世界初のプロドリフト競技であるD1グランプリ。その21年目となる今シーズンの最終戦が、D1発祥の地であるエビスサーキット南コースで開催されました。
福島・エビス南コース最後の大会となった

エビス南コースは、2000年にD1グランプリ初開催の地であり、以降今シーズンまで毎年開催されてきました。いわばD1の聖地といえる場所で、さらに名物の最終コーナーでのジャンプドリフトも相まって、日本国内はもちろんのこと、世界のドリフトファンからも愛されてきました。ですが今秋をもって、このコースは閉鎖されることに。その理由は記事の後半でご説明しますが、川畑選手にとってエビス南コースは「選考会で初めてD1ドライバーの権利をとったりと、色々とありますね。やっぱりそういう意味ではお世話になっていますね」、藤野選手も「エビス南は来る度に、走る度に結構クラッシュをしていて。その一方で成績も出ていたので、一番記憶に残っているコースですね。やっとこのコースに慣れたかなというところで、残念なような残念じゃないような(笑)。複雑ですね」と感想を漏らしています。そんなエビス南コースの見納めとなる重要な大会。良い結果を出して来年につなげたいところです。しかし……。
【第5戦・単走】川畑クラッシュ!
藤野7位で通過、優勝は横井
この日のエビスサーキットは朝から快晴。最後のエビス南コースでの開催とあって、コロナ禍による50%入場制限によりチケットは完売。





まずは川畑選手の1本目。ここはミスなく96~97点を取っていきたいところ。ジャンプドリフトの侵入タイミングがよろしくなく、着地後のピットウォールに右リアをヒット。なんとここでリタイアになってしまいました。


藤野選手は1本目、ミスをして91.9と点数は伸びず。ですが2本目に97.58と安全圏に。これにより7位通過が決定しました。


その他、TOYO TIRESサポートドライバーに目を向けると、エビス南コースを得意としている7号車 松井選手(Team RE雨宮 K&N)は99.13で2位通過。

優勝したのはシリーズチャンピオン候補のひとり、70号車 横井選手(NANKANG TIRE DRIFT TEAM D-MAX)。1本目で99.22を叩き出してチャンピオンシップを有利に進めました。「ちょっと完璧な走りじゃなかったんですけれど、点数がけっこう出てよかったです。練習から調子がいい時と悪い時が極端で、ギア比のファイナルを本番直前に変えました。結果的にそれがいい方向に出ました」と語りました。
【第5戦・追走】藤野11位、末永(直)が8年ぶりの優勝!
クラッシュでチャンピオン決定
藤野選手のベスト16戦の相手は、今年D1GPにステップアップしてきた79号車 目桑選手(alpinestars LINGLONG G-MEISTER)。今季目桑選手は何度か上位入賞をはたしているだけに気の抜けない相手です。


藤野選手先行の1本目、滑らかな走りをする藤野選手に対して、目桑選手は終始ピッタリ付けて後追いポイント8.5に、DOSSの得点96を加えた104点を獲得。一方、藤野選手は98点の走りを魅せるものの、スタート時にフライングしたとのことで10点減点の88点と、大きな差をつけられてしまいます。


藤野選手の2本目、速さで勝る目桑選手に追い付くことができず、96点の走りに後追いポイントは2点のみ。結果、藤野選手は敗退してしまいました。
シリーズチャンピオン争いに目を向けると、99号車 中村選手(MUGEN PLUS team ALIVE VALINO)と横井選手によるチャンピオン争いは、横井選手がベスト8で敗退する波乱が。


その大事なベスト8戦。中村選手先行時に一瞬ドリフトがもどり、再度振り出したところに、横井選手のチームメイトである46号車の末永(正)選手が追突して、押された形となった中村選手が1コーナー正面にクラッシュ。審議の結果、末永選手の走路妨害とプッシングにより反則負けとなり、中村選手の勝利となり、2021年度のシリーズチャンピオンが決定しました。


普通ならここで中村選手はリタイアするのですが、なんとメカニックがマシンを修復! さすがに目桑選手とのベスト4戦で敗退してしまうのですが、それでも3位でこのラウンドを終えました。

