今作では“父親復権”がテーマとなっており、野原家の父・ひろしがギックリ腰を治しにいったはずがロボットに改造され、「父ゆれ同盟(父よ、勇気で立ち上がれ同盟)」による巨大な陰謀に巻き込まれていくというストーリーだ。
アツいオヤジの戦いに笑えて泣ける、大人も子供の必見の今作について長編アニメ監督に初めて挑んだ高渉監督に制作の裏側について伺った。
[取材・執筆=川俣綾加]
*「高」の字は本来は、「はしごだか」になります。
劇場版『映画クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』
http://www.shinchan-movie.com/
―アニメ!アニメ!(以下、AA)
これまでテレビシリーズで長年コンテ演出などを担当されてきました。本作が劇場版での長編監督を初となりますが、緊張はありましたか?
―高橋渉監督(以下、高橋)
最初はやはり緊張しましたが、「クレヨンしんちゃん」は長く関わっていて周りのスタッフも僕が制作進行をしていた頃から知っている人ばかりなんです。「高橋がやるの? しょうがないな~」みたいな雰囲気です。
スタッフの入れ替わりは毎年ありますが、中核を担っているのは何年も一緒に制作に携わっているスタッフなのですごく安心感や信頼感がありました「この人たちの力を頼りにすればいいんだな」と気持ちを切り替えてから楽になりましたね。
―AA
今回の監督の立場はどのように決まったのでしょうか。
―高橋
ずっと「監督やりたいなオーラ」を出していたんです。それこそ入社当時から。
それがやっと実ったのか、ある日、和田泰チーフプロデューサー、吉田有希プロデューサーに呼び出されて「前々から考えてたんだけど、監督やってみる?」とお話をいただいて、覚悟を決める間もなく決まって、アイデア出しをした感じです。
―AA
ひろしがロボットになるというアイデアは高橋監督からだったそうですが、そこから父親がテーマになった経緯を教えてください。
―高橋
父親をテーマにしたのは、脚本の中島かずきさんです。
―AA
ロボットというアイデアはどこから得たのでしょうか。
―高橋
「いつかかっこいいロボットアニメを作ってみたいな」という、僕の単純な欲です(笑) 今でもガンダムなどハイクオリティなロボットアニメが生まれ続けていますよね。そういう作品に憧れもあって、アニメ業界にいるならやっぱり一度はロボットアニメを! ということでロボとーちゃんになったんです。
これまでもロボットは「クレヨンしんちゃん」劇場版に登場していましたが、メインとして描かれたのはこれが初めてです。これまでと違って比較的リアル寄りなロボットにようと思って、改造後のひろしはこんなデザインになっているのですが、そこはやっぱりしんちゃんで……。だんだん、突拍子もない設定になっていきました(笑)
―AA
脚本を初めて読んだ時の感想は?
―高橋
荒馬のような印象をうけました、速く、力強くて、言うこと聞いてくれない(笑)
絵コンテの最中は何度振り落とされたことか。でも障害をものともせず突き進んで行く物語進行ははじめての快感でした。中島かずき脚本。これはクセになります。
とはいえ父親をテーマにしたことに加え、「父ゆれ同盟」で世界を広げ。
もう「さすが」の一言に尽きます。
―AA
あがってきた脚本に対して、高橋監督から何か追加したものはありますか?
―高橋
これは今作に限らず「クレヨンしんちゃん」全体にいえることですが、制作過程でスタッフから出てきたアイデアはどんどん取り入れていきます。ギャグ一つとっても、脚本にあるものはもちろん入れますし、声優さんのアドリブも入れたり、作打ち(作画打ち合わせ)で「これ入れたら面白いかも?」とアイデアが出たら入れたり、みんなでお客さんを楽しませようという気持ちがあるからですかね。コントロールされた、全部計算尽くめの作品では無いんです。
無軌道なようですが、今作は中島さんに太い筋道のついた脚本をいただきましたので遊べるところは思いきり遊ばせていただきました。
―AA
映画でみせて笑わせるほどのおやじギャグはそう思い通りに浮かぶものではないですよね。
―高橋
そうなんです。思いついてスタッフに「このギャグどう?」「う~ん…つまんない」と返されるとうんうん言いながら3日くらい考えた挙げ句、トイレでアイデアが浮かんだり。コントロールされていないというのは、だいたいそういう意味でもあります。
―AA
「父親像」と聞いて高橋監督がイメージするものは何でしょうか。
―高橋
僕の父は寡黙で、厳しい人でした。
後編に続く