2002年9月に劇場公開された今 敏監督の代表作『千年女優』が初めてBlu-ray化される。2月21日にバンダイビジュアルより発売される。
『千年女優』は、2010年に世を去った今 敏監督が残した4本の長編映画でのなかではBlu-ray化される最後の作品である。ニュープリントテレシネ/HDマスタリングでの美しい映像も注目されている。
国内外で数々のアワードを受賞する高い評価、そしていまなお多くのファンから支持される本作は、いかに生み出されたのだろうか?
Blu-rayの発売を機会に、本作のキャラクターデザイン・作画監督を務めた本田雄さんに当時の様子について伺った。本田雄さんが、『千年女優』と今 敏監督を語る。
『千年女優』特集ページ展開中
http://animeanime.jp/special/323/recent/
■ 『PERFECT BLUE』から始まった今 監督の付き合い
― 本田雄さん(以下本田)
『千年女優』をやっていたのはもう15,6年ぐらい前でしょうか。
― アニメ!アニメ!(以下、AA)
公開は2002年ですね。
その『千年女優』に、本田さんが参加されたのはどういう経緯なんですか?
― 本田
話がくる前に『PERFECT BLUE』の原画に関わらさせてもらったんです。そのときに今さんに割と気に入ってもらえて。1年か2年後ぐらいに、今さんから声が掛かったんです。
とりあえず飲み屋からはじまったんですよね。それで「いいですよー」って気軽に引き受けたんですが、自分にとっては劇場作品のキャラクターデザイン、作画監督ははじめてだったので。後から「しまったなぁー」と。
― AA
本田さんは、キャラクターデザインの仕事は決して多くありませんが、その作品は『千年女優』ですとか『電脳コイル』といったアニメ史に残るようなものばかりです。
これは何か選ばれているのですか?
― 本田
人と絵の傾向です。自分の好きな傾向の絵は選んでいます。萌えキャラとは違う作品をやりたいなと思っていたんです。今さんは、リアルかつ線も少なめを目指していましたから。それと意気投合したのもあってです。
― AA
好きな方向は、リアルかつ線は少なめと考えてもいいですか?
― 本田
描くのが早いほうではないので、なるだけ作業を合理的にやれる絵が好きなんです。どちらかというと止め絵で見せるよりは動かしたい。そういう作品ができたらなといつも思っているんです。
― AA
リアルという話がでたのですが、リアルというと線が多いというイメージもあるかもしれません。でも『千年女優』は線が少なく、かつリアル感が出ています。リアルに見せるコツみたいなものはあるのですか?
― 本田
リアルなのは今さんの絵のまとめ方が巧いからです。
■ 藤原千代子のデザインはこうして誕生した
― AA
『千年女優』では、主人公・千代子の年齢が少女時代からお年寄りまで描かれています。また、数々の衣装も描かれています。線を少なく描きつつ、それを一人の人間と感じさせるのはすごいですよね。
― 本田
そこは、いまだに上手くいっているのか、自分ではすごく不安です。年齢ごとに、声優さんも変わる訳ですから。上手く引き継げているのかは、自分でもちょっと心配なところで…。でも、あの頃は出来る限りやったんですけどね。(笑)
本線を少なめにすると、特徴をだしづらくなる弊害があるので、目の横にホクロを付けたりすることで差別化を図りました。
― AA
登場するキャラクターのデザインはどれくらい描かれたのですか?
― 本田
メインキャラはだいだい描きました。
― AA
デザイン作業中に、今監督とはどのようなやりとりをされていたのでしょうか?
― 本田
「まず好きに描いてみて」みたいな感じですね。自由に描かせてもらいました。今さんがデザインをしている部分は発注がないんです。その場合はコンテで設定を作っているような状態でした。
― AA
千代子のデザインは、日本の代表的な女優が総体になっている感じもありますが。
― 本田
もともと一人の女の子が女優として、いろんなバリエーションの人生をダイジェスト的に見せていく作品ですから、時代劇から特撮、女刑務所に入ってる女囚まで、いろんなバリエーションを見せたかったんです。
― AA
千代子の年代に分けてデザインをしていった順番はあるのですか?
