しかし、A群溶連菌には多くの型が存在するため、一度感染しても別の型に再感染することがあります。何度もさまざまなタイプの溶連菌にかかる方も多いです。
ここでは、溶連菌についての基礎知識、対応のポイント、プライマリケア医の視点から見た途中経過の特徴について、分かりやすく説明します。
溶連菌感染症の特徴的な症状と注意点
溶連菌感染症は、正式にはA群溶血性レンサ球菌によって引き起こされる感染症です。主に咽頭に感染し、子どもを中心に季節を問わず流行します。
主な症状は以下の通りです。
・突然の強い喉の痛み:特に飲み込むときに痛みが強くなります。
・高熱:38~39℃以上の発熱が突然現れることが多いです。
・イチゴ舌:舌の表面が赤くブツブツし、イチゴのようになることがあります。
・発疹:全身に小さな赤い発疹が現れ、かゆみを伴うことがあります。この皮膚症状は咽頭に感染した溶連菌の毒素によるもので、「猩紅熱(しょうこうねつ)」とも呼ばれます。
溶連菌感染症は、よくある風邪とは少し異なります。
・リウマチ熱:心臓弁膜症・関節炎・舞踏病(神経症状)を引き起こす
・急性糸球体腎炎:腎臓機能が低下し、浮腫・血尿などを呈する
「家庭医」として見てきた溶連菌との戦い方……早期発見・正しい治療がカギ
私は0歳から100歳まで、4世代にわたるご家族の健康を見守ってきました。溶連菌感染症に対しては、次の3つの共通したポイントがあると考えています。
▼1. 「あれ?」と感じる典型的な症状が出たら、迷わずに受診を高熱・咽頭痛・かゆみを伴う発疹など、典型的な症状が見られた場合は、迷わず小児科・内科を受診してください。迅速な診断は、症状の早期改善や合併症を防ぐための第一歩です。「迅速診断キット」を使えば、喉を綿棒でこするだけで5分程度で結果が分かります。
▼2. 医師の「人間力」と「説明力」を見極め、信頼できる「かかりつけ医」を持つお子さんの状態や親御さんの不安を理解し、丁寧かつ分かりやすく説明してくれる医師を選びましょう。医師には「なぜ抗生剤が必要なのか」「なぜ飲み切らなければいけないのか」「どのような副作用が予測されるか」をきちんと説明する力が求められます。
親御さんの不安に寄り添いながら説明できる医師こそ、頼れる「かかりつけ医」です。
▼3. 薬は症状が消えても「最後まで」飲み切る溶連菌の治療にはペニシリン系抗生物質が用いられることが多く、症状が改善しても10日間の内服を続ける必要があります。
溶連菌の多くは内服を開始すると数日以内に解熱し、症状も改善傾向になるため、親御さんからは「熱も下がって元気になったのに、まだ薬を飲ませるんですか?」とよく聞かれます。
しかし途中で服用をやめると、菌が生き残り、前述の症状の再燃や合併症のリスクが高まることが懸念されます。
臨床経験から感じる薬疹のリスクと、長期服用の注意点
多くの患者さんを診る中で、薬の長期服用に関する経験から学んだことがあります。特に抗生剤の長期服用で注意したいのが薬疹です。
私が診てきた中にも、抗生剤を飲み始めてから解熱し、咽頭痛も軽減したものの、服用期間の途中で体にかゆみを伴う発疹が出てくるお子さんがいました。これは薬疹を疑う状況です。
例えば、あるお子さんは服薬5日目に、全身にかゆみを伴う赤い発疹が出現しました。
親御さんは「溶連菌の再発かもしれない」と不安そうでしたが、診察の結果、薬疹の可能性が高いと判断し、抗生剤をいったん中止してアレルギーを抑える薬に切り替えることで、症状は改善しました。
その後、かゆみを伴う発疹は消退し、溶連菌の治療も無事に合併症もなく終えられました。
このような経験から、私は薬を処方する際に、親御さんへ以下のようにお伝えするようにしています。
「この抗生剤は10日間しっかり飲んでください。途中でやめると合併症のリスクはあります」
「もし服薬後に新しく発疹が出たり、かゆみが強くなったり、唇や目の腫れが見られた場合は、すぐに飲ませるのをやめて受診をしてください。薬疹や他の原因があるかもしれません」
「薬疹は稀ですが、体質により起こることがあります。
このように、薬の効果だけでなく、予測される副作用の可能性についても具体的に伝え、異変があればすぐに相談できる環境をつくることが、患者さんの不安を軽減し適切な治療を遂行する上で非常に重要と考えています。
■溶連菌感染症の治療は「無理せず、でも中断せず」のスタンスで
溶連菌感染症の治療は、親御さんにとっても「10日間毎日薬を飲ませる」という負担を伴います。「頑張り過ぎず、できる範囲で継続する」というスタンスが大切です。
無理に完璧を目指さず、もし飲み忘れがあっても自己判断で中断せず、できる限り医師の指示に従って継続するようにしましょう。そして、不安や疑問があれば遠慮なく「かかりつけ医」に相談することです。
溶連菌感染症は、適切な知識と医師との連携があれば、さほど怖い病気ではありません。お子さんの健康、そしてご家族の安心のために、今回の内容が少しでも役立つことを願っています。
▼武井 智昭プロフィール0歳から100歳まで1世紀を診るプライマリケア医。小児科・内科の2つの専門医として、感染症、アレルギー、生活習慣病まで、幅広い診療と執筆活動を行っている。