■ポイント経済圏に再編の波
5月は「共通ポイント」界隈にとって大忙しの月となった。
15日に三井住友カードとソフトバンクが提携を発表。SMBCグループ共通ポイントであるVポイントとPayPayポイントが相互交換できるようになる予定だ。
続いて27日に三菱UFJフィナンシャル・グループが新しい金融ブランド「エムット」をお披露目。その始動として6月2日より銀行アプリを全面リニューアル、クレジットカードやネット証券もアプリで一元管理できるほか、2026年度からは新しいグループ共通ポイント「エムットポイント」を導入する。
そして、5月29日にはNTTがSBIホールディングスとの提携を発表、NTTドコモが住信SBIネット銀行を連結子会社化する方針だ。
この3案件が、わずか2週間のうちに起きた。
様々な思惑が見え隠れするが、もはや通貨と同じ意味を持つ「ポイント」がこの先どうなるのか。まだ発表段階のものも多いが、気が抜けない。
■5つの経済圏の現状
まずは共通ポイントを軸に、主な経済圏の現状から整理しておく。
Vポイント……三井住友カードの利用等でたまるVポイントと旧Tポイントが2024年に統合。旧Tポイント加盟店及びVisa加盟店で使える。
スマホ決済/VポイントPay(総合金融アプリ「Olive」にカードやポイントを連携することでも支払い可能) クレジットカード/三井住友カード他 銀行/三井住友銀行 証券/SBI証券でクレカ積立 携帯キャリア/なし
Ponta……提携店でのカード・アプリ提示のほか、auやKDDIのサービス利用で付与される。三菱UFJ銀行のスーパー普通預金「メインバンクプラス」での銀行取引でもたまる。
スマホ決済/auPAY クレジットカード/auPAYカード他 銀行/auじぶん銀行他 証券/三菱UFJ eスマート証券でクレカ積立 携帯キャリア/KDDI
楽天ポイント……楽天グループの共通ポイント。名実ともにポイント経済圏の代表。
スマホ決済/楽天ペイ クレジットカード/楽天カード他 銀行/楽天銀行 証券/楽天証券 携帯キャリア/楽天モバイル
dポイント……NTTドコモのサービスや提携店での提示などでたまる。
スマホ決済/d払い クレジットカード/dカード 銀行/dスマートバンク(三菱UFJ銀行) 証券/マネックス証券 携帯キャリア/NTTドコモ
PayPayポイント……スマホ決済PayPay利用の他、Yahoo!ショッピングなどソフトバンクグループのサービス利用でたまる。
スマホ決済/PayPay カード/PayPayカード 銀行/PayPay銀行 証券/PayPay証券 携帯キャリア/ソフトバンク
これを細かく見ると、今後複雑化しそうな関係が浮かび上がる。
Vポイントの三井住友カードが積み立て投資できるのはSBI証券だが、今回ドコモはSBIグループとの結びつきを深めた。
そもそも子会社化する予定の住信SBIネット銀行は、SBI証券での証券取引口座としての役割がある。もし今後、dカードでの積み立て投資がSBI証券でも可能ということになると、2つのポイントユーザーが加わることになり、美味しいのはSBI証券だ。
その場合、先んじてドコモが子会社化したマネックス証券の立場が気になる。dカードによるクレカ積立の還元率を高めにしてアピールしてきたが、ネット証券としてはSBIに大きく水をあけられているからだ。dカードでクレカ積立をマネックス証券でしている人は、今後の動きを注視しておいた方がいい。
■VポイントとPayPay提携の狙いは
次は最初に話題となったVポイントとPayPayポイントの相互交換についてだ。
Vポイントは旧Tポイントとの統合以来、知名度アップに励んできたが、稼働率の面では苦戦していたのではないだろうか。スマホ決済の残高としてVポイントPayにチャージして使う、という面ではまだまだ弱い。
ポイントはたまりやすいことも大事だが、「使えるポイント」かどうかが重要だ。PayPayの支払いに使えます、とアピールできるようになれば、三井住友カードの利用者にとってかなり魅力的だろう。
対して、決済という面だけで見るとPayPayにどんなメリットをもたらすかは未知数だ。自社のPayPayカードよりも格段に数が多い三井住友カード利用者が、PayPayでのクレジット払いを増やしてくれるとの期待はできそうだが。
今回の動きとは無縁に見えるPontaにも、気になる点がある。
au経済圏とも呼ばれる通り、周辺にはauブランドのクレジットカードや銀行が並ぶが、証券会社の名称は2月よりauカブコム証券から三菱UFJ eスマート証券に変更された。
■三菱UFJとPontaの微妙な距離感
証券との連携は、Ponta還元率を上げる通信プラン「auマネ活プラン+」の条件の一つにもなっている。旧auカブコム証券は三菱UFJフィナンシャル・グループとKDDIの共同出資会社だったが、今回KDDI側が持ち分を手放し、三菱UFJ銀行の100%子会社となった。
三菱UFJ銀行傘下となってもau経済圏の証券会社として従来通りの機能を果たしていくとしているが、そこに今回の「エムット」の発表が来た。
