■2年後に中古マンションの購入を希望しています
皆さんから寄せられた家計の悩みにお答えする、その名も「マネープランクリニック」。

今回の相談者は、保険の取捨選択で迷っているという40歳のパートで働く女性です。
2年後に住宅購入を希望しており、貯蓄をしたいとのこと。ファイナンシャル・プランナーの平野泰嗣さんがアドバイスします。

▼相談者保険迷子さん(仮名)
女性/パート・アルバイト/40歳
埼玉県/賃貸住宅

▼家族構成夫(会社員/40歳)、子ども(小学生/9歳)

▼相談内容お世話になります。保険の取捨選択で迷っております。現在、子どもの保険に2本入っておりますが、そのうち自転車保険は解約を検討中です。ただ、個人賠責は重複していてもあまり意味がないと聞いたことがあるのですが、実際解約していいのか不安です。プロのご意見をお願いできませんでしょうか。

併せて、ご相談ですが、2年後に住宅購入を希望しています。物件価格4000万円以下の中古マンション(希望するエリアが価格帯3000万円台)を考えています。そのために貯蓄を始めたいと考えていて、先の保険の見直しも、その理由の1つです。ただ、具体的にどこをどう節約して、どのくらい貯めればいいのか迷っています。アドバイスをお願いいたします。


▼家計収支データ保険迷子さんの家計収支データは図表のとおりです。
40歳パート、貯蓄100万円。子どもの保険に2本入っておりますが一方の保険の解約を検討中です
相談者「保険迷子」さんの家計収支データ


▼家計収支データ補足(1)毎月の生活費以外の家計支出
帰省費用25万円、交際費25万円、残りは使途不明金(いずれも年間の概算)。

(2)加入保険について
(※)保障内容の詳細は不明
[夫]
・定期死亡保険

[相談者]
・医療・損害保険

[子]
・子ども保険(育英費用1000万円、個人賠償責任・国内無制限、入院3500円、他)=保険料月額1500円
・自転車保険(自転車事故入院1万2000円、個人賠償責任3億円、他)=保険料月額590円

(3)各支出費目について
●帰省費
毎月、帰省しておりその費用を抑えたいのですが、高齢の親に寂しいといわれ対応に迷っております。

●交際費
学校のお友達との交流が頻繁で、お誕生日会があったり、お菓子を持たせたり、といった出費があります。衛生上、手作りのお菓子などは歓迎されません。よりリーズナブルな小売店を探したら削減できるかもしれません。

●雑費
日用品は一般的な範囲で購入しているつもりですがよりリーズナブルな小売店を探すべきでしょうか。防災用の備蓄も検討しており削減していいかどうか自信がありません。被服費は子どものものが中心です。服のサイズが上がったり靴を買い替えたりします。ここの金額も抑えられる自信がありません。子どもが読書を好きなこともあり、書店で新書を購入しています。
本人が図書館の本を嫌がることから新書を購入しております。月によりますが5000円程度?削減できるかもしれません。

(4)子どもの学費と進路について
本人が都立の大学を希望していることと、親から多少援助があるかもしれないことから、お恥ずかしいですがまだ積立などしておりません。本人は中学受験に興味がないようで、いわゆる中学受験はしない予定です。

▼FP平野泰嗣の4つのアドバイスアドバイス1:保険の見直しは、節約をしつつリスクにしっかり備えることを基本に
アドバイス2:住宅購入は無理せず、家計の見直しと柔軟なプラン変更を
アドバイス3:使途不明金はもっとも避けたい家計リスク
アドバイス4:これを機会に、今から教育資金づくりも始めたい

■アドバイス1:保険の見直しは、節約をしつつリスクにしっかり備えることを基本に
最初のご相談から考えましょう。

お子さんが加入されている、子ども保険と自転車保険の内容が重複しているのでは、と悩まれているとのこと。確かに、ともに個人賠償責任補償を確保されています。補償額は、子ども保険が無制限、自転車保険は3億円。保険の加入目的が個人賠償責任の補償であれば、子ども保険だけに絞って構わないということになります。

