希望の物件があったとき、抽選に賭けるべきか、それとも先着順を狙うべきか――。それぞれの違いや特徴を知っておくことで、納得のいく住まい選びにつながるでしょう。


本記事では住宅評論家の櫻井幸雄氏が、「抽選販売」と「先着順販売」それぞれの仕組みや長所・短所を分かりやすく解説します。

■抽選に当たらなければ購入できない物件が続出
東京23区内の新築分譲マンションは平均価格が1億円を超えてしまった。23区内でも中心に位置する場所=JR山手線駅を利用できる都心部で新築の3LDKを購入しようとすれば、2億円以上の予算が必要な状況だ。にもかかわらず、抽選に当たらなければ購入できない物件が続出している。

例えば、品川駅から徒歩14分となる「リビオタワー品川」は2025年3月29日から第1期の販売を行い、売り出された221戸全てが抽選に。平均倍率12.3倍で最高倍率は139倍になった。高額であっても、抽選に当たらなければ購入できない……大変な時代になったと感じる人が多いのではないか。

実際、都心マンションの人気は相変わらず高い。が、全ての都心マンションが抽選に当たらないと購入できない、というわけでもない。じつは、抽選販売ではなく、先着順で販売されている都心のタワーマンションもあることをご存じだろうか。

2025年5月時点において、先着順で販売されている都心マンションとしては「グランドシティタワー池袋」や「シティタワー新宿」など住友不動産のマンションが多い。住友不動産のマンションは第1期こそ抽選販売になりやすいが、以後、先着順で販売されるのが常態化している。


その他、JR山手線大崎駅から徒歩5分に建設される「ブランズタワー大崎」も7月に行われる第2期販売(第1期販売は非公開で行われた)は抽選になる可能性が高いのだが、それ以降は「じっくり販売していく」方式が明らかにされている。つまり、先着順で販売される可能性が高いのだ。

東京都心部の超高層タワーマンションは、抽選販売だけで完売してしまう物件と先着順販売を長く続ける物件がある。都心マンション購入で失敗しないために、両者の違いを知っておくことが重要だ。

■抽選販売となる都心マンションの特徴
まず、抽選販売となる都心マンションは一度に販売される住戸数が多くなるのが普通だ。少なくとも50戸以上、多いときは200戸以上を売り出して抽選となる。一方で、価格は周辺相場より低く設定される。それは、抑え気味の価格で一気に売り切りたいという方針で販売されるからだ。

加えて、抽選販売となる都心マンションは購入制限がなかったり、緩かったりする。購入できる住戸は「1家族1戸」ではない。1人2戸までとか3戸までと設定され、法人名義での申し込みも可能……つまり、夫名義で3戸、妻名義で3戸、夫が経営する会社名義で3戸の申し込みが可能になったりする。これによって抽選倍率が実際以上に跳ね上がるという側面もある。


「現実的に1人で複数住戸を購入できる」のはルール違反ではない。車でも時計でも、希望する人は複数買ってよいのと同じである。ただし、そのような売り方を行うマンションでは、投資目的の購入者が大量購入をもくろむことになりやすい。

不動産会社によっては、それをよしとしないところがある。自分たちは、投資目的のマンションを売っているのではない、と考えるからだ。以上のような方針の違いに加え、複雑な事情が絡んできて、「抽選販売」か「先着順販売」かが分かれることになる。

■販売方式を分ける不動産会社の複雑な事情
複雑な事情の1つを紹介しよう。

抽選販売か先着順販売かを物件ごとに変える不動産会社がある。というのも、販売に時間がかかるマンションを抱えている場合、新たに売り出す物件は短期間に完結させたいと考えるからだ。手間のかかる物件を2つ抱えたら、資金繰りでも人員の配置でも苦労しやすい。だから、2つのうち1つは販売活動を短期間に終了させたい。

その場合、新たに売り出す物件は会社の利益を減らしてでも販売価格を抑える。
安く売れば、購入希望者が集まる。抽選になるほど購入希望者が集まれば、数多くの住戸を一気に売ることができる。そうなれば、短期間に販売活動が終わり、人件費や販売経費を圧縮できる。安く売っても、そんなに損はないわけだ。

また、不動産会社がこの先の不動産市況を「下り坂」と予測すれば、短期間に売り切ることを選択し、その場合も価格が抑えられることになる。逆に、この先も都心のマンションは価格が上がると予測する不動産会社は、一気に売り出すことはせず、少しずつ先着順で販売を続ける。そして、販売を続けながら、価格を上げてゆく方針をとる。以上の流れを理解すると、抽選販売と先着順販売の長所・短所が見えてくる。

■「抽選販売」と「先着順販売」の長所・短所
抽選販売を行うマンションの長所
・抽選に当たれば、抑えた価格でマンションを購入できる
・1人もしくは1家族で複数住戸が手に入る可能性があり、資金が潤沢にある投資家は喜ぶ

抽選販売を行うマンションの短所
・購入希望者が殺到し抽選倍率が上がるので、買えない人が多くなる
・モデルルーム見学の予約が取りにくい
・結果的にマンション所有者に投資目的の人が多くなり、良好なコミュニティーを形成しにくくなる可能性がある

先着順販売を行うマンションの長所
・抽選なしで、希望する住戸を購入しやすい
・自ら住む目的の購入者が多くなるので、マンション内で良好なコミュニティー形成が期待できる
・モデルルーム見学の予約が取りやすいなど、落ち着いて購入ができる

先着順販売を行うマンションの短所
・割安感を感じることはなく、このマンションを買ってよいのか不安になることがある
・投資目的の購入者にとっては、うまみが少ない

結論を申し上げると、抽選販売される都心マンションは、なるべく安くマンションを買いたい人や投資目的の購入者に喜ばれる。対して、先着順販売される都心マンションは、つくりや住み心地のよいマンションに住みたい、という人に喜ばれる。

初めてマンションを買う人は、購入希望者が大勢いることで「自分の選択は間違っていない」と安心できる抽選販売を好み、マンション購入が2度目3度目の人は「落ち着いて購入できる」先着順販売を好むという傾向もある。

最後にアドバイスを。


なるべく安くマンションを買いたいという人は、抽選販売の物件ばかりを狙うことになりやすい。が、抽選に外れ続けているうちに、ますますマンション価格が上がる可能性があるので、ご注意を。その点、先着順販売のマンションならば、確実に購入が可能。結果として、先着順販売のほうが安く買えたという事態も生じることを覚えておきたい。

文:櫻井幸雄

住宅評論家。全国で年間200件以上の物件を現地取材し、書籍や雑誌、新聞、テレビなど幅広いメディアで活躍中。著書に、『知らなきゃ損する!「21世紀マンション」の新常識 5000件見抜いた男が教える「見方・買い方」』(講談社)、『不動産の法則 誰も言わなかった買い方、売り方の極意』(ダイヤモンド社)、『買って得する都心の1LDK 借りるのは「負け組」』(毎日新聞出版)など
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