千眼美子が今どのような生活を送っているのだろうか。話を伺えると聞いた時にまず思い浮かんだのはそんな疑問だった。
どんなリズムで生活をしているのか、以前と比べてどのくらい変化したのか、そして今後女優としての展望は? そういったことを伺えたらと思った。

アニメーション映画『宇宙の法―黎明編―』が10月12日(金)より日米同時公開となる。その中で千眼は重要なキャラクターである宇宙最強の女帝ザムザを演じる。
千眼の声優出演は『龍の歯医者』以来2度目だ。『龍の歯医者』での演技は素晴らしいものだったが、今回話をうかがっていくと、彼女らしい苦悩とでもいえばいいのか、当時のアフレコでの様子も語ってくれた。
声優への思いはもちろん、身の回りのことから役へ取り組む姿勢、驚くような状態からスタートした歌手活動、好きなアニメ作品など、千眼の心を形作っているいくつか。
このインタビューを通じて何かを受け取ってもらえたら何よりだ。
[取材・構成=細川洋平]

■役は作るんじゃなくて、なる

――最近はどんな毎日を過ごしているのでしょうか。

千眼
普段は”聖務"と呼んでいる仕事をして過ごしています。
今日のように取材や撮影がある時は女優として出てきて、それ以外は出家者でもあるので、勉強をする毎日ですね。
お祈りや瞑想もしますし、仕事場でパソコンを使い事務をしたりもしています。そのなかで女優業を行っていますので、役に向けた準備とかもしつつ。

出家してからはありがたい事にいろんなお仕事に挑戦させていただいています。歌もやり始めたのでそのレッスンに通ったりという日々を過ごしています。

――そんな中で今回の『宇宙の法―黎明編―』のザムザ役を演じる事になりました。役作りはどういう風に進めていったのでしょうか。

千眼
ザムザさんは、弱肉強食の世界の頂点にいながらそれを正義だと思っている存在です。だから最初、私には分からないなあ難しいなあと思うことがたくさんありました。
「生身でやれ」と言われても私には絶対無理な役ですし。

――そうですね(笑)。

千眼
星が違い生きる環境が違ったら考え方も違ってくる。そう理解してザムザさんのセリフを一つ一つ「これはどういう思考回路で言ってるのかなあ」とか「どんな価値観で考えているのかな」と探っていきました。
"宇宙最強の女帝=戦闘的な感じ”と単純に考えるのではなく、配下に対する責任感や最強こその余裕というものをどうやったら声に乗せられるのか試行錯誤していきました。
だいたい、私、学生時代のヒエラルキーで上に立ったことがないのでわからなくて(笑)。
だから声色など演じ方を何パターンも練習していきました。

――"宇宙”や"3億3000万年前の地球”といったスケールの大きな作品世界をどういう方法で理解していきましたか?

千眼
それはシナリオに全てが集約されているのでそれを読み込みつつ、他の星が持つ価値観や宇宙人の存在というものを説明している本もたくさんあって、分からない箇所はそういうものを参照しながら穴埋めしていきました。
本を読むというのは今回の役作りの中では大事な作業でしたね。

――インプットは本がメインだったんですね。

千眼
もう関連本は全部読んだかも知れないです。
私、活字が苦手なんですけど宇宙人に関する書籍は昆虫図鑑を読んでいるような楽しさもあってしっかり読めちゃいました。

宇宙人の見た目や主食、どんな価値観を持った星か、といったことが盛り込まれている本で、「いろんな星があるけど、それらは個性がそれぞれ違うだけで、本当は同じ神様に創られた生き物なんだよ、宇宙はひとつなんだよ」ということも盛り込まれているのですごく深いところまで理解できました。

――千眼さんって役作りをする時に作品へ身体から何から丸ごと入る方なんじゃないかなと思っているのですが、いかがですか?

千眼
全部入りますね。自分の中では演じるというよりは「役になる」というところまでいかないとダメだなと思っていて。
芸能界にいた時から、お芝居をもっと上手になりたいとか、自分の表現力がもっとあればもっと伝えたいことはたくさんの人に届くのにって思うことが多かったんです。

その時に、「ならもっともっと役に徹すれば伝わるのかも知れない」と気づいて、それからはどうしたら役そのものになれるのかということを凄く考えるようになりました。
例えば普段の生活からザムザさんを同居させて、「千眼美子はこう考えてこう行動するけど、ザムザさんだったらこうするな」というのを常に考える。
それをずーっと続けていくと、ある時から思考の差がなくなるんです。

――同化するんですね。

千眼
だから悪い役だと抜け出すまでに時間がかかっちゃうし、それで結構ボロボロになっちゃうので気をつけなきゃいけないんですけど。ザムザさんの時も結構キツかった。
でもそのキツさに耐えられるかどうかって作品の中でキツい部分がちゃんと昇華されるかというのがすごく大事で、この『宇宙の法―黎明編―』はそういう意味でもキツさが「ああ、やってよかった」に変わったので。

――ザムザは作中で大きな変化が訪れるキャラクターですからね。

千眼
女帝としてゼータ星を支配する存在ですけど、主人公のレイと出会うことで変わっていきます。
演じている時は無意識だったんですけど、カットがかかると途端にくすぐったい気持ちが沸き上がっちゃうような(笑)。ザムザとレイの距離感は収録の時にすごく意識して行きました。

――注目ポイントはどういうところでしょうか。

千眼
全然違う価値観を持ったゼータ星というところから地球にやってきたザムザさんが、レイと触れ合っていく中で言葉じゃなく内面から理解していくところ。人間であるレイがレプタリアン(異星生物)であるザムザに"人とは"ということを教えていくシーンがすごく見どころかなと思います。

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■声の表現について、歌うことについて

――声のお仕事は今回で2回目。声だけで感情を伝えるということをどう感じていますか?

