久野美咲が純真無垢な少女・五実に込めた想い―映画「アリスとテレスのまぼろし工場」インタビュー (2023年9月23日)

「彼女のまっさらな白い部分に、だんだんと他の色が、まるで水滴がぽたぽたと落ちるように、ひとつひとつ入ってくるような、そんな表現をしたいと思いました。」現在公開中の映画『アリスとテレスのまぼろし工場』は、突然起こった製鉄所の爆発事故によりすべての出口を失い、時まで止まってしまった町を舞台とした物語。14歳の主人公・正宗は、気になる存在の同級生・睦実に導かれ、製鉄所の第五高炉へと足を踏み入れる。そこで言葉を話せない野生の狼のような少女・五実と出会ったことが、“変化を悪”とする世界の均衡を崩す始まりだった。五実役を演じるのは、脚本・監督の岡田麿里とこれまで数々の作品で並走してきた声優の久野美咲。今作のキーパーソンとなる少女・五実に、彼女が込めた想いとは。［企画・構成：吉野庫之介］自分を突き動かす衝動にしっかりと身を委ねる――岡田麿里さんとは『selector infected WIXOSS』『キズナイーバー』『ひそねとまそたん』『さよならの朝に約束の花をかざろう』でもご一緒されており、今作に関してはあて書きだったそうですね。本当に嬉しかったです。夢なのかな、って思いました。私の声優人生の中でも、このようなことは最初で最後だと思うので、自分のできることを精一杯全うしようと心に誓いました。――変化を禁じられた世界が舞台となる本作ですが、初めてシナリオを読まれた際の作品の印象は？ものすごく息苦しさを感じました。でも、「本来望んでいない状態で安定してしまっている」という状況って、私たちの日常生活でもよくあることだと思うんですよね。それが妙にリアルと言いますか。そこに現実味を感じて惹き込まれた部分はありますね。――五実を演じるうえで大切にされたこと、感情は？五実は純真無垢で、何も知らないんです。私たちが普段生活していく上で削ぎ落とされてしまう感情や感覚が、彼女にはずっと残っていて。それこそ、今の私には無い心を持ち続けていて。そんな彼女のまっさらな白い部分に、だんだんと他の色が、まるで水滴がぽたぽたと落ちるように、ひとつひとつ入ってくるような、そんな表現をしたいと思いました。――睦実と五実の対比関係について感じたことは？個人的には、睦実がうらやましいですね。彼女みたいに、自分の気持ちを扱ってみたいです。どちらかというと、私は五実みたいに、自分の気持ちを隠せないタイプなので、睦実には憧れてしまいますね。――「変化」がテーマのひとつにもなる本作ですが、学生時代のような思春期の頃と大人になった現在を比較して、ご自身の考え方がもっとも変化したと感じることはありますか？振り返ってみると、私の学生時代には思春期みたいなものが無かったですね。それでいうと、今がいちばん思春期かもしれません（笑）。考え方も変化しましたね。この作品の準備期間やアフレコ期間にも重なっているので、もしかしたら、五実と出会ったことも関係しているかもしれません。――映画を楽しみにされているみなさんへメッセージをお願いします。未来のことは誰にもわかりません。こうなりたい、こうしたい、この人と一緒にいたい、という夢や目標や恋心。漠然とした思いはみんな持っているけれど、色々なことを考えれば考えるほど、その自分の思いってなかなか突き通すことって難しいんですよね。でも、それでも、自分の心に湧き起こる気持ちや感覚に正直になって、自分を突き動かす衝動にしっかりと身を委ねれば、変えられる未来もあるのかもしれません。そんな未来を、観てくださる皆さんの心に映し出されたらいいなぁと、心から願っています。映画『アリスとテレスのまぼろし工場』全国公開中スタッフ・キャスト脚本・監督：岡田麿里副監督：平松禎史キャラクターデザイン：石井百合子演出チーフ：城所聖明美術監督：東地和生音楽：横山克制作：MAPPA配給：ワーナー・ブラザース映画、MAPPA主題歌：中島みゆき「心音（しんおん）」出演：榎木淳弥、上田麗奈、久野美咲、八代拓、畠中祐、小林大紀、齋藤彩夏、河瀬茉希、藤井ゆきよ、佐藤せつじ、林遣都、瀬戸康史（C）新見伏製鐵保存会