自転車保険を残す理由とすれば、ケガや病気による入院補償、通院補償が子ども保険よりやや手厚いこと。重大事故のリスクに備えたいなら、両方ともに残すという選択肢もあります。しかし、自転車保険の保険料は月590円ですが、それでもそれを支払う価値があるかどうか。
コストパフォーマンスの観点から検討する必要があります。

保険迷子さんのように、万が一の不安から「保険を減らす」ことを迷われる方は少なくありません。ですが、重複している保険を精査して、効率化することのほうが、むしろ“堅実な守り”であるとも言えます。節約しつつリスクにも備える、そのバランスが賢い家計管理の第一歩だと考えます。

結論としては自転車保険を解約すべきと考えますが、それでも不安があれば、ご自身で補償内容を再度確認してみてください。解約しても必要な補償が確保されることを、納得できれば不安は最小限に抑えられるはずです。

■アドバイス2:住宅購入は無理せず、家計の見直しと柔軟なプラン変更を
次に、2年後の住宅購入に向けて、どう節約をしてどう貯蓄をしていけばいいかについてのご相談ですが、想定されている中古マンションの物件価格が3000万~4000万円といったところでしょう。

仮に3500万円の物件について、頭金なし、物件価格の全額を金利1%、35年の住宅ローンで借り入れたとします。毎月の返済額は9万8799円(ボーナス返済なし)。加えて、毎月発生する管理費・修繕積立金を少なくとも2万5000円は見ておきたいところ。これに固定資産税が月割りで1万円程度とすると、トータルで住宅費用は約13万5000円。それでも、現在の家賃負担とほぼ同水準ですから、表面的には「頭金がなくても、買っても大丈夫」と思われるかもしれません。


しかし、現状のままでは購入は難しいと言わざるを得ません。

その理由として、まず、住宅購入時に発生する初期費用の準備ができないということ。初期費用は、具体的には登記費用、仲介手数料、税金などに、今回の物件の場合で約150万円。さらに、引っ越しや家具、家電などを購入する費用に約50万円とすると、計200万円が別途必要となります。

また、住宅ローンの借入額は、長く続く返済負担を考えれば、できるだけ抑えたい。そのために、一般には購入時に頭金を用意します。先の試算では頭金なしのケースでしたが、少なくとも100万円程度は用意したいところ(理想は物件価格の10%=350万円)です。

一方、今ある金融資産は普通預金50万円と個別株50万円(※データ作成時の評価額)で計100万円。また、毎月の貯蓄額1万円とのことですから、このペースが続くなら、2年後には200万円にも届かないことになります。

次に、教育費準備との両立はきびしいということ。

住宅ローンの返済額が、現在の家賃の支払いと大きく変わらないとしても、今後お子さんにかかる教育費は、現在より増えていく可能性が高いと言えます。

公立高校にかかる教育費は、平均で年間約60万円、3年間では180万円となります。
また、大学費用も国公立であってもまとまった資金は必要です。都立の大学と記されているので、入学金+授業料の金額を算出できます。つまりは、ざっと400万円が必要となります。さらに、この金額には学習塾や教科書代、通学費用などは含まれていません。

<参考>東京都立大学 学費・減免制度・奨学金制度等

教育資金が準備できない場合、奨学金や教育ローンに頼ることになります。「親御さんから教育資金の援助があるかもしれない」とのことですが、それでも、資金が足りる保証はありません。今からでも、できる範囲で準備を進めるべきです。

さらに言えば、ご自身の老後にもリスクとなります。先の試算は、住宅購入を2年後、住宅ローンを35年返済としましたので、完済はご主人が77歳の時です。この時期まで、住宅ローンの支払いが続くことは、老後生活にも長く負担となることを意味します。

■アドバイス3:使途不明金はもっとも避けたい家計リスク
では、住宅資金や教育資金をどのように貯めていけばいいでしょうか。最初に家計管理の現状から考えてみましょう。


現在の家計データを見ると、月46万円の収入に対して、支出は33万円。表面上は月13万円の黒字となります。しかし、実際は月1万円、年間12万円が貯蓄に回るとのこと。他に、毎月の生活費以外に年間50万円の支出(帰省費用、交際費)を計上していますが、それでも年間94万円の行方が分かりません。もし、どのように支出したかを把握されていないなら、それは“使途不明金”となります。

