更年期以降は女性ホルモンが減少します。コレステロール値が上がりやすくなり、骨量が減少して骨粗しょう症リスクが高まることは、よく知られている通りです。


そして女性ホルモンは、実は「糖代謝」にも深く関わっています。更年期を迎えると血糖値が乱れやすくなるのはそのためです。その仕組みと効果的な対策法を、やさしく解説します。


■更年期以降で大きく変化! 月経周期で変わる女性ホルモンと血糖値の意外な関係
女性の体は、月経周期に合わせてホルモンが変動します。生理開始から排卵までの「卵胞期」には、エストロゲン(卵胞ホルモン)が多く分泌され、インスリンの効きをよくすることで、血糖値が安定します。

一方、排卵後から次の生理までの「黄体期」には、プロゲステロン(黄体ホルモン)が増加します。プロゲステロンはインスリンの働きを妨げるため、血糖値が上がりやすくなります。加えて、この時期にはむくみや食欲増加を感じる人も多く、特に甘いものを欲する傾向があるため、血糖値の乱れにつながります。


■更年期のエストロゲン低下で、血糖コントロールが難しくなる理由
更年期を迎えると、エストロゲンとプロゲステロンの分泌が大きく減少します。特にエストロゲン低下はインスリンの効きを悪くするため、血糖値上昇の要因となります。

また、更年期以降は内臓脂肪がつきやすくなりますが、内臓脂肪から分泌される物質には、インスリン抵抗性を強める働きがあります。そのため、血糖コントロールがさらに難しくなります。


加えて、更年期に起こりやすい、のぼせや発汗などのホットフラッシュ、不眠、気分の落ち込みなどの症状は、「ストレスホルモン」とも呼ばれるコルチゾールを増やし、血糖値をさらに乱れやすくします。

このように、女性ホルモンの減少と生活の変化が重なることで、更年期は血糖コントロールがこれまで以上に難しくなるのです。


■女性が閉経後に糖尿病リスクで男性に追いついてしまう背景
更年期前までは、女性は男性に比べ糖尿病の有病率が低い傾向にあります。これはエストロゲンなどの女性ホルモンがインスリンの働きを助け、血糖や脂質代謝を守ってくれているためです。

しかし閉経後、女性ホルモンが急激に減少すると、その保護効果が弱まり、男女差は小さくなります。人によっては、男性よりも血糖コントロールが難しくなる場合もあります。

つまり、更年期は「糖代謝の転換点」であり、この時期の過ごし方が将来の健康に影響すると言えるのです。


■食事・運動・睡眠・医療を組み合わせた更年期以降の血糖対策の基本
では、どのように血糖コントロールを工夫すればよいのでしょうか? 大切なのは、「原因を知り、無理なく生活習慣を整えること」です。

▼1. 食事の工夫血糖値を急上昇させないために、白米や、全粒粉パンなどを除く多くのパンなどの精製された糖質を控え、野菜や海藻、豆類などの食物繊維を意識しましょう。魚や大豆製品に含まれるたんぱく質は、インスリンの働きを助けてくれます。大豆イソフラボンはエストロゲンに似た作用を持つため、更年期の女性におすすめです。

▼2. 運動習慣筋肉は血糖を取り込む最大の器官です。
週2~3回の筋力トレーニングと、ウオーキングなどの有酸素運動を組み合わせることで、インスリン感受性が改善します。特に内臓脂肪を減らすことが、血糖コントロールに直結します。

▼3. 睡眠とストレス管理不眠やストレスは血糖値を上げる大きな要因です。就寝前のスマホを控える、ぬるめの湯で入浴する、軽いストレッチや深呼吸を習慣化するなどの工夫で、快眠の習慣を整えましょう。趣味や友人との交流もストレス解消に役立ち、効果的です。

▼4. 医療的なサポート強い症状がある場合は、ホルモン補充療法(HRT)を検討することもあります。HRTは骨粗しょう症や動脈硬化の予防に加え、血糖改善効果も報告されています。ただし、副作用もあるため、主治医との相談が必要です。糖尿病がある方は、血糖測定や薬の調整を行いながら進めましょう。


■未来の健康を守るために、更年期こそ体を大切に!
更年期以降、女性の体は大きく変化します。女性ホルモンの減少は血糖値を乱れやすくし、糖尿病リスクを高める要因になります。しかし、食事・運動・睡眠・医療を組み合わせることで、血糖の安定は十分に可能です。


「更年期だから仕方ない」と諦めるのではなく、「更年期だからこそ自分の体を大切にする」視点を持ちましょう。体の変化を理解し、前向きにケアを続けることで、更年期を健やかに過ごすことができるのです。

▼荒牧 昌信プロフィール日本内科学会総合内科専門医。「やさしい言葉とわかりやすい説明」をモットーに、クリニック院長として外来診療に従事。糖尿病・生活習慣病に関するセミナー・講演会も多数。ひとりでも多くの人が健康的な生活を送れるよう、役立つ医療情報を発信中。
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