アニメのアフレコやナレーションに限らず、歌手活動からイベント出演など活躍の場が広がるなか、声優事務所の大手のひとつ・大沢事務所で長年マネージャーとして活躍し、花澤香菜や川澄綾子、能登麻美子などを発掘・育成してきた松岡超氏が独立して新たな声優事務所・フルパワープロダクションを立ち上げ、同社初のオーディションを開催する。
そんな松岡氏と、アニメ制作会社J.C.STAFFのプロデューサー・松倉友二氏に声優業界の変化や、声優になるために必要なことは何か聞いた。
[取材・文=杉本穂高 撮影=Ayumi Fujita]
●松岡超 プロフィール
1991年、大沢事務所にマネージャーとして入社。川澄綾子(『Fate/stay night』セイバー、『のだめカンタービレ』野田恵)、能登麻美子(『地獄少女』閻魔あい、『君に届け』黒沼爽子)、花澤香菜(『鬼滅の刃』甘露寺蜜璃、『化物語』千石撫子)といった声優陣の発掘やキャスティングに携わる。2023年、声優事務所・フルパワープロダクションを創業。
●松倉友二 プロフィール
J.C.STAFF チーフプロデューサー。『少女革命ウテナ』『とある魔術の禁書目録』『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』といった多種多様なアニメ作品を担当。2023年12月よりAT-Xにてトークバラエティ番組「松倉家」を放送中。
「松倉家」番組情報
世界で一番、アニメ作品を世にプロデュースしている松倉プロデューサーはアニメの仕事を終えると、不定期で営業する小料理屋の大将という一面も…!
そんな設定で繰り広げられるトーク番組。
アニメの名プロデューサーとその仲間たちの等身大の仕事話や一面をお届けします。
<出演>
松倉友二(J.C.STAFF チーフプロデューサー)
<アシスタント>
八木美佐子
■声優業界は30年でどう変わった?
――今回はお2人にお話をうかがっていきますが、いつ頃からお仕事をご一緒されているのでしょうか?
松岡僕が業界入りしたのは32年前で、出会いはもう25年以上前ですね。
松倉業界歴はほぼ一緒なんですよ。
松岡松倉さんは、何もわからない僕を鍛えてくれた方の1人なんです。
大沢事務所の場合は、創業者の故・大澤和男さんが東京俳優生活協同組合(俳協)のマネージャー時代に代理店や広告会社へのコネクションを持っていて、広告系のナレーションキャスティング業務をやっておられました。その流れで独立して大沢事務所を作られてからも、CMや企業PRビデオのナレーションなどの仕事が多かったんです。
そこに、井上和彦さんや速水奨さんなどアニメや洋画の吹き替えの仕事が多くやられていた方が事務所に加わり、該当する担当者が必要となって入社したての僕が担当することになったんです。でも、大学卒業したばかりで何もわからず、とりあえず言われるがままに音響制作会社に台本取りに行くみたいな、最初はそんな感じでした。
――長い業界歴で、ご自身のターニングポイントはどの辺りでしょうか?
松岡大沢事務所が主にやっていた広告系の仕事は予算も大きく、割のいい仕事でした。大沢さんは自社所属のタレントだけでなく、他社事務所からも広く探してキャスティングする、いわゆるキャスティング協力の仕事をしていました。
でも、僕が業界に入った頃にバブルが弾けて、企業系の仕事がシビアになっていくなか、キャスティングの仕事をアニメ作品でもやれないかと考えたんです。当時はアニメのオーディションが開催されても、数社の大手事務所にしか声がかからないことも多かったんですよ。
そんななか、たまたまコナミさんの『ときめきメモリアル』のキャスティングをやらせていただき、これが大ヒットし、主役の金月真美さんがブレイクするなど、アニメやゲームの声優に対する認識が変わっていきました。
さらに、『Serial experiments lain』という作品のプロデューサー・上田耕行さんが「主役が決まらなくて困っている」と聞いたときは、すでに声優事務所や子役事務所はオーディションに呼ばれているので、違う視点から探そうと思い立ち、アイドルイベントを見に行きました。
松倉声優事務所は基本的に音響制作会社とやりとりするから、アニメ制作会社に直接営業するマネージャーはほとんどいませんでした。当時、アニメスタジオにも営業する人は松岡さんぐらいですごく特殊な人なんです。
松岡『lain』の上田さんや松倉さんなど、しがらみにとらわれない人のおかげで僕は仕事できたんです。大沢事務所はナレーターの事務所というイメージが強くて、アニメでは後発の立場だったので、先行している事務所とは“違う切り口”で勝負する必要もありました。そこに松倉さんのような方たちとの出会いが重なったという感じですね。
松倉時代的な要請もあって、90年代からテレビアニメが急速に増え始めて、いろいろな役者を求められるようになったことも大きいですよね。声優の露出もどんどん増えていくところに、松岡さんは積極的に切り込んでいった人です。それから、2000年代に声優はさらにアイドル化していき、2000年代後半から女性アイドルキャラクターを大量に投入する作品が出てくるようになりました。