優勝したのは9号車 末永直登選手(LINGLONG TIRE DRIFT Team ORANGE)。自身としては8年ぶりとなる優勝を飾りました。「自分としては75点という走りでした。先行の1本目は頑張ったんですけれど、目桑選手に結構とられていると聞いて、2本目はジャンプの時に目桑選手のクルマの腹下が見えるくらいに近づいて驚きましたが、その後詰めることができたかなと思います」と語りました。


なおTOYO TIRESサポートドライバーである松井選手は6位、松山選手は16位で第5戦を終えました。
【第6戦・単走】藤野6位、川畑10位
横井選手が優勝するも、単走チャンプは中村選手に


2021年シーズンの最終戦となる第6戦。この日も朝から快晴。空には虹がかかり、最後のエビス南コースの大会を祝福しているかのようです。



ドライバーたちもそれに応えるように、そして最後のエビスに名を残そうとします。その一人がチャンピオン経験者である87号車 齋藤太吾選手(FAT FIVE RACING)。朝の練習走行でシャーシにまで及ぶ大きなクラッシュしたにもかかわらず、なんと約3時間後には復活。しかも130km/h近い速度でジャンプに飛び込む雄姿をみせてくれました。前日の中村選手もですが、普通のレースならリタイアしてもおかしくない状態でも、短時間で修復するメカニックの力量と、それに応えるドライバー。D1は本当に凄いです!


前日単走1本目でクラッシュしリタイアとなったTeam TOYO TIRES Driftの川畑選手は、1本目に97.66を記録。これで追走トーナメント進出はほぼ確定。2本目は、より上位の点数を狙います。

ですが、前日同様ピットウォールに右リアタイヤをヒット。これで走行不能となり、チームは慌ただしく修復作業にとりかかります。


藤野選手は1本目に97.36を出すと、2本目に107km/hでジャンプに進入。綺麗なドリフトをみせて98.66と6位につけることができました。

優勝したのは前日に引き続き横井選手。点数をまたもや伸ばして99.59を記録します。ですが、単走シリーズチャンピオン争いの中村選手が3位に入ったため、年間チャンプの栄冠は中村選手の頭上に輝きました。TOYO TIRESサポートドライバーでは、松井選手が97.47と振るわず13番手、松山選手は93.94で追走トーナメント進出はなりませんでした。
【第6戦・追走】川畑はベスト16、藤野はベスト8で敗退
中村がエビスマイスター小橋を破り有終の美を飾る


午後から始まったベスト16戦。川畑選手の相手は、前日2位の目桑選手です。目桑選手先行の1本目、川畑選手はジャンプの着地後で一気に詰めたのですが、審査員前のコーナーで大きく外れてしまいます。川畑選手先行の2本目も、ほぼ同じようにハーフスピン状態になってしまいベスト16敗退。


藤野選手の相手は、ヱヴァンゲリオン初号機カラーに彩られたGRスープラを駆る91号車 畑中選手(横浜トヨペット SAILUN 俺だっ)。ここはヱヴァを完全に沈黙させたいところです。ですが藤野選手はこの日、朝からクラッチトラブルに見舞われており、本調子ではない様子。

藤野選手先行の1本目、97点の走りをする藤野選手に対して、畑中選手は入り切ることはできず後追いポイントはわずか0.5のみの97.5。これなら逆転はできそうです。


藤野選手後追いの2本目。ヱヴァにピタリとつけて余裕で勝利。ベスト8へと進みます。


ベスト8の相手は中村選手。中村選手先行の1本目、98点の走りをする中村選手に対して後ろにつけることができずDOSS得点96に後追いポイント0.5のみ。


藤野選手先行の2本目、中村選手は終始ピタリとつけられてしまい、98点の走りをするものの、中村選手は97点の走りに後追いポイントフルマークの12点を獲得し109点。ここで藤野選手の2021年シーズンが終わりました。