使途不明金があるということは、気付かないうちにお金が「流れている」という状態。家計管理においてもっとも避けるべきリスクです。

改善策としては家計簿が有効ですが、継続しないと意味がありません。なので、最初は完璧を目指さず、毎月いくら支出しているのか、ざっくりと記録するだけで構いません。固定費(家賃、保険料など)と変動費(食費、交際費、雑費など)の大枠で分類するだけでも大丈夫。月ごとの変動費の振れ幅が見えてくれば、傾向が分かり、問題点も見えてきます。

併せて、家計を予算化します。予算はもちろん支出額を抑えることにつながり、その結果、目標とする貯蓄が可能となります。同時に、お金の使い方に「自信」が持てるという効果も大きいのです。予算内であれば、「いつの間にかお金が減る」というストレスや不安がなくなり、安心して使えるからです。

ただし、こういった支出管理は往々にして「できない理由=いい訳」が優先してしまうことがあります。しかし、年間94万円、もしくはそれに近いまとまった額の使途不明金があるとすれば「そのままでいい」とは思えないはずです。

先に、保険迷子さんは保険の見直しに悩まれました。それは、支出を見直す意識があるという点では、とてもいいことです。ただ、そのこと自体、家計改善の効果は少なく、同時に家計全体ついてはまだ見通しの甘さがあるとも言えます。

当初は、なかなか家計の予算化や、その先の貯蓄が難しいと感じるかもしれません。しかし、だからこそ、今こそ「やるしかない」というマインドチェンジをしてみましょう。

■アドバイス4:これを機会に、今から教育資金づくりも始めたい
資金づくりのための具体的な貯蓄額ですが、最初に、教育資金づくりについて。

以下、今から始められる方法となります。

①月1万円の児童手当ですが、これは教育資金に回します。現状ではあと6年間支給されますので、最大で72万円。学資保険や定期積立(NISA制度の積立など)で少額から積立を始めましょう。お子さまが9歳なので大学入学まで9年。高校卒業までの9年間で108万円になります。

②①とは別に、家計から最初は月5000円でもいいので、教育資金のための貯蓄に回します。

ボーナスがない場合、毎月の家計からどれだけ貯蓄できるかがポイントです。家計管理に慣れてくれば、増額も可能だと思います。

次に、住宅資金。先に、必要な自己資金(頭金も含めれば300万円)について触れましたが、2年後にこれだけ備えるためには、少なくとも教育資金とは別に年間100万円程度の貯蓄が必要です。もし、使途不明金が94万円あり、それを全額貯蓄に回せても、必要な資金には届きません。

したがって、住宅購入については、購入時期の延期や物件価格を下げるなど、プランの変更、柔軟な見直しが必要でしょう。教育資金同様、親御さんから支援が受けられるかもしれません。

ともあれ、無理に購入すれば、教育資金や老後資金にも影響します。同時に、資金づくりは継続することが重要。一度に全ての支出について節約するのではなく、優先順位を考え、できる費目から焦らず一歩一歩進めていく。そのことで、保険迷子さんのご家族に合った、無理のない将来が描けると考えます。

■相談者「保険迷子」さんから寄せられた感想
このたびは、お忙しいなか、家計の相談にお時間をいただき誠にありがとうございました。改めて課題がたくさんあることを確認させていただきました。道のりは遠そうなのですが、ご提示いただいた内容に少しずつ向き合っていこうと思います。

教えてくれたのは……平野 泰嗣(ひらの やすし)さん

ファイナンシャル・プランナー、キャリアコンサルタントとして活躍。FPの妻と2人でFPオフィス Life & Financial Clinicを創立し、「自分らしく生きること」をモットーにライフ・ファイナンス・キャリアの3つの視点でのアドバイスをする。中小企業診断士として経営者・従業員のライフプラン支援も行っている。著書に『30代夫婦が働きながら4000万円の資産をつくる 考え方・投資のしかた』(明日香出版社)。All Aboutマネーの連載『ふたりで学ぶマネー術』も人気

取材・文/清水京武
編集部おすすめ