― 本田
10代の千代子が先だと思いますね。それから70代を描いて、あとは間を埋めていく感じです。幼少期の千代子をおかっぱにするのは最初に決まっていたと思います。
(C)2001 千年女優製作委員会
■ 親分肌の今 敏 監督
― アニメ!アニメ!(以下、AA)
先ほど今さんと意気投合されたとの話があったのですが、どういうところが馬が合ったのでしょうか?
― 本田雄さん(以下本田)
今さんが合わせてくれてたのもあるんです。
もともとはすごく好戦的な人なのに。(笑)
― AA
講演会とかトークショーとか何回か取材させて頂いたことがあるんですが、ざっくばらんな物の言いが魅力でした。
― 本田
そうなんですよね。あの自信がまた羨ましいなぁとは思うんです。
― AA
今さんとは絵を描く者同士通じ合うところはあったのですか?
― 本田
今さんのマンガは好きで読んでいたし、ああいうリアル系なものをいっぺんやりたいなと思っていたんです。
『PERFECT BLUE』の原画をやっていた時に、芝居をまじめにやっていたのがすごく気に入ってもらえたんです。
「すごく原画がわかりやすいよね」とか、「ジメジメしてなくてカラッとしてる部分がいい」とすごく褒めてもらった記憶があります。
(C)2001 千年女優製作委員会
■ 『千年女優』だから1000カット
― AA
『PERFECT BLUE』の時は、何カットぐらい描かれたのですか?
― 本田
30カットぐらい描いたと思います。その時は『エヴァンゲリオン』と掛け持ちだったので、そのぐらいしかできませんでした。
― AA
『千年女優』のときは何カットぐらいですか?
― 本田
『千年女優』では、作画監督だったので、原画自体は描いてません。
― AA
絵の動かし方で何か特に気をつけた点はありますか?
― 本田
突出した部分をなくすことですね。いろんな人が原画を描いているとやっぱり、動かし方とか絵も描く人によって変わってくるので、そこを平たく持っていくという作業には気を付けたつもりで。行き過ぎている動きはちょっと抑えるという感じですね。
― AA
『千年女優』はゆるやかに動き続けるという印象があります
― 本田
自分では、止めたりしているつもりです。ただ今さんは映画の流れからテンポで見せようと、無意味に止めないように考えていたかも知れないですね。
『千年女優』は、枚数もそんなにかかっていないんです。今さんのやった中では多分一番少ないのではないのでしょうか?
― AA
全体のカット数はどのくらいですか?
― 本田
『千年女優』だから1000カットを目指していたんですよね(笑) 実際には1000とちょっとあったんじゃないでしょうか。今さんの中にも、それ以上は無理だろうというのはあったみたいです。
(C)2001 千年女優製作委員会
■ 『千年女優』から『妄想代理人』まで
― AA
『千年女優』の後は、『東京ゴッドファーザーズ』があり、『パプリカ』は参加されていないですね。
― 本田
今さんが『パプリカ』をやってるときは、自分が『電脳コイル』をやっていたころなんです。
― AA
そうすると『東京ゴッドファーザーズ』が、今さんとの仕事では、最後になりますか?
― 本田
『妄想代理人』も少し手伝わせてもらいました。
― AA
忙しい中でも、今さんのためにはあえてやろうという気持ちは常にあったのでしょうか?
― 本田
今さんの作品はやっていて楽しいんです。
後編に続く
[本田雄(ほんだ・たけし)アニメーター、キャラクターデザイナー]
1968年生まれ、石川県出身。スタジオカラー所属。
1987年のOVA『レリックアーマー・レガシアム』で動画デビュー。22歳で作画監督として『ふしぎの海のナディア』に参加。『新世紀エヴァンゲリオン』ではOP作画や作画監督を、同劇場版『Air』ではEVAシリーズのデザインやメカ作監などを担当。
OVA『青の6号』や映画『東京ゴッドファーザーズ』『イノセンス』などで原画を担当。『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』ではメカニック作画監督、『:破』では作画監督及びデザインワークス、そして『:Q』では総作画監督を務める。
『千年女優』ではキャラクターデザインと作画監督を担当。
(C)2001 千年女優製作委員会
『千年女優』は、2010年に世を去った今 敏監督が残した4本の長編映画でのなかではBlu-ray化される最後の作品である。ニュープリントテレシネ/HDマスタリングでの美しい映像も注目されている。
国内外で数々のアワードを受賞する高い評価、そしていまなお多くのファンから支持される本作は、いかに生み出されたのだろうか?
