TVアニメ『純潔のマリア』がいよいよクライマックスを迎えようとしている。本作は中世ヨーロッパの百年戦争の時代を舞台に、争いが嫌いな魔女・マリアが戦争を止めるべく奔走するファンタジーだ。
監督は『スクライド』や『コードギアス 反逆のルルーシュ』を手がけた谷口悟朗氏、アニメーション制作はProduction I.Gが手がけている。
徹底した時代考証に裏打ちされた、リアルな中世ヨーロッパ描写は本作の見どころのひとつだ。その立役者であるチーフリサーチャーの白土晴一さんに話をうかがった。
[取材・構成=沖本茂義]

TVアニメ「純潔のマリア」公式サイト  
http://www.junketsu-maria.tv
3月29日(日)22時30分 TOKYO MXを皮切りに最終話放送

■ 初めに行ったのは“講義”

――白土さんは「チーフリサーチャー」とクレジットされていますが、どのようなことを担当されたのでしょうか?

白土晴一氏(以下、白土)
アニメーション作品に設定考証として参加する時には、作品ごとに方法が変わってきます。たとえば『ヨルムンガンド』では、僕は原作漫画から関わっていて、TVアニメではシリーズ構成の黒田洋介さんと話し合う形でした。
『純潔のマリア』に関してはずいぶん色んなことをやっていて、一言では難しいのですが……、時代考証やその表現方法に関してアドバイスや提案をするというスタイルでした。たとえば「中世時代なのでこうした表現がいいかもしれません」と提案すると、監督が「じゃあそれでいきましょう」と、そんなやり取りをしていました。

――「設定考証」ではなく「チーフリサーチャー」というクレジットには、特別な意味があるのでしょうか?

白土 
本作に参加するときに監督から「もっともらしい名前をつけましょう、設定監督はどうですか?」とも提案されたのですが、それはそれで偉そうで嫌だったんです(笑)。それでチーフリサーチャーとしてもらいました。

――中世ヨーロッパを舞台とした作品ですが、原作漫画を読まれてどう思われました?

白土
アニメーションで中世ヨーロッパを描いた作品はかなり少ない。「歴史もの」といっても単純に考証を深めたら良い作品になるというわけでもなく、表現との兼ね合いであえて“逃げる”ときもあります。でも最初に監督にお話を伺った時、「ガチでやる」と宣言されたので、よし、腹をくくろうと(笑)。

まず、中世ヨーロッパの風俗や宗教観は外せないから講義をしてほしいと依頼がありまして、毎週1回3、4時間の講義を半年間にかけて行いました。

――講義はどんな内容だったのでしょうか?

白土
15世紀中盤という設定なので、その時代のことをいろいろお話させていただきました。たとえば市民の食生活や経済概念、傭兵の支払いシステムに到るまで何でもですね。そのなかから監督やシリーズ構成の倉田(英之)さんが作品として広げられそうなところを拾い上げるというスタイルで。

――もともと中世ヨーロッパにお詳しかったのでしょうか?

白土 
いえ、そういうわけではないんです。べつに“中世マニア”ではなく、調査してその情報を作品に落としこむというのがリサーチャーの仕事なので。「歴史」に関してはそこそこ自信はあったのでお受けした部分もあったのですが、実際やってみるとかなり手ごわかったです(笑)。

(C)石川雅之・講談社/純潔のマリア製作委員会

■ 提案して作品の幅を広げる

――実際に映像を観ても、市民生活や戦闘シーンにいたるまで、考証が徹底しているように感じました。

白土
基本的には、確認すべきところが出てきたらその都度調査してというやり方でした。初期のころは、フランスのテレビドラマの輸入DVDやBlu-rayを買いあさって、どこまできっちりと描くのか? どこまで嘘をついてもいいのか? と、中世ヨーロッパを描くときに最適なリアリティラインを割り出しました。また、当時のビジュアル資料は写本くらいしかありませんが、写本というのは見栄えをよく描かれているので当然“嘘”もある。参考にしつつも、リアリティを取るか見栄を取るかは、総作画監督の千羽(由利子)さんと中田(栄治)さんを中心にした作画陣の判断にお任せしました。


――基本的には提案ベースなんですね。

白土
ええ、作品の幅を拡げられるように「こういうのどうですか?」と提案するほうが大事かなと。「歴史もの」の場合、あまりにも考証をガチガチに固めてしまうと、話を広げられなくなってしまう。あくまで作品の方向を決定するのは、監督やシリーズ構成の倉田さんの役目なので。

――調査するにあたって、やはりたくさんの資料にあったのでしょうか?

白土 
ええ。ですが膨大な量の資料を調べても、実際にアイデアとして活かされるのはごくわずかなんです。私が関わった設定考証の仕事は、9割は捨てる覚悟でやらないと結果は出せない。でも、調べたものを詰めこもうとすると、物語に対して情報量が過剰になってアンバランスになってしまう。ただ、そうは言いながらも『純潔のマリア』に関しては若干つめ込み過ぎた気もしています……。

――公式ホームページの解説コラム「なぜなに中世事情」を見て、ここまでやっていたのかと驚きました。

白土
あれは僕の贖罪みたいなものなんです(笑)。ちょっと難しく設定をつくりこみ過ぎた気がしていて、千羽さんや中田さんを始め、アニメーターさんなどに負担を強いてしまったなと……。
せっかく細やかに描いてもらっているので、視聴者のみなさんに少しでもその細やかさに気づいてもらえればと、自ら書いています。でも、読み返すと僕のバイブスで溢れていると思うので、もっと中立的に描くべきかなと思いますね。

――作品としては、“宗教”も重要な要素となっています。

白土
宗教観に関しては、原作漫画や史実に沿う形で、現場で疑問が出てきたらその都度調べて「こうじゃないか」じゃないかとアドバイスする形でした。司祭のベルナールの説教に関しては、当時の説教集をずいぶん読み込みましたし、脚本上の宗教的な台詞は倉田さんに流れを決め頂き、その後で中世神学的なセリフに置き換えたりしています。

――原作には登場しないベルナールは、物語やテーマ的にも重要となるオリジナルキャラですが、当時の司祭のイメージと比べるとどうなんでしょうか?

白土
実はけっこう違いますね。ベルナールは近代的なものの象徴、ルネッサンスの人という立ち位置を想定したキャラクターでした。さらに言ってしまうと、現代の我々でもある。マリアも現代の我々と近いものの見方をするキャラクターですが、それ以上にベルナールは我々に近いと思います。

――マリアは市民を救おうと奮闘しますが、天界や教会からヒドい仕打ちを受けます。

白土 「キリスト教に対する批判だ」と捉える方もいらっしゃるかもしれませんが、本作はそういった意味合いの話ではありません。現在のヨーロッパを形づくったのはキリスト教は欠かせないし、豚裁判にしても現在の裁判制度の基礎を築いた側面がありますので。


後編に続く (3月27日アップ予定)

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TVアニメ『純潔のマリア』公式サイト
http://www.junketsu-maria.tv
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(C)石川雅之・講談社/純潔のマリア製作委員会
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