松岡そうですね。女性キャラクターが一気に増えて、たくさんの女性声優が求められるようになり、声の部分だけではなくビジュアルやパフォーマンスも重視されるようになっていきました。僕も最初はそれはどうなのか?と思うこともあったんですが、プロモーションとして協力することも必要だと考えるようになりました。
しかし、声優はすごく忙しいですから、自分なりの基準は作って対応するようにしています。アイドル的に売っていくやり方を否定はしませんし、人気が出るのはいいことですが、一過性のもので終わらせてはいけないと思うんです。その人が実力を伴って長く続けられるのが一番大事なことです。僕が担当した方たちは10年、20年と続いている人が多いという自負はあります。
でも、僕は見極める能力が高いわけじゃなく、“一般人の視点”で見ているだけです。この人がこの役をやれば面白いなとか、そういうことを考えているだけで、売れる人や才能ある人を見極められるわけじゃないんです。
松倉オーディションで、皆さん自社の新人を紹介したくてたくさん入れてくるんですけど、役者が新人なこともあってマネージャーさんたちも自信がないんですよ。こっちからすると自信ない人を連れてこられても、責任を持って起用できないです。
でも、松岡さんは「この役は絶対にこの人がいい」と本気で信じて推してくれるから、こちらも乗っかろうという気になるんですよ。「ああ、この人は本気で役者を信じているんだな」というのが伝わるわけです。
■声優として長く続けるには「アニメ好きなだけの人間にはならないで欲しい」
――声優を目指す若い人が、学ぶべきものはなんでしょうか。
松岡それは答えがないです。
松倉芝居にも答えがないからね。
松岡ひとつ言えるとすれば、この業界を目指す人はアニメ好きなのはいいですが、アニメしか知らないというのはよくない。本も読んでほしいし、ある程度社会情勢も追いかけていてほしい。この20年、アニメしか知らないって子が本当に多いんです。
松倉最近の若い子は、自分の好きなキャラクターや声優のマネは非常に上手いんです。でも、独り立ちしてやっていけるかというと、個性が足りない。だから、どんぐりの背比べみたいなオーディションをひたすらやらないといけなくなる。人とは違う抜きん出たものを持つ人はこちらも起用しやすいです。
松岡声優に対する一般的な誤解で、「声は作るもの」と思われてるけど、声は作ってないんです。基本的にその人の声は変えられません。音を作ろうとしてしまう若い人がよくいるんですけど、それでは感情が込められないんです。
小劇場で活動していたある男性声優さんの話ですが、ボイスサンプルを聞いて素敵だったのでアニメ作品のオーディションに来てもらったんです。そのときは最終まで残って落ちてしまいましたが、僕のなかで印象に残っていたので、自分がキャスティングを担当した別作品に呼んでみたら主役に決まったことがあります。
――アニメのオーディションは、どんな点に注目するものですか?
松倉タイトルや座組によりますが、まずはキャラクターに大枠で合っていること、そして一定の水準の芝居ができることは最低限です。そこに付加要素を足してキャラクターを創造していく。例えば、声が裏返るのは普通よくないけど、個性になる瞬間もありますから、そういう要素を足して最終的にこの人が一番いいなという人を選びます。あと、私は売れている人より、なるべく染まっていない人を真ん中にして自由にやらせてあげたいって思いがあります。
松岡松倉さんのように決める方もいるし、監督によっては、逆に見知った人を使い続けるタイプもいます。アニメのアフレコは何日もリハーサルできないですから現場でレッスンするわけにはいきません。だから、手の内を知っている役者のほうがやりやすいと考えるんです。でも、昨今は新人を使おうという動きが強いかもしれないですね、特に女性の場合。
松倉男性声優の場合、ファンの息の長さが違うからね。男性声優は、ひとつの役を掴めば10年食えると言われたこともあるぐらいで。
でも、最近は男性声優の枠も広がってきました。かつての深夜アニメは圧倒的に男性視聴者が多くてハーレムものなら男性キャラクター1人に対して女性キャラクターが複数いたので、女性声優のほうが仕事が多かった。ここ10年で男性アイドルものや男性スポーツものが増えてアニメの視聴状況も変化してきたので、男性声優も動きやすくなったかなと思います。
■連れていけるのは“入り口”まで
――第一回のオーディションを控える松岡さんの新会社ですが、どんな人材を求めますか。
松岡最初が肝心なのでいい人を見つけることに尽きます。ただ、個性にもいろいろな方向があります。例えば、今は皆ヒーローやヒロインの声なので、もっとバイプレーヤー的なタイプが増えるといいなと思っています。女性で言えば、くじらさんのような。あとは俳優の北村有起哉さんみたいなタイプが声優にも増えると良いと思います。
始めたばかりの会社ですから、僕を信用して来てもらうしかないと思うので、楽しみでもあり、不安でもあるのが正直なところです。僕が今まで見てきた声優は子役事務所などで目が出なかった人なども多くて、実際、自分の才能がどこで花開くかは、自分でもわからないこともありますから、上手く導いてあげたいと思います。
でも、僕には入口までしか連れていけない。そこから先は自分の足で歩くしかありません。ただ、いいものを持っている人を、とりあえず入口まで連れていけるだけの実績と人脈は作ってきたつもりです。
松倉年齢も幅広くとるんですか?
