1月26日(金)より約20年振りの完全新作劇場作品として絶賛公開中の『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』。キラとラクスの絆に影を落とす本作のキーパーソンであるオルフェ・ラム・タオ役を演じる下野紘さんに、「ガンダムSEEDシリーズ」への思いや参加して感じたプレッシャー、またオルフェの内面などについてうかがった。


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――今回の出演が決定した時のお気持ちは、どんなものでしたか。

下野 昭和生まれのアニメオタクということで(笑)、「ガンダム」という響きにはどこか心躍るところがあるわけです。なので、お話をいただいた時は驚きと共に嬉しい気持ちがありました。以前『機動戦士ガンダムUC』にも出演させていただきましたが、今回のオルフェというキャラクターはしっかりとキラたちと絡むメインの役柄ということで、さらなる喜びと共に緊張感が増していきましたね。

――『ガンダムSEED』という作品に対してはどういう印象をお持ちでしたか。

下野 『SEED』放送時は僕自身が声優を始めたばかりの頃で、仕事のことで頭がいっぱいなために観ることができなかったんです。
勿論大人気の作品ということや、有名な声優の皆さんが数多く出演されていることは知っていましたので、「自分もいつか関われたらいいな」と思っていました。
今回の出演のために初めて「スペシャルエディション」を観させていただいたのですが……すみません、キャラクターのイメージでキラキラした作品世界を勝手に想像していたら、すごくシリアスでドロドロのヒューマンドラマが展開されていて本当に驚きました。

――約20年前の作品になるわけですが、時代のギャップみたいなものは感じませんでしたか。

下野 全然感じなかったですね……そうか、20年も前の作品ですよね! 改めて言われると驚きますね。今のアニメ作品と並べても、劣る部分は何もない気がします。

――下野さんが先程おっしゃられていましたとおり、オルフェは本作の中で中核をなすキャラクターです。
演じる上で大切にされたこと、あるいは事前に特別に準備されたことはありますか。

下野 1ページ分くらいの資料をいただいたくらいなので、特に準備らしい準備はしていないです。台本を開いて初めて「これ、思った以上に大変かも」と(笑)。新人声優かなというくらい本当に緊張しながら演じさせていただきました。

――オルフェを演じる中で印象に残っていること、例えば楽しかったことや苦しんだことはありましたか。

下野 楽しかったのはキラと対峙している時です。
チクチク言うのが本当に楽しくて(笑)。(収録は)保志さんと一緒に収録したのですが、キラの反応も「それは……」みたいな弱々しい感じなものですから、「よし、ここは畳み掛けてやるぜ!」といった感じで、オルフェの中の悪意ある部分を感情込めて演じられたと思います。

逆に難しいと感じたのが演説です。一つひとつのセリフが長いのもあるのですが、(福田監督から)「その部分部分で語りかける対象が変わってくるから、それに対してどういう気持ちで言っているのかを考えてやってみてください」と言われたんです。なかなか自分で思い描いたようにまとめられなくて、何回もトライさせていただきました。

――ガンダムという作品の中では、演説シーンは特に印象強いイメージですよね。


下野 本当にそうですよね。福田監督も「銀河(万丈)さん、榊原(良子)さん、池田(秀一)さんとか、やっぱり演説が上手い人は芝居が上手いんですよ」とおっしゃっていて(苦笑)。「だからね、下野くんも頑張って」と言われたら「はい、頑張ります」しか言えないです。あれほどプレッシャーを感じることはありませんでした。

――オルフェの役作りに関して、他に何かディレクションはあったのでしょうか。

下野 公の場と個人個人に対し、それぞれに色々な表情を持ったキャラクターだ、という説明を受けました。
特にラクスに対しては乙女ゲームかと思うくらいに優しさや好意をアピールすることに重視して、片やキラに対しては最初から敵意をむき出しに、というようにそれぞれの表情を豊かに出してもらいたい、とディレクションされましたね。

――現場で共演されたキャストの皆さんの印象などをお教えください。

下野 僕自身は「オルフェをどう演じよう」とものすごく緊張していたわけですが、周りの皆さんは20年前から演じられているキャラクターというところで、落ち着きぶりが段違いでした。皆さん、伸び伸びと演じられているし、一旦休憩に入ると「ここ『ガンダムSEED』の現場だよな?」と思うくらいにほのぼのとした雰囲気で会話をされていて。そのすごさと楽しさを感じました。

今回のこの『SEED』の現場で感じられたのは、先輩の皆さんの演技は作品のキャラクターとしていろいろ調整されたものであり、しかもそれを常に演じることができるよう準備をされているということでした。
先輩たちのキャラクターへの思いと熱量を感じたので、自分もその熱量を持って収録に臨みましたし、そういう姿勢を持ち続けたいと思いました。

(C)創通・サンライズ

――劇場版の台本をご覧になられて、物語全体の印象や展開的に面白さを感じられたところはありましたか。

下野 オルフェで言うと、宰相という立場にあって堂々とした大人な印象があるのですが、その中身は実は子どもなんだと思う瞬間が見えるんですね。アウラから言われたことに何も疑問を持たず、自分の考え方を変えることもなく生きてきたのではないでしょうか。
だからラクスがなびきそうになってもギリギリでダメになった瞬間に「チッ」と舌打ちをしたり、キラに対しての態度も単に「お前生意気だな、とっちめてやんよ!」といったものなんですよね。そういう部分は可愛らしくもあり、面白いなと思いました。

あと驚いたのは、中村(悠一)くん演じるシュラと石田(彰)さん演じるアスランのラストバトルです。「何、そのハレンチな妄想で急に戦況が一変って?」と(笑)。いやいやラブコメじゃん、もう少しシリアスに戦おうぜとなりました。

――では、すごく驚いたりグッときたシーンは?

