安彦良和漫画原作/総監督のアニメーション作品『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』の「シャア・セイラ編」がいよいよ完結する。2015年よりシャア・アズナブルの過去を描く物語として、全4話構成で発表されてきた「シャア・セイラ編」は2016年11月19日(土)2週間限定上映の『機動戦士ガンダム THE ORIGIN IV 運命の前夜』で幕を下ろす。

本作では運命の女性、ララァ・スンの登場が大きな見どころとなっている。ララァとの出会いはシャアにどのような変化をもたらすのか――そのはじまりが描かれる。
アニメ!アニメ!では『THE ORIGIN IV 運命の前夜』上映を記念し、シャア・アズナブル/エドワウ・マス役の池田秀一とララァ・スン役の早見沙織の対談を実施。作品への思い、世代を超えた二人の役へのアプローチ方法など丁寧に話していただいた。
[取材・構成:細川洋平]

『機動戦士ガンダム THE ORIGIN IV] 運命の前夜』
2016年11月19日(土) 2週間限定イベント上映スタート。Blu-ray Collector's Edition上映劇場にて先行販売。
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――「シャア・セイラ編」全4話、振り返ってのご感想をお聞かせください。

池田秀一(以下、池田)
長いようで短かったですね。『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』の過去編にあたる「シャア・セイラ編」をアニメ化すると聞いて、漫画原作で読んでいて、キャスバルからエドワウ・マス、シャア・アズナブルへとなっていくプロセスを「やってみたいな」と思ったんです。でも年齢的な問題もありますし、ちゃんと演じられるのか自分でもわからなかったのでオーディションをやらせてくれないかと申し出ました。結果、エドワウからやらせてもらえることになり、その時はよろこびと意気込みに溢れていました。ただ、今振り返ると「大変だったな」と(笑)。
やりたいと言った手前、今まで黙っていましたけどね(笑)。今はひと安心しています。

――共演者にはさまざまな世代のキャストが揃いました。

池田
安彦さんの漫画原作を読んで自分なりにイメージを作って行くわけですが、アルテイシアはどう来るのか、ガルマは、ララァはどう来るのかは一人でイメージしようがなく、現場で作っていくしかないわけです。今回のアフレコは、メインキャスト揃ってできたので、演技はキャッチボールですから、僕は現場に入る時にイメージをゼロにして、アルテイシアやガルマ、ララァと掛け合いをしました。だからおもしろかったですよ。
僕もスタジオへはドキドキしながら行けましたし、みなさんが僕を"導いてくれた"と思っています。

――一方、早見さん演じるララァ・スンは第4話で初めて登場します。まずは役に決まった時の心境をお聞かせください。

早見
正直に申し上げますと『機動戦士ガンダム』は、一部を見ていましたが、全話を通して見たことがなかったんです。オーディションに向けて役柄を調べたり、映像に触れてイメージを膨らませていきましたが、オーディションの段階で役を完成させていた訳ではなくて、音響監督さんやいろんな方の指示をいただきながら探っていく感じで。そもそもオーディションの時は自分が受かるなんて思っていなくて、ただ『ガンダム』のオーディションを受けさせていただいたことがうれしくて、その日はホクホクした気持ちで帰りました。
その後、「ララァ役に決まりました」とご連絡をいただいてから、プレッシャーが生まれました(笑)。

――潘恵子さんが演じられているララァ像もある中での役へのアプローチはどのように進めたのでしょうか。

早見
やっぱりみなさん、潘恵子さんが演じたララァの雰囲気は共通認識としてあるものだと思いながらも、私は潘さんをマネすることはできないし、同じところへ向かおうとするのはぜんぜん違うと思ったので、歴史や重みは常に意識しながら、何より現場に行くと何もかも真っ白な状態になるので、そこでいろいろな方に話をいただきながら作っていったという形です。

――池田さんは早見さんの演じるララァをどのように受け止められたのでしょうか?

池田
『THE ORIGIN』は安彦ガンダムなんですよね。だから、新しいララァを作ってもいいんじゃないかな。もちろん新しいガルマであっていい。
僕は柿原(徹也)くんにも「柿原ガルマを作ればいいんじゃないの?」と言ったし、早見さんは早見ララァを作ればいいんだと思いますね。

――現場に池田さんのような、導いてくださる方がいるというのは大きいですね。

池田
そんなことないですよ。いずれ導かれるわけですから(笑)。

早見
いえいえ! 大きいです。とても大きいです!