Blu-rayの発売を機会に、本作のキャラクターデザイン・作画監督を務めた本田雄さんに当時の様子について伺った。本田雄さんが、『千年女優』と今 敏監督を語る。
『千年女優』特集ページ展開中
http://animeanime.jp/special/323/recent/
■ 『PERFECT BLUE』から始まった今 監督の付き合い
― 本田雄さん(以下本田)
『千年女優』をやっていたのはもう15,6年ぐらい前でしょうか。
― アニメ!アニメ!(以下、AA)
公開は2002年ですね。
その『千年女優』に、本田さんが参加されたのはどういう経緯なんですか?
― 本田
話がくる前に『PERFECT BLUE』の原画に関わらさせてもらったんです。そのときに今さんに割と気に入ってもらえて。1年か2年後ぐらいに、今さんから声が掛かったんです。
とりあえず飲み屋からはじまったんですよね。それで「いいですよー」って気軽に引き受けたんですが、自分にとっては劇場作品のキャラクターデザイン、作画監督ははじめてだったので。後から「しまったなぁー」と。
(笑)
― AA
本田さんは、キャラクターデザインの仕事は決して多くありませんが、その作品は『千年女優』ですとか『電脳コイル』といったアニメ史に残るようなものばかりです。
これは何か選ばれているのですか?
― 本田
人と絵の傾向です。自分の好きな傾向の絵は選んでいます。萌えキャラとは違う作品をやりたいなと思っていたんです。今さんは、リアルかつ線も少なめを目指していましたから。それと意気投合したのもあってです。
― AA
好きな方向は、リアルかつ線は少なめと考えてもいいですか?
― 本田
描くのが早いほうではないので、なるだけ作業を合理的にやれる絵が好きなんです。どちらかというと止め絵で見せるよりは動かしたい。そういう作品ができたらなといつも思っているんです。
― AA
リアルという話がでたのですが、リアルというと線が多いというイメージもあるかもしれません。でも『千年女優』は線が少なく、かつリアル感が出ています。リアルに見せるコツみたいなものはあるのですか?
― 本田
リアルなのは今さんの絵のまとめ方が巧いからです。
『千年女優』は、ほとんど今さんのレイアウトを基に描いているんです。そのベースがあるからできるんです。そこはすごく勉強させてもらいました。
■ 藤原千代子のデザインはこうして誕生した
― AA
『千年女優』では、主人公・千代子の年齢が少女時代からお年寄りまで描かれています。また、数々の衣装も描かれています。線を少なく描きつつ、それを一人の人間と感じさせるのはすごいですよね。
― 本田
そこは、いまだに上手くいっているのか、自分ではすごく不安です。年齢ごとに、声優さんも変わる訳ですから。上手く引き継げているのかは、自分でもちょっと心配なところで…。でも、あの頃は出来る限りやったんですけどね。(笑)
本線を少なめにすると、特徴をだしづらくなる弊害があるので、目の横にホクロを付けたりすることで差別化を図りました。
― AA
登場するキャラクターのデザインはどれくらい描かれたのですか?
― 本田
メインキャラはだいだい描きました。
ただ、宇宙服は自分で描きましたが、戦国武将は今さんが描いていますね。今さんは描くのがすごく早いんです。
― AA
デザイン作業中に、今監督とはどのようなやりとりをされていたのでしょうか?
― 本田
「まず好きに描いてみて」みたいな感じですね。自由に描かせてもらいました。今さんがデザインをしている部分は発注がないんです。その場合はコンテで設定を作っているような状態でした。
― AA
千代子のデザインは、日本の代表的な女優が総体になっている感じもありますが。
― 本田
もともと一人の女の子が女優として、いろんなバリエーションの人生をダイジェスト的に見せていく作品ですから、時代劇から特撮、女刑務所に入ってる女囚まで、いろんなバリエーションを見せたかったんです。
― AA
千代子の年代に分けてデザインをしていった順番はあるのですか?
― 本田
10代の千代子が先だと思いますね。それから70代を描いて、あとは間を埋めていく感じです。幼少期の千代子をおかっぱにするのは最初に決まっていたと思います。
(C)2001 千年女優製作委員会
■ 親分肌の今 敏 監督
― アニメ!アニメ!(以下、AA)
先ほど今さんと意気投合されたとの話があったのですが、どういうところが馬が合ったのでしょうか?
