バンプレストと東映アニメーションの共同プロジェクトとしてスタートした『京騒戯画』は不思議な作品だ。PVアニメからスタート、ネット配信を経て、2013年10月にテレビシリーズ化に至る。
アニメ作品としては珍しい道を辿る。
そこで繰り広げる映像も、ハイセンスでエッジの効いた世界観、これまでにない演出を感じさせる。PV発表以来、作品を高く評価する声があちらこちらから聞こえてくるのも納得だ。
さらに本作の監督の松本理恵さんがいまだ20代だと聞くと、その恐るべき才能に驚かされる。一体、松本監督は、いかにして『京騒戯画』を創りだしたのだろうか?立ち上がりから、最新のテレビシリーズまでについてお話を伺った。
[取材・構成:数土直志]

『京騒戯画』
http://www.kyousougiga-tv.com/
TOKYO MXにて毎週水曜日25時30分より放送中
BS朝日にて毎週金曜日 25時30分より放送中

■ はじまりは「好きにやってください」という感じ

アニメ!アニメ!(以下AA)
『京騒戯画』はショートPVから始まって、ネット配信、DVD配布と、立ち上がりがとても変わった作品です。そうした作品の監督をするきっかけはどういったものですか?

松本理恵監督(以下松本)
『京騒戯画』の話を、私が初めていただいたのが2年前ぐらいです。『ハートキャッチプリキュア!』が終わった直後で、次に何をやるという時でした。
そこにバンプレストさんとオリジナルアニメをやるとの話を言われました。担当したプロデューサーが私を指名したかたちです。

AA
その前に監督された『ハートキャッチプリキュア!』は誰でも知っている大きなタイトルです。一方『京騒戯画』は、ゼロからの作品となりました。
そうした違いは感じられましたか?苦労した点みたいなものはありますか?

松本
「何でもやっていいよ」と言われると面白いこともたくさんあるのですが、何をやっていいか分からなくなることも多いですね。最初はその部分での戸惑いはありました。
最初は5分の映像を作ったんです。その時は武器を持った女の子が主人公というお題だけをいただいたんです。それと出来れば萌えアニメみたいなものでとの話でした。でも、萌えアニメは上手くできるか分かりませんと話したところ、「女の子を主人公としたアニメを5分」になりました。

その時点であまり何も決まっていなくて、「好きにやってください」という感じでした。ただ時間はあまりなかったんです。設定を細かくやり、世界観を骨太にという時間はなく、瞬発力で、その時にいいと思ったもの、それまでやらなかったものを詰めました。

■ テーマがというよりも、欲しい絵を優先

AA
今回の舞台は作中では“鏡都”、日本の京都ですが、この着想はどこから来たのですか?

松本
古い寺院がもともと好きなんです。京都は、分かりやすく日本の古いものがある場所ですよね。妖怪も出したかったので舞台としていいなと思ったんです。
一般の人が音で聞いて、インスピレーションが湧くものを、ちょっと借りた面があります。
ずっと昔から人が営みを続けていて、あちらこちらで人が生きている。自然が残っているというよりも、人為的なものが残っている、そこがいいかな。

AA
実際にはリアルな京都からはだいぶずらされているのですが、そのずらし具合はどのような意図ですか?

松本
最初の5分の作品は、「鏡の国のアリス」をモチーフに使っていたんです。それに人間もいて、妖怪もいて、メカみたいなものも出しちゃえと、あまり普通にやるよりも闇鍋感があるほうがいいなと。テーマがというよりも、欲しい絵を優先しました。
いまある現実をリアルに表現するよりは、名前を聞いた時にパットくるイメージだけをもらって、そこに自分のイメージを重ねるほうがしっくり来ると思いました。

■ むしろ、王道が作りたい

アニメ!アニメ!(以下AA) 
本作は東映アニメーションの制作ですが、東映アニメーションはオーソドックスというイメージも多いと思います。一方で、『京騒戯画』は、これまでと違う新しさを目指した映像という印象を受けました。新しいものをという意識はあったのでしょうか?

松本理恵監督(以下松本)
私はあれを自然にやっているんですよ。むしろ、私は王道が作りたいんです。
プリキュアの時も、私は王道で作っている感じでした。
プリキュアの時と、『京騒戯画』の時と感覚はあまり変わらないんです。

AA
今回キャラクターデザイン、作画監督で参加されている林(祐己)さんは監督と同じ世代ですが、林さんとのやりとりはどうしたかたちですか?

松本
私と林さんは専門学校から一緒で、東映アニメーションでも同期なんです。それとアニメをやるきっかけが同じなんですよ。
私も林さんも『ぼくらのウォーゲーム』(『劇場版デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』)を観てアニメをやろうと思ったんです。多分テーストが似ているんですよね。興味のあるところが近かった気がします。

■ 狙ったのは、与えられ時の最大瞬間風速

AA
最初に5分の映像があり、その次にネットでもミニシリーズとなりました。今回テレビシリーズになりますが、物語は混沌としてそこが魅力にも思えます。物語を構成することを、どう考えられていますか?