千眼
初めて声優をしたのは『龍の歯医者』でしたけど、その時はボロボロでした。
壁をヨイショって登るところも自分の身体を使えば「ふんっ!」て踏ん張る感じも自然に出るのに、立ってるだけのアフレコだと出ない! しかもそういう声がないと、リアリティが出ないということをアフレコ現場で初めて知って、「なんてことだ!」って思って。
現場で泣いちゃったんです。もう「ごめんなさい、こんな出来損ないで!申し訳ありません!」みたいになって。でもその時に共演者の方やスタッフさんたちが「こう言うときはこうするんだよ」って凄く優しくアドバイスしてくださったんです。

だから今回は「前回できなかったことを克服する!」という課題を持って挑みました。
無意識のところも意識して声にしていかなくてはいけないというのは声のお仕事特有だなあとすごく実感しました。
もう奥が深い! 長い鍛錬が必要になるぞ、と思ってます。

――最初にお話されていましたが、歌も本格的にはじめられていますね。

千眼
これもすごく難しくて……。私、元々すごく音痴で決まった音程が出せないどころか聞こえている音程がどこかも分からなくて違う音を出してしまう。ピアノの「ミ」を聞いて私は「レ」だと思って、さらにはその違いも分かってないくらい絶望的だったんです。

――ええー!!そこからですか!

千眼
ほんとそこからで(笑)。テンポも音程も取れない、もう難しくて「がんばれ、千眼!」って感じなんですけど、音楽は元々自分がいちばん好きだったというのもあって、ギターを弾くのが好きだし、歌詞を書くことだけは小さい頃からずっと続けてきたことだし、やっぱり好きなことは活かしていきたいと思って。
前回、映画『さらば青春、されど青春。』で出演だけじゃなく主題歌も担当させていただいた時に、難しさと同時におもしろさや楽しさも分かったので、続けていきたいなと思います。

――いやあ、そんなスタートだったとは全く思えないくらいの完成度で素敵な歌でした。

千眼
めっちゃ練習しました!

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■千眼美子はアニメ好き? 今ハマっているものは…

――ちなみに、アニメを見るのもお好きとうかがいましたが、どういうアニメをご覧になってきたのでしょうか。

千眼
今回の『宇宙の法―黎明編―』でもタイムジャンプというのをしているんですけど、時間関係のアニメ『時をかける少女』と『Steins;Gate』は特に好きです。
とくに『Steins;Gate』はものすごくハマってしまい、牧瀬クリスのフィギュア買っちゃいました。初フィギュアです。

――グッズを買うほどお好きだったんですね!

千眼
好きになると2Dじゃ触れないのが苦しくて(笑)。立体物になると「ここにいる!!」って実感するし、こんなにキャラクターが大事になるんだなあってフィギュアを買ってみて気づきました。本当は私もラボメンになりたい……
あ、そうだ、最近もたまたますごくおもしろいアニメに出会ってしまいました。

――それは?

千眼
はたらく細胞』です! めっちゃおもしろい!!と思って。白血球さんがすっごい好きなんですよ! バイ菌を追い出すことに徹している感じが素敵でなんです。もう出会ってしまった!
私、ハマってしまうと一気に見てしまうので今ヤバイです! 次はどこの器官に問題が生じるのかな! とか、早く帰って見たい!

――すごい熱量です(笑)。他にはどんな作品がお好きですか?

千眼
CLANNAD』や『涼宮ハルヒの憂鬱』とか、キャラクターの引力に惹きつけられちゃって一気に見てしまうんですよね。新海誠監督の『ほしのこえ』や『ノラガミ』もおもしろかったですね。
とくに好みのジャンルやクリエイターで見ているわけではなく、偶然出会ってしまってハマってしまうパターンが多いです。

――ありがとうございます。作品の話に戻りますが、前作という位置づけで『UFO学園の秘密』があります。『宇宙の法―黎明編―』は前作を見ないと難しいですか?

千眼
『UFO学園の秘密』に出てきた人たちの3年後の物語なので、もちろん見てもらえていたらより楽しめると思います。だけど『宇宙の法』単体でも、ちゃんと前作を回想描写的に説明してくれているので充分たのしめると思います。

――それでは、最後に読者にメッセージをお願いします。

千眼
地球の創世記といわれているものはいっぱいありますけど、これが本当の地球創世記なんだ!という意気込みのある作品だと思います。それから、異なる価値観同士が出会うことって普通の生活でもあることだと思います。
そんな時に、相手を「好き/嫌い」で線を引いて終わってしまうのではなく、その線を乗り越えて行くことを大切に描いている映画だと思っています。すごく嫌いな人がいる方とか、受け容れられない考えを持っている人とかに見てもらえると、そういう気持ちが楽になるのかなと思うし作品自体もたのしめるんじゃないかと思います。
ぜひ、どんなものかな?という感じでも見ていただけたらうれしいです。

あと、Twitterやっているので、オススメのアニメあったら教えてください!