らが名を連ね、2大会連続2度目の優勝を目指しています。


■パリ五輪での競技除外で危機感
野球とソフトボールの国際統括団体「世界野球ソフトボール連盟(WBSC)」が、23歳以下(U23)や18歳以下(U18)における野球の国際大会を7回制で実施すると決めたのは、2019年のことでした。その結果、W杯はU23が2020年から、U18はコロナ禍後の2022年から7回制へと移行しました。

導入の背景には、2024年パリ五輪で正式競技から野球・ソフトボールが除外されたことへの危機感がありました。WBSCは野球の「時短」を目標に掲げ、ソフトボールと同じ7回制を打ち出したのです。多数の競技が行われる五輪では、日程消化やテレビ中継の都合で、試合時間が短いコンパクトな運営が要求されるからです。

当時、WBSCのリカルド・フラッカリ会長は「東京五輪までは9回制だが、その後は7回制を導入する。イニング間の攻守交代時間も90秒に制限し、よりダイナミックに、よりスピーディーになる」と改革案を挙げました。その後、2028年のロサンゼルス五輪で野球・ソフトボールの復帰が決まり、7回制の採用可否が検討されています。

■スポーツの「時短」は世界的な傾向
WBSCは公式Webサイトで「2イニング短縮されると、投手層の厚みは勝敗を左右する大きな要因にならなくなる。これは特にヨーロッパやアフリカなどの野球新興国にとっては高いハードルだった」と記し、7回制によって競技の普及が国際的に進むこともメリットに挙げています。大会運営に関しても「天候による遅延や中止などにも影響されにくく、チームや選手も体への負担が減り、ゆっくり休める。まだ7回制は始まったばかりだが、国際野球に大きな変革を与える素晴らしいスタートを切ったと言えるだろう。
この流れはやがて世界中のリーグにも広がるかもしれない」と強調しています。

「時短」は、野球の本家本元であるメジャーリーグでも重視され、投球間隔を秒数で制限する「ピッチクロック」が2年前から取り入れられました。

ほかのスポーツでも同様の傾向が見られ、スペインではサッカーの試合を前後半各20分に短縮して行う7人制の「キングス・リーグ」が2022年に設立され、国際的に注目を集めています。

バレーボールではサーブ権に関係なく得点が入るラリーポイント制がすでに定着するなど、各競技で取り組みが進んでいるのです。

■「野球は8、9回が面白い」という意見
日本高校野球連盟で検討されているのも、こうした世界的な流れに沿うものといえます。

しかし、「野球は8、9回が面白い」という意見は根強く、終盤の攻防を楽しみにしている人が多いのも事実でしょう。球児たちが繰り広げる接戦は、高校野球ファンにとっては欠かせないものかもしれません。

ただ、歴史を振り返れば、高校野球でも選手の健康面を考え、「時短」が進められてきました。

中等野球だった戦前は、延長戦が無制限で行われ、甲子園大会では25回が最長記録です(1933年夏の中京商1-0明石中)。その後、延長は18回、15回と短縮され、引き分けの場合は再試合になりました。

2018年春からは無死一、二塁から開始するタイブレーク制が延長13回から導入され、2023年からは10回からタイブレークで決着をつけています。

■高まる球児らの健康リスク
投げ過ぎによる投手の負担軽減だけでなく、近年は熱中症のリスクをどう避けるかが、最大の課題です。


気温は年々上昇を続けており、今年の夏の平均気温は平年と比べて2.36度高く、気象庁が1898年に統計を取り始めてから最高を記録しました。40度以上を観測した地点数は全国で延べ30に上りました。

暑さを避けるため、今夏の甲子園では「朝夕2部制」が実施されました。8時から2試合、16時15分から2試合を行いましたが、豪雨による中断もあり、最も遅いときは第4試合の終了が22時46分になりました。

運営側の負担も大きく、高校生の大会としても疑問が残るところです。日本高等学校野球連盟では、公式Webサイトで7回制を導入した場合のメリット、デメリットを挙げ、全国の加盟校や一般のファンらも対象にアンケート調査を実施しました。結果はまだ発表されていませんが、多様な意見を参考に今後の試合形式を決める方針です。

気候変動だけでなく、少子化による野球部員の減少や学校の統廃合も進んでいます。社会環境の変化に応じて、持続可能な高校野球の在り方を模索しなければなりません。

この記事の執筆者:滝口隆司
社会的、文化的視点からスポーツを捉えるスポーツジャーナリスト。毎日新聞では運動部の記者として4度の五輪取材を経験。論説委員としてスポーツ関連の社説執筆を担当し、2025年に独立。
著書に『情報爆発時代のスポーツメディア―報道の歴史から解く未来像』『スポーツ報道論 新聞記者が問うメディアの視点』(ともに創文企画)。立教大学では兼任講師として「スポーツとメディア」の講義を担当している。
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