取材・文/天野歩美
――表題曲『グッドラック』はどのように制作されたのでしょうか。
畠中:『オーバーテイク!』という作品はとても繊細でハートフルで人間ドラマに溢れた内容なので、エンディング主題歌を歌わせていただけるというのは心から嬉しかったです。楽曲を最初に聞いたときに、みんな何かを抱えていたり傷があったりするけれど、それでも朝はやって来るという印象を受けて、寄り添える楽曲になったらいいなと思って。レコーディングでは一人の相手に話しかけるように、そしていろいろなものを全部包み込むような優しさを大事にして歌いました。
――歌詞には前向きに進んでいく姿が描かれていますが、共感できる部分はありますか?
畠中:もう、共感だらけです。Bメロのセリフになっている部分(”頑張った分だけちゃんと報われるといいのにな”ってキミが笑う)が特に好きで、相手を思った言葉や行動に触れたときって「ああ、ありがたいな」と心がふっと温かくなるんですよね。それがあるから、僕はやっていけているのかもしれません。
――歌詞にある理想の自分を追い求める姿も印象的です。畠中さんが思う、理想の自分像を教えてください。
畠中:自分の思い描いたことができる、でしょうか。
――2曲目は長編映画『家族という病』の主題歌『Psycho』。エレクトロニックな音と歌詞がとても印象的です。
畠中:楽曲にはいろいろな家族の形が表現されていて、歌詞にはぐるぐる回るほの暗さがあり、外側に発信していくというよりもすべてを内包していくような、それでいて亀裂が走る鋭さみたいなものがあるんです。楽曲を手掛けたJeff Miyaharaさんにディレクションをしていただきながらレコーディングしたんですが、それが非常に面白くて「ちょっと切羽詰まった感じ」「水面から上がってきて息を吸うように」といった、お芝居のディレクションのようでした。
――いろいろなことが刺激されるレコーディングだったんですね。
畠中:そうですね。Jeffさんと話していると何を作りたいのかが明確で、そのビジョンを一緒に見させてくれる芯のある人だなと感じました。
――さて、『家族という病』という作品に掛けて、畠中さんにとって家族がどういった存在なのかを教えてください。
畠中:そうですね……特殊な家族なので、何と言えばいいのか……。
――子どもの頃から、他と違うという認識があったのですか?
畠中:授業参観のときに、父が黒ずくめにサングラス、母はその当時黒人のダンサーの役をやっていたので細かいパーマ姿で登場したときは“帰ってくれ!”と思いました(笑)。凄まじい空気感の中で行われる授業参観……手を挙げたくない、とにかく穏便に済ませたい……そんな感じでしたね。家庭内は他ともっと違っていたと思います。歪なピースだし、嵌まっているのか嵌まっていないのかわからないけれど、とにかく僕らは一つの家族。どうしたって似たようなところもあって“ああ、自分もこの血を引き継いでいるんだ”という瞬間が何度も訪れますし、逃れられない感じがあります。でも、面白いですよ。刺激しかありませんから。
――貴重なお話をありがとうございます。3曲目の『Endless Love』はアプリゲーム『イケメンヴァンパイア◆偉人たちと恋の誘惑』の5周年記念タイアップ曲。これまでの畠中さんの楽曲からすると、雰囲気がかなり違いますね。
畠中:そうですね。
――ねっとりの可能性ですか(笑)。
畠中:歌っていて新鮮で楽しかったです。この曲をきっかけにゲームをプレイする方もいらっしゃるかもしれません。ぜひ、臨場感を楽しんでいただきたいです。
――作品と歌詞にあるように、畠中さんがすべてを捧げてもいいと思うものを教えてください。
畠中:自分が何を持っているのか、何をもってすべてと言うのかわからないんですけど、お芝居やお仕事に対してはすべて捧げていると思います。“自分がどうなろうとも”という思いがありますから。自分でも“ここまでやるのはおかしいだろ”と思う瞬間もありますし、冷静になったときに“やめた方がいいよ”と止める自分がいつつも、結果的にはやってしまう。止めていたらもう少しいい生き方ができるのかもしれないと思うこともありますね。
――自分を客観的に見つめる自分もいるんですね。
畠中:そうですね。でも、いくらやっても欲してしまうんです。どうしたらこの欲求が収まってくれるのか、すごく考えますけど……たぶん、立ち止まったらそれは死しかないと思っています。
――今回の一枚を、ファンの方にどういった時に聞いてほしいですか?
畠中:寄り添ってくれる曲もあれば、家族に悩んだとき、愛に飢えたとき……いろいろなシーンで聞いていただける一枚になっていると思います。3曲に共通するのは、愛やぬくもりといったもの。それが欲しくなったときに聞いていただきたいです。