決勝はエビス5勝している4号車 小橋選手(LINGLONG TIRE DRIFT Team ORANGE)と中村選手。「絶対に勝ちたかった」という中村選手は果敢に攻めて最後のエビスを優勝。一方、小橋選手は「昨日、末永さんが勝ったから勝ちたかった。それに大好きなエビスで名を残したかった」と悔しさを隠し切れない様子でした。TOYO TIRESサポートドライバーである松井選手は13位で2021年シーズン最終戦を終えました。

シーズンのランキングですが、中村選手がチャンピオン、横井選手が2位、3位に36号車 高橋選手(TMS RACING TEAM SAILUN TIRE)が入りました。藤野は11位、川畑選手は18位。

TOYO TIRESサポートドライバーでは、松井選手が6位、松山選手が8位入賞をはたしました。なお、松山選手はGRスープラ勢のトップとなりました。

最終戦を終え、川畑選手と藤野選手の両名に話を伺いました。川畑選手は「最悪な3日間でした。まったくクルマに乗れず、わかってから色々セットアップしたんですけれど、どうにもならず。あと人間で頑張るしかなかったんですけれど、人間もヘタクソでしたね」「来年の抱負はないですね。とにかく頑張ります。それだけです」と言葉少なく。

藤野選手は「昨日の段階では何もなく、レース後のメンテナンスでもメカニックから万全の状態だよという話だったんですけれど、朝来たらクラッチがオカシイとなって。部品を探したんですけれどなくて。で、急きょなんで違うパーツを使ってとりあえず直したんですが……。今年86に乗り換えてトラブルだらけだったので、まずトラブルがない状態で走れることが最終的に成績につながると思います。ですから、走ることだけに集中できる体制を作りたいですね」と来年の意気込みを語りました。

こうして終えたD1グランプリ2021年シーズン。振り返ってみると、Team TOYO TIRES Driftの追走最高順位は、藤野選手の開幕戦2位。TOYO TIRESサポートドライバーに目を向けても、追走優勝は第9戦のオートポリスでの松井選手のみという結果に終わりました。その理由は様々考えられますが、最も大きな理由としてはTOYO TIRES勢のマシンは、中村選手や横井選手のような「S15&2JZエンジン」という熟成されたパッケージではなく、GRスープラや86にVR38、さらには4ローターといった「新しい」仕様のマシンが多いからではないでしょうか。
中でも川畑選手は誰も使ったことがないエンジン、V8の3UZを使っている上に、シーズン途中から東名エンジンにビルダーを変更するなど、仕様を変えてきています。あえてニューマシンでシリーズに挑むTeam TOYO TIRES DriftとTOYO TIRESサポートドライバーたち。マシンの熟成が進み、川畑選手が表彰台に上がる姿を早く見たいものです。
【コースサイドの様子 その1】
エビス南コースに別れを告げるファンの姿が

今回で最後となるエビス南コース。名物の最終コーナーに掲げられた「ありがとう エビス南」と書かれた横断幕には選手たちのメッセージが書かれ、大会終了後、サーキットのオーナーである熊久保さんに手渡されました。

また、別れを惜しむのはファンも一緒。レース後にはコースの路面にチョークで思いをつづる姿を多く見かけました。

このように愛されているサーキットが、どうして閉鎖されてしまうのでしょう? その理由について、普段はエビスサーキットの広報企画課として従事する、D1グランプリドライバーの末永直登選手(Team ORANGE)にお話を伺いました。そこにはD1開始当時とは異なるドリフトに関する様々な現状が見えてきました。
末永選手は「僕が今知っている情報になるのですが」、と前置きをした上で「今、ドリフトの人口が減ってきています。その理由のひとつにクルマがないことが挙げられます。シルビアなどの日本車はどんどん海外に輸出されてしまっていて、日本に中古車が少なくなってしまいました。一方、現行車種はというと、フェアレディZだったり86は自然吸気エンジンなので(ドリフトをするには)パワーがないんです。また、僕個人的にはエビス南コースは超上級コースだと思っています。うちは一般の営業もしていますので、超上級者のためだけのコースを維持するのは難しいのが実情です」と話してくれました。


