大げさかもしれませんが、何かの拍子に「あの人、もう本当にどうにかしたい!」と、怒りや妬みで、真っ黒な感情を抱く瞬間は、普通に生きている人間にも、何度か訪れると思うのです。

世の中には「善意」もたくさん存在しているけれど、それと同じくらい、いやたぶんそれ以上に「悪意」はそこら中にあふれています。


「魔の領域」に足を踏み入れることは、たぶんすごく簡単です。

でもその場所は予想以上に暗黒で、一度入ってしまうと取り返しがつかない可能性も高い。

今回ご紹介したい本は「怪談えほんシリーズ」として発売されている、子ども向けの怪談えほん『悪い本』(宮部みゆき/岩崎書店)です。

子ども向けに描かれていますが、大人でも鳥肌が立ちます。

「おいで、おいで。あなたにもあるでしょう。悪い心が」 そんな悪魔のささやきが、クマのヌイグルミに形を変えて、聞こえてきます。

自らを「はじめまして わたしは 悪い本です」といきなり自己紹介を始めるこちらの絵本。

さて、あなたは一体どうやって悪意という感情と向き合いますか?



※宮部みゆき/作 吉田尚令/絵『悪い本』(岩崎書店)2011年

心のストッパーになってくれるものセピア色で描かれた部屋の一角。本棚には、お人形がたくさん乗っています。

この絵本の中では一体何が「悪い」のかは、はっきり描かれていません。

ただ、クマのヌイグルミが、主人公の女の子にどんどん迫っていく構図になっており、この世には正しいことだけではなく、「憎悪」も存在することを、ゆっくりと吹き込んでいるように見えました。


そして「悪い本」は、「いちばん悪くなったならなんでもできるようになる。いつかあなたはわたしがほしくなる。そのときまたあいましょう」と告げるのです。

私が今までの人生で、自分の内側にある激しい悪意を抑えることができたのは、たぶん、育ててくれた両親の優しさだったり、好きな人の悲しい顔を見たくないという思いだったり、お気に入りの本の一説が心を強く支えていてくれるからです。

だからそのような、自分以外の誰かが自分を思ってくれた記憶を、忘れたくないと願います。

でも、まだ残りの人生で、悪意を抱く瞬間は、何度も何度も必ず来る。悪魔のささやきは、いろいろな場面で繰り返されるでしょう。

どうか、負けませんように。

「善意」だけが正しいなんて思わないけれど、誰かを傷つけて得るものなんて、恐らく一つもないはずです。

Photo by Pinterest & e-hon『悪い本』
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