下野 オルフェに関しては「もうちょっと距離の縮め方を考えようよ」と。近いんですよ、最初から(笑)。そこに驚きました。ラクスに関してもキラに対してもそう、どれだけ鬱々としたものを抱えていたんだよと思いました。
あとはラストの戦闘シーンですね。今まで演じるキャラがロボットに乗る機会や戦闘シーンに登場することがあまりなかったんです。『UC』の時もMSを整備する側だったのでやっと、念願が叶いましたし、演じている時もすごく気合が入りましたね。

――『SEED』を初めてご覧になった際に「ドロドロのヒューマンドラマ」という印象を受けられたとのことでしたが、今回のお話を表現するとしたら?

下野 本当に僕個人の感想ですが、物語はかなりシリアスですが、基本的には今まで『ガンダムSEED』で活躍してきた様々なキャラクターが次々と登場する「フェス」だなと思います。特に後半の展開はそんな感じで……そう考えると、さっきのラブコメ要素も面白いなと思います。

――ファウンデーション内では、アウラとイングリットとの関係も印象に残りました。

下野 アウラはオルフェのお母さんということなんですが、二人の会話は母と子ではなく「国王と宰相」、あくまで主従関係での会話しかしていない印象で、二人はどういう親子関係だったのか、それも見てみたかったですね。
かたやイングリットは逆の主従関係という……イングリットはオルフェに対して特別な感情を抱いていますが、オルフェ自身は全く眼中にない。自分は本当にこの世界を統べる人間になる。そのために必要な存在はラクスである、という考え方しかないんですよね。

――実際、オルフェはラクスのことを愛していたと思いますか?

下野 もちろん好意が全くないというわけではないと思うのですが……ラクスを想う「切実さ」みたいなものが僕はあまり感じられなかったんですよ。ラクスに対しての話しかけ方も「君の考え方は間違っている」「君は僕に従うべきなんだよ」と諭す内容のものばかりなんですね。果たしてそれは本当に愛と呼んでいいのかなという気がして……どちらかというと「使命感の好意」を抱いているような気がしますね。

――最後のイングリットとのやり取りで、オルフェは本当の愛情を知ることができたと思いますか。

下野 アウラとの様子を見ていると、これまで母親からの愛情を受けることもなかったのではないかな、という気がします。なのでイングリットが自分に対して愛情がある、好意があるというのはわからなくても、ただ彼にとってずっと側にいてくれた存在だったということは理解したかも知れないですね。もし、そこから先の時間が彼らにあったとしたら、また違ったオルフェの中の感情が生まれたのではないでしょうか。

――ところで、本作の中で個人的に気になったキャラはいますか。

下野 これはみなさんそうだと思うのですが……アグネスですよね!(笑) いろいろな意味で強烈ですし、「なぜ桑島法子さんが演じられているんだ? 何をどうしたいんだ?」と(笑)。

――これまでのシリーズでも、桑島さんは一波乱起こすキャラクターを演じていますしね。

下野 本当ですよね。ここまで「またかい?」と思わせるキャラクターはなかなかないですよね。ただ「ああ、『ガンダムSEED』だな」と感じるところでもありますが(笑)。あとは、やっぱりキラかな。

――オルフェとの関わりも大きいですしね。

下野 『SEED』の時から考えると、かなり大人っぽくなったという印象です。あの頃だとオルフェにあんな風に責められたら自分の感情を直接的に出していたのではないかと思いますが、今回は思うところがあってもグッと飲み込んでいるように見えました。それがあったから余計に僕の「強気に出てやろう」という悪意の火が点いてしまったのですが(笑)。

――では最後に、この作品を観る際にここに注目してほしい、という下野さんお勧めのポイントなどはありますか。

下野 まず最初は昔を懐かしんでいただきつつ、何も考えずに楽しんでほしいです。次に観る時には、先ほどから話しているオルフェの子どもっぽい部分を頭の端っこの方で意識していただけると、また違った見方、違った感じ方ができるのではないかと思います。
そして、本当に映像もすごいことになっていますので、何度も観ていただいて細かいところも余さずチェックしてみてください。

下野紘(しもの ひろ)
4月21日 東京都生まれ。アイムエンタープライズ所属。主な出演作は『鬼滅の刃』(我妻善逸役)、『ONE PIECE』(光月モモの助役)、『僕のヒーローアカデミア』(荼毘役)、『進撃の巨人』シリーズ(コニー・スプリンガー役)、『ラーゼフォン』(神名綾人役)など。

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