これはコロナ禍による客足の減少に加え、2月に発生した地震による被災も影響しているのは想像に難くありません。地震の傷跡は今も残っており、クラウドファンディングや復興支援Tシャツなどが販売による寄付もありますが、それでも補いきれるものではありません。ゆえに新しい魅力をもったサーキットが必要なのでしょう。


末永選手の言葉は続きます「誰もが楽しめるコースが必要です。それとYouTubeなどでD1の動画を見た一般のお客様が、真似をして事故をされるのが僕は凄く嫌なんです。ですから、安全でドライバーが走って楽しい、見ているお客さんも楽しい、そんなコースにしたいんです」とのこと。
では、新しい南コースはどのようなコースになるのでしょう? 「パワーがないクルマが多くなっている中でドリフトを楽しむためには、滑る路面のコースにしたらどうだろうという話になりまして。そこで今の時点で計画しているのは、工事現場の路面は線が入っているではないですか。あれは切削といって、うちでも舗装をする前にやっているんですけれど、その状態で走ってみたらどうなるんだろう? という話になり、この冬、その工事をする予定です。ですから滑るかもしれないし、滑らないかもしれない。だからやってみることにしたんです」。
一部ではダートコースになるという話も耳にしますが、末永選手の言葉をかみ砕くと、ダートトライアルのマシンも走れる低ミュー路の路面にすると解釈できそうです。
次にファンが気になるのは、ジャンプドリフトのある最終コーナーが残るのかどうか、という点。「コースレイアウトも、現時点ではわからないですが、安全の面で変わるかもしれません」とのこと。少なくともピットのコンクリートウォールはなくなってしまうのでしょう。そして末永選手は言葉を続けます。
「いつになるかわかりませんが、新南コースでD1グランプリをやりたいな、と思っています。それと同時に、西コースも震災で崩れてしまったんですけれど、その復旧とともにバンクを作る工事をしています。それができると日本でもバンクドリフトができるようになります。そっちはほぼほぼ決定しているので、ご期待ください」。
バンクドリフトというと、古くからのD1ファンはアメリカのアーヴィンデールを思い出すのでは? バンクを高速で駆け抜けるドリフトを今から楽しみに待ちましょう!
【コースサイドの様子 その2】
TOYO TIRESブースにドリフトバスターズが登場?
前回大会では新作グッズがなかったTOYO TIRESブース。単走と追走の間の短い時間には、安西茉莉さん(@anzaimari)と山本もえぎさん(@moegi_0218)がブースに駆け付けて場を盛り上げていました。



いつもはTOYO TIRESのカラーリングが施されたハイラックスが展示されているのですが、なんとゴーストバスターズ仕様にチェンジ。話によると、いつもTOYO TIRESの車両をカラーリングをされている方にハイラックスを譲ったそうで、その方が頑張って描いたのだとか。そこでプロトン・ガンを担いで二人はポーズ。

そんなTOYO TIRESのブースの新作はブラックTシャツ。タイヤパターンなどを模したグラフティーな1枚で、もともとホワイト生地のものは販売されていたのですが、新たにブラックが追加になりました。

こうして終わったD1グランプリ2021年シーズン。今年は残念な結果になりましたが、来シーズンはタイヤのレギュレーションが変わりますので、勢力図が大きく変わるハズ!

そして2022年シーズンには、久々となる女性ドライバーとして、下田紗弥加さんが参戦する予定。下田さんはプロドライバーとしての活動はもちろんのこと、自動車媒体の出演やコミック「頭文字D」の舞台のひとつである群馬・安中市の観光大使に就任するなど、年々活動の幅を広げている人気者。今シーズン以上にD1が注目され、そして華やかになることは間違いナシ!

D1グランプリ2022年シーズンの開催日程は(例年通りなら)オートサロン2022の前後で発表され、公式ホームページに掲載されることでしょう。来シーズンも目が離せないD1グランプリ、ASCII.jpも来年もTeam TOYO TIRES Driftを応援する予定です。
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