松岡中学生から30歳までを対象にします。
――声優を目指すのに30歳からでも間に合いますか。
松岡その人が本当に良ければ、という言い方しかできません。実際30歳からかどうかはわかりませんが、社会経験を別の世界で積んでから声優として活躍されている方もいらっしゃいます。中田譲治さんは映画やドラマなどで活躍されている俳優さんでしたが、声がいいからということで声優に転向をメインの活動にされるようになりました。小杉十郎太さんも元々は会社の営業の方でしたが。声のよさが見初められて声優になった方です。そういう方も実際にいますから、一般論で言えば厳しいですけど不可能ではないです。
人生長いようで短いですから、迷っているならチャレンジするのもいいと思います。でも、正直に言えば、3回も4回も挑戦して失敗しているなら、どこかで見切りをつけたほうがいい。大沢事務所時代も、そういう子をたくさん見てきて、どこかである程度冷静に自分を見つめるのも大事だと話していました。
松倉事務所規模も重要ですよね。大手はたくさん所属してるけど、逆にそういうところで目立つのは難しい。きちんと面倒見てるのがわかってどう推してるか見える、小回りが効くサイズ感で立ち上がってくれると、私としてはありがたいですね。
松岡昔はその規模で運営することが難しかったんです。それはどんなに売れていても少数の声優のギャラだけでは事務所の運営ができないので、たくさん抱えて大きくする必要があったからです。今は声優の社会的地位の向上やマルチメディア化で仕事量も増えて、1人がある程度稼いで事務所を運営できるようになりました。声優が独立して事務所を作るケースが増えたのもそういう背景がありますし、弊社もそういう環境じゃないと立ち上げられなかったです。タレント1人も連れずに事務所立ち上げるのは昔ならあり得ないですね。
――最後に、声優を目指す方にメッセージをお願いします。
松岡繰り返しですが、本を読んだり社会情勢も知っておいてほしいですし、あとは人との接触が減っているのでちゃんと人と接してほしい。何気ない会話の中にも芝居のヒントがたくさんありますから。いろいろな人の考えに触れるように、身近なところから始めてほしいと思います。
フルパワープロダクション公式サイト【フルパワープロダクション第1期生オーディション】
入所資格 中学1年生~30 歳くらいまでの男女
※授業開始時(2024年4月)に中学校に入学している方以上
※未成年の方は、必ず保護者様の同意が必要になります。
コース 週1コース(1クラス最大20名)
レッスン期間 2024年4月 ~ 2025年2月
授業修了後、事務所への所属・進級審査がございます。
曜日 土曜 or 日曜
場所 都内近郊レッスンスタジオ
レッスン費用 入所料:50,000円(税抜)/授業料:240,000円(税抜)
※授業料は分納可能です。詳細は入所審査合格時にご説明致します。
オーディション日程 福岡:2月10日(土) 大阪:2月11日(日) 東京:2月17日(土)31
オーディション参加費 無料
審査方法 書類審査→会場審査(面接・台詞・朗読など)
申込方法 入所申込書に必要事項を記入の上、
【1】 L版サイズの写真(バストアップ)1枚を貼付して、弊社までご郵送下さい。
【2】 ホームページのお問合せフォームより、入所申込書・L版サイズの写真(バストアップ)のデータを添付して、お送り下さい。
入所申込書詳細はこちらから募集締切 1月31日(水) 書類必着
送付先 〒164-0003 東京都中野区東中野3-2-4 ハイツたちばな102
株式会社フルパワープロダクション オーディション事業局 宛