――お二人はどのような意識を持って掛け合いを進めたのでしょうか。
またこの先はどうなっていくと思いますか?

池田
この第4話というのは二人の出会いです。この先、大筋としての物語はもちろん決まっていますけど、早見ララァと池田シャアの関係がどうなるのかは僕にもわからないんです。池田シャアも、今までとは違う、ニュー・シャアですから。

早見
今の池田さんのお話をうかがって思ったのですが、漫画原作の一読者としていろいろ考えるのと、マイク前に立たせていただいて喋るということは全く違うんですよね。今回、第4話で初参加・初登場でしたが、どんどん想像していないものになっていったんです。完成してみるまで、自分自身でも分からない部分があるというのを現場でもすごく感じました。それこそ池田さんに導いていただいた部分が多かったなと思います。
個人的なエピソードで言うと、初めて現場に入った時に池田さんが握手をしてくださって。それで何か、すごく救われた気持ちになって泣きそうになりました。

池田
いや、僕としてはシャアがララァに挨拶をした、という感覚でした。池田秀一という声優が早見沙織さんに挨拶をした、というものではなく。

早見
ええ、そんな感じでしたね。とてもあたたかなものでした。

――実際に掛け合いをしてみていかがでしたか?

早見
私は真っ白だったのであまり覚えていないです(笑)。でも緊張感がありましたね。

池田
早見さんとは初めて芝居をしたんです。どんな俳優さんなのかも全然知らなかったので、どういう風に言葉を掛けてくるのかも分からないし。それでちょっと勉強してみようかなと思って早見さんの他の出演作品を聞いてみようかと。

早見
ええ!? 知らなかったです!

池田
そう思ったてたんですけど、やめたんです。情報はない方がいいと思って。それで現場に行って、シャアとしてララァに声をかけました。あのシーンは僕にとっても初めての出会いでした。

――とても印象的なシーンです。

池田
そこで僕は自分でも思いがけなかったんですけど、あのシーンでアルテイシアを思い出したんですよ。「そういえばアルテイシアはどうしているんだろう」って。漫画原作には何も描いていないんですけど、そう感じました。想定外でしたね。早見さんとやってみてフッと思い出す。そういうところは、やってておもしろいですよね。きっと違う女優さんだったらアルテイシアじゃなくてお母さんのアストライアを思い出していたかも知れません。

早見
ああ!

池田
誰がいい、何がいい、ということじゃないんですよね。ただ、やっていく中で何かが生まれる。そういうのも含めて、先ほど言った「僕はわかりません」という言葉に繋がるんです。

早見
私はあのシーンを演じていて印象に残っていることがあります。漫画原作を読んでいても特に思わなかったのですけど、現場に行って池田さんのお声でシャアが話しているのを聞いた時、すごくドキッとして、ハッと。もちろん緊張してドキドキしていたんですけど、それとは違う、急にパーンと弾けるような感じがあって。それを今思い出しました。

――お二人は本作のアフレコに臨むに当たって特別に準備したり切り替えのためにしたことというのはありますか?

池田
もう37年やっていますからね。ガンダムに関しては準備や予習というのはしないですね。やっぱり安彦さんの絵でモニターからシャアが出てくれば、自然と僕もそうなりますから。シャアがララァに「やあ」と語りかける時、僕は同時にシャアにも言ってるんですよ、「やあ、久しぶりだね」って。あとは相手役がどう来るのかなと少し考えるくらいですね。

早見
私は予習はしますけど、例えば儀式をしたりこれをすると言ったジンクスはないですね。今回は、お風呂に入った時に「ああ、明日ガンダムのアフレコだなあ! ドキドキする!」って思いながらずっと役のことを考えたりはしましたが、スタジオに入る前に気合いを入れて声を出すとか、そういうことはなかったです(笑)。

――ありがとうございます。最後にお二人からメッセージをお願いします。

早見
今回で「シャア・セイラ編」は完結となりますけれども、『THE ORIGIN』としては、初めてララァが登場いたします。私にとっても、みなさまにとっても、ララァとシャアにとっても初めての出会いの場所となります。それをみなさまがどうお感じになるのかとても楽しみにしていますし、これから続く「ルウム編」にも思いを馳せて、第4話をじっくり鑑賞していただければうれしいです。

池田
「シャア・セイラ編」の最終話、モビルスーツの戦いもついに出てきますし、完結編にふさわしい物語になっていると思います。ぜひご覧ください。