松本
最初の時に、「次はないからね」と言われたんです。毎回次はないからねと。それで、その時に与えられたなかでベストを尽くすんです。いまあるもので必要なことをやるとなると、その時の最大瞬間風速の大きなものを狙うわけです。


松本
30分の時は、これで終わったらこのキャラクターの映像作品はもうないと思ったので、全部のキャラクターを出すというのを自分に課したんです。
5分の時に作った世界観と、全員のキャラクターを出す。それでなんとなく概要が出来て、これで終わりなら、終わりだと思っていたところで、もう一回やれと。

今度は40分の尺があったのですけれど、フォーマットも自由で、1本40分でもいいし、分けていいというかたちでした。
いままではPV的な世界観紹介をやらざる得ない感じだったので、キャラが多いから、キャラひとりひとりにスポットをあてるかたちになりました。少し方向性を変えてドラマを推すかたちになりました。

AA
今回のテレビシリーズは?

松本
いままで飛び石状にあったキャラクターやお話の間を埋めていくようなかたちです。そう作れればいいなと思っています。

AA
作品はネット発ということで始まったのですが、テレビとの違いは意識されるのですか?

松本
シリーズと劇場といった違いなら、レイアウトの取り方を変えたり、演出的な違いはあるのでしょう。けれど、見せるターゲットさえ決まっていれば、何で放送しようと、あまり変わらないと思います。

AA
そのターゲットはどのように考えられたのですか?

松本
10代後半から20代のアニメの好きな層、というのがありました。

■ 自分のなかの中二病はある程度突き詰めてみようかなぁ…と(笑)

アニメ!アニメ!(以下AA)
多くのかたが松本監督を20代でデビュー、若手として注目されています。
これはどう考えられますか?

松本理恵監督(以下松本)
もともと早くやりたいというのがあって、早く、早くと。何でもそうなんですけれど、なるべく早い頃やって、老後は、山梨とか北海道でと思ったんです。
劇場で監督をやる時は、プロデューサーが私と仕事をしたことがあったかたで、それで気にかけて頂いて、松本にやらせたいと、それで結果的にやらせていただきました。すごいラッキーでしたね。
プリキュアの劇場の監督をやるということは、親孝行にもなりました。私も親が喜んでくれるというのはあったんですよね。プリキュアの劇場版を任された時は、すごくうれしかったです。

AA
優れた監督は多いのですが、20代で作るというのは決して多くないと思います。作品に世代感や、いまの自分でしか作れないものがあるといったことは感じられますか?

松本
行き当たりばったり感はあるかもしれません。経験値が低い時のほうが楽しめる事もあるのかもしれませんね。あまり計算をしないで。
中二病ってあるじゃないですか、いつまでも世界の終わりと自分のことを考えている。
私は20代のうちに自分のなかの中二病はある程度突き詰めてみようかなぁ…と(笑)。世代というよりも個人の話ですね。すみません。

30代、40代になれば周りの世界が変わって来ると思うんです。なんだかんだ20代は閉塞的だと思うんですよ。10代の時は一人しかいなくて、20代になって少し増えたけれど、やはり閉塞は変わらない。そのなかで煮詰まるもの、あまり外に目が向かない状況だから作れるものはあるんじゃないかなと思います。そこはネガティブに考えずに、逆にポジティブに作れるといいのかなと思います。

■ キャラクターたちに落とし前をつけられるように

AA
最後にひとつ、本作品を作るうえで、これだけは成し遂げたかったというものがありましたら宜しくお願いします。

松本
キャラクターたちに一区切りをつけさせたかったんです。終わりない状態で作っていたので、あの人たちがほったらかしになる恐れがあったわけです。
いくら二次元のキャラクターとはいえ、作ったからには責任があるし死ぬまでは描けなくても3ヵ月位でも良い。それをひとつの区切りとしてきちんと完結させたかったんです。

『京騒戯画』というタイトルのついた、鏡都に住んでいる人々の話、それをシリーズとして始まりと終わりをきちんと作れるのがよかったですね。機会をいただけたのはありがたいという感じです。
ほったらかしにするのは、キャラクターに対する裏切り行為だと思うんですよ。無責任じゃないですか。言われたから作ったけれど、その後は、もう作る機会をもらえなかったから、君たちのことどうにもならないよというのはいけないと思うんですよ。
ほったらかしにせず、落とし前をつけられるようにやっています。

AA
ありがとうございました。

『京騒戯画』
http://www.kyousougiga-tv.com/
TOKYO MXにて毎週水曜日25時30分より放送中
BS朝日にて毎週金曜日 25時30分より放送中

Blu-ray&DVD
12月6日(金)より順次リリース
全6巻
Blu-ray 各7000円(税抜)
DVD 各6000円(税抜))
発売元:東映ビデオ   販売元:東映
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