この構想の中にも三菱UFJ eスマート証券は組み込まれている。三菱UFJカードによるクレカ積立キャンペーンも始まった。今後「エムットポイント」という新たなポイントが予定されているが、これが三菱UFJフィナンシャル・グループの共通ポイントになると、スーパー普通預金「メインバンク」の取引で付与されているPontaの立場は微妙なものとなりそうだ。
ここにもポイント再編の気配を感じる。三菱UFJとのポイント関係がどうなっていくか、Pontaユーザーはひっそり見守るしかない。
■ドコモ×住信SBIに感じる「相性の悪さ」
dポイント経済圏構築のため、中核となる銀行を持つのはドコモの悲願だったと聞く。
銀行取引でdポイントがたまる「dスマートバンク」というデジタル口座サービスがあるが、これは三菱UFJ銀から軒を借りているようなもの。ドコモがオリックス・クレジットを連結子会社とした関連で、オリックス銀行が本命なのではとの憶測もあったが、蓋を開ければなんと住信SBIネット銀行がお相手とは。
先に書いたように、住信SBI銀には、SBI証券への投資資金プール用の「SBIハイブリッド預金」がある。SBI証券のユーザーは株取引をメインに行う、いわゆるガチ勢が多い。彼らが利用しているこのハイブリッド預金はどうなるのか。
また、住信SBI銀は、パートナー企業に銀行機能を提供する「Baas」事業に力を入れている。例えば、JAL NEOBANK、高島屋NEOBANK、ヤマダNEOBANK、第一生命NEOBANK、F NEOBANK(日本ハムファイターズファン向け)などで、その企業固有のマイルやポイントがたまるのが売りだ。このBaasの広がりはまさにデジタルバンクならではのフットワークの軽さを示している。
このスピード感にドコモは併走していけるのだろうか。余計なお世話だが、ドコモのユーザーは他キャリアに比べて年齢層が高めだ。そうした保守的な顧客層と投資ガチ勢である住信SBI銀の顧客層には、かなり距離があるようにも感じる。
この先、うまく融合していければいいが、と住信SBI銀の利用者は戸惑っていることだろう。筆者もその一人だ。ドコモと程よく顧客層がマッチするのはゆうちょ銀行では……と密かに考えていたのだが、大変余計なお世話でした。
■メガバンクが目指す“給与支配”
Vポイント、PayPay、dポイント等の共通ポイントの動きがクローズアップされがちだが、今回の発表の後ろに見え隠れするものがある。それがデジタル給与だ。
三菱UFJ銀行の新しいアプリの中に、決済ブランド「COIN+(コインプラス)」が加わる予定になっている。COIN+は、三菱UFJ銀とリクルートの合弁会社であるリクルートMUFGビジネスが運営し、送金や銀行口座への出金が手数料無料でできる。
さらに注目されるのが、給与のデジタル払いに対応している点だ。給与の一部がコード決済の残高として受け取れるデジタル給与は、2024年にPayPayが参入して以降、じわじわ広がっている。
楽天ペイやauPAYも参入を決め、今後は激しい陣取り合戦が繰り広げられるだろう。
銀行にとって給与受け取り口座を抑えることは、利用者のメインバンクになれるのを意味する。これだけネット銀行が台頭していても、給与受け取り先だけはリアルバンクという人はまだ多いだろう。
しかし、この先デジタル給与が広がってくれば、レガシーなメガバンクは置いてきぼりになりかねない。
そこで、三井住友銀行「Olive」はPayPayとのポイント連携を強め、三菱UFJ銀行アプリはCOIN+を搭載することで、デジタル給与への道筋をつけた――という図を描いたとすればどうだろう。あくまで個人の妄想だが。
■楽天主導にくさび、メガバンクの巻き返し
収まらぬ物価高への対抗策として、共通ポイント経済圏の存在感はますます大きくなっていく。しかも、これまで消費によって付与されてきたポイントは、NISAのクレカ積立をはじめ総合金融とのつながりを強めつつある。
消費も貯蓄も投資も、その人の収入が移動して別の姿になったもの。その大元となるのが給与というわけだ。
現金振り込みでもデジタル残高でも、がっちり給与を押さえ、その後のお金の移動を管理できる銀行が最も強いとなれば、結局はメガバンクが勝ち組では?という結論になりそうだ。実につまらないが――。
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松崎 のり子(まつざき・のりこ)
消費経済ジャーナリスト
『レタスクラブ』『ESSE』など生活情報誌の編集者として20年以上、節約・マネー記事を担当。「貯め上手な人」「貯められない人」の家計とライフスタイルを取材・分析してきた経験から、「消費者にとって有意義で幸せなお金の使い方」をテーマに、各メディアで情報発信を行っている。著書に『定年後でもちゃっかり増えるお金術』『「3足1000円」の靴下を買う人は一生お金が貯まらない 』(以上、講談社)ほか。
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(消費経済ジャーナリスト 松崎 のり子)