― 本田雄さん(以下本田)
今さんが合わせてくれてたのもあるんです。
とにかく親分肌なんです。後輩のような慕ってくる人間にはすごい優しいんですよ。
もともとはすごく好戦的な人なのに。(笑)
― AA
講演会とかトークショーとか何回か取材させて頂いたことがあるんですが、ざっくばらんな物の言いが魅力でした。
― 本田
そうなんですよね。あの自信がまた羨ましいなぁとは思うんです。
― AA
今さんとは絵を描く者同士通じ合うところはあったのですか?
― 本田
今さんのマンガは好きで読んでいたし、ああいうリアル系なものをいっぺんやりたいなと思っていたんです。
『PERFECT BLUE』の原画をやっていた時に、芝居をまじめにやっていたのがすごく気に入ってもらえたんです。
「すごく原画がわかりやすいよね」とか、「ジメジメしてなくてカラッとしてる部分がいい」とすごく褒めてもらった記憶があります。
(C)2001 千年女優製作委員会
■ 『千年女優』だから1000カット
― AA
『PERFECT BLUE』の時は、何カットぐらい描かれたのですか?
― 本田
30カットぐらい描いたと思います。その時は『エヴァンゲリオン』と掛け持ちだったので、そのぐらいしかできませんでした。
― AA
『千年女優』のときは何カットぐらいですか?
― 本田
『千年女優』では、作画監督だったので、原画自体は描いてません。
― AA
絵の動かし方で何か特に気をつけた点はありますか?
― 本田
突出した部分をなくすことですね。いろんな人が原画を描いているとやっぱり、動かし方とか絵も描く人によって変わってくるので、そこを平たく持っていくという作業には気を付けたつもりで。行き過ぎている動きはちょっと抑えるという感じですね。
― AA
『千年女優』はゆるやかに動き続けるという印象があります
― 本田
自分では、止めたりしているつもりです。ただ今さんは映画の流れからテンポで見せようと、無意味に止めないように考えていたかも知れないですね。
『千年女優』は、枚数もそんなにかかっていないんです。今さんのやった中では多分一番少ないのではないのでしょうか?
― AA
全体のカット数はどのくらいですか?
― 本田
『千年女優』だから1000カットを目指していたんですよね(笑) 実際には1000とちょっとあったんじゃないでしょうか。今さんの中にも、それ以上は無理だろうというのはあったみたいです。
(C)2001 千年女優製作委員会
■ 『千年女優』から『妄想代理人』まで
― AA
『千年女優』の後は、『東京ゴッドファーザーズ』があり、『パプリカ』は参加されていないですね。
― 本田
今さんが『パプリカ』をやってるときは、自分が『電脳コイル』をやっていたころなんです。
― AA
そうすると『東京ゴッドファーザーズ』が、今さんとの仕事では、最後になりますか?
― 本田
『妄想代理人』も少し手伝わせてもらいました。
― AA
忙しい中でも、今さんのためにはあえてやろうという気持ちは常にあったのでしょうか?
― 本田
今さんの作品はやっていて楽しいんです。
ご一緒出来ませんでしたが、『パプリカ』のときは仕事場には遊びに行ってました。『電脳コイル』も同じマッドハウスでやっていたんです。訪ねに行くと冷蔵庫からビール出してきてくれて(笑) 忙しいのに付き合ってくれたりしたんです。
後編に続く
[本田雄(ほんだ・たけし)アニメーター、キャラクターデザイナー]
1968年生まれ、石川県出身。スタジオカラー所属。
1987年のOVA『レリックアーマー・レガシアム』で動画デビュー。22歳で作画監督として『ふしぎの海のナディア』に参加。『新世紀エヴァンゲリオン』ではOP作画や作画監督を、同劇場版『Air』ではEVAシリーズのデザインやメカ作監などを担当。
OVA『青の6号』や映画『東京ゴッドファーザーズ』『イノセンス』などで原画を担当。『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』ではメカニック作画監督、『:破』では作画監督及びデザインワークス、そして『:Q』では総作画監督を務める。
『千年女優』ではキャラクターデザインと作画監督を担当。
(C)2001 千年女優製作委員会
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