■きちんとすることが一番
「しつけに関しては小さいころから厳しくしてきました。人に迷惑をかけてはいけない、道徳心を失ってはいけない。だからうちの子たち、電車内で騒いだこともありません。少しでも大きな声を出すと私がにらむ。そうするとすっと静かになるんです」
しつけはうまくいっていた。小学校に入る前から、子どもたちは平仮名も片仮名も読めた。簡単な漢字も書けた。天才にはなれなくても秀才にはなれる。そのためには母親の覚悟が必要なのだと、ルミさん(47歳)は信じていた。
そうやって育てた娘は20歳、息子は17歳になった。親戚の紹介で見合いした2歳上の夫は、一流私大を出た「当時はエリート」だったという。そこそこ名の知れた企業での幹部候補と聞いていたのだ。
「お見合いして付き合って3カ月くらいで結婚を決めたんです。最初は好青年という感じだったし、実際に人当たりはいいんですが、夫はエリートではなかった。出世も遅い。本人は社内外に友人が多いと言っているけど、いくら友達が多くても出世はできませんからね」
■娘を疑ってしまった
社内のムードメーカーで、宴会には欠かせない人物。花形の営業部にいるが、冷静で緻密な分析あっての営業は苦手で、人間性で突破口を切り開き、人間性で成果を上げるタイプらしい。今どき流行らないが、「義理人情は欠かせない」というのが夫の口癖だとか。
「だから家庭内でもしつけも教育もしてくれない。子どもたちとはくだらないことを話して笑ってばかり。娘が小学校2年のとき、たまたま教室で友達の筆箱がなくなった。なぜか娘に疑惑がかかったんですよ。その前に娘がその子の筆箱をうらやましがっていたから」
娘には同じ筆箱をねだられていたが、ルミさんは「絶対にダメ」とにべもなく拒否した。まだ使えるのがあるのにほしがるのは、あなたの心が卑しいからだとまで言った。
「夫は私に『そんなことあるわけないだろ』と怒鳴りました。そして娘を連れて学校に直談判に行った。結局、友達の勘違いだったんです。家に筆箱を置いてきてしまったのに、それが言い出せなかっただけ……」
ルミさんの言葉は娘をひどく傷つけたのに、それには気付かなかった。夫に指摘されて謝ったし、娘も納得してくれたと思い込んでいた。
■娘は私を恨んでいた
その後は何ごともなく成長していったように思っていたのだが、娘は高校生になってから帰宅が遅くなった。繁華街をうろついているらしい。何度か補導もされた。そのたびにルミさんは「どうして」と娘を揺さぶったが、娘は答えようとしなかった。
あるとき、夫が娘と二人で1泊旅行に出掛けた。帰宅してから夫が語ったのは、娘の心の傷だった。
「あの筆箱の一件だけではなく、私は小さいころから娘を傷つけてばかりいたって。何を言っても否定される、褒められたことは一度もない。弟とケンカしても『あんたはお姉ちゃんなんだから譲りなさい。女の子は優しくしないといけないの』と決めつけられた。だけど娘は私に逆らったことさえなかったんですよ。言いたいことがあれば言えばいいのに」
娘が父に話したところによると、「お母さんには逆らえなかった。一言言い返したら、百倍になって返ってくる」と言ったそう。
「きみはオレのいないところで、子どもたちをどう調教していたんだ」と夫に言われ、ルミさんは初めて、自分の子育てがまさに調教だったと分かった。言葉をしゃべれない子どもは動物と同じ、ダメなことは叩いて教えなければと思っていた。そしてそれは、ルミさんが母親から受けた教育でもあった。
「私は思春期以降、母をずっと恨んでいました。それなのに母と同じことをしていた。
■家族が家を出て
心底分かっていたわけではなく、頭で理解しようとしていたのだろう。その後、娘は夫と共に近くのアパートに移り住み、そこでは夫の母が家事を仕切った。気付いたら息子も、そのアパートに行ったきりになった。今から3年前のことだ。
「私は孤独になり、絶望して死のうとまで思いつめました。でも夫は『いつか修復できるから。きみも今までの自分を振り返ってみて。家族は壊れない』と励ましてくれたんです。時々子どもたちに会って話すようになりました。だんだん本音をぶちまけあうようになって、半年前には娘と私がつかみあいにまでなった」
だが、そんなやりとりを通して、最近、ようやく少しずつ互いを分かりあえるようになってきた。
「全て分かり合おうとしなくてもいいと夫に言われて。私は潔癖すぎると。私自身は自分の生き方を曲げられないけど、相手を認めることはできる。今はそう思います」
家庭は再生できるのか。ルミさんはできると信じたいと少し笑みを浮かべた。









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