アバルト 595(320万円~)※MT設定のみ

 「山椒は小粒でもピリリと辛い」を地で行く車といえばホットハッチ。ASCII.jpの担当編集もライターも、ホットハッチが大好きです。

何をもってホットハッチとするか、は置いておいて、国内外の現行車種のラインアップを見回して、ホットハッチと呼べるクルマが少なくなってしまいました。ですが、ホットハッチは根強い人気があり、その1つがアバルト「595」です。2007年に誕生し、2017年にマイナーチェンジした、今でも現役のホットハッチに改めて触れてみたいと思います。


オーナーが増えているアバルトの魅力とは?

MTのホットハッチ、アバルト「595」はサソリボタンで性格がガラっと変わる

 なぜ今さらアバルト 595なのか。それはA PIT オートバックス東雲で開催されたアバルトのオフ会を取材した時にさかのぼります(漆黒の蠍が早朝のオートバックスを占拠! アバルトオーナーが全国から集結)。同店では毎月車種テーマを決めてのオフ会を開催しているのですが、その中で最も参加車両が多かったのがアバルトの回でした。通常50台程度が集まるのですが、アバルトの回は雨にもかかわらず150台以上が参加! A PITオートバックス東雲の駐車場がアバルトで埋め尽くされてしまったのです。「そんなに人が集まるアバルトの魅力とは一体なんなんだ?」というわけで、今回MT仕様のアバルトをお借りする運びとなりました。


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 アバルト 595の魅力は「扱いやすいサイズ」にあります。というのも、アバルト 595はイマドキのクルマとしては珍しい5ナンバー(排気量:2000cc以下、全長:4700mm以下、全幅:1700mm以下、全高:2000mm以下)サイズなのです。近年、クルマは安全基準やら何やらで大型化していますが、道路の幅や道は昔からそう変わってはいません。ですから扱いやすく走りやすいというわけ。ちなみにボディーサイズは全長3660×全幅1625×全高1505mm。

ホイールベースは2300mm。軽自動車を一回り大きくした程度なのです。


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 さらに全高1550mm以下ですので、高さ制限のある立体駐車場にも入ります! と言いたいところですが、アホ毛のようで可愛いバーアンテナはこの高さに含まれず。折りたたみができないタイプですので、入庫時は一旦取り外すことを強くオススメします。駐車場ついでに、コンパクトなら小回りが利きそうと思われますが、アバルト 595の最小回転半径は5.4m。実はCセグメントセダンであるBMWの3シリーズとほぼ同じだったりします。不便さを感じることはありませんが、思ったほどは……だったりします。


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 そんなアバルト 595の個性を際立たせているのが、イマドキの輸入車としては珍しい「MT」を設定していることに加え、左ハンドルMTもラインアップに加えているところにあります。左ハンドルMTを設定しているスポーツカーは、本当に数える位しかありません。その数少ないMTスポーツグレード車の中でアバルト 595はおそらく最も安価といえる車種。「320万円もするのに安価?」と思われるかもしれませんが、今やMTホットハッチは贅沢なクルマなのです。


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 気付けば2007年から大きく変わることなく作り続けられているアバルト。

ここまでロングランの現行車は珍しいのではないでしょうか? ということで、MT車が大好きと公言しているモデルの新 唯(あらた・ゆい)さんと共に、エバーグリーンな魅力を放つアバルト 595をご紹介したいと思います。


アバルトというブランドの歴史

 「街でよく見かけますけれど、このクルマの試乗は初めてですね」と唯さん。というのも「ニューモデル速報 インポート Vol.45 最新フィアット500のすべて」が発刊されたのは2014年12月のこと。当時唯さんは高校生で、バレーボール部で汗を流す多感な青春時代を過ごされていた時期。当時からクルマに興味はあったそうですが、モデル活動はおろか、免許も取得しておりません。


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 ちなみにアバルトって知っていますか? と尋ねたところ「もちろん知っていますよ。FIAT 500をカスタマイズしたクルマですよね。サソリのマークがついているんですよね」とサソリの真似をされる唯さん。うーん、実にカワ唯ではありませんか。


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初期のアバルト(写真はオーナーカー)

 「アバルト=サソリ」という知識のみの若い女性にウンチクを言うのは歳をとった証拠、いわゆる老害であるとはわかっています。わかっているのですが、オジサンは語りたくなるものです。アバルトは1949年にトリノで設立した会社で、当初、主にフィアット車の競技用パーツや改造車、そしてレース参戦などに参戦し、その圧倒的なパフォーマンスはアバルトマジックと評されました。創業者はバイクのライダーで活躍していたカルロ・アバルト氏。

サソリのエンブレムは彼の誕生月の星座が由来とされています。


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ランチア ラリー037(オートモビル・カウンシルにて撮影)

 1971年にフィアットの傘下に入り、1980年前後はフィアット 131を改良したフィアット・アバルト 131ラリーをはじめ、名車ランチア ラリー037、そしてDTM仕様のアルファロメオ 155V6TIなど、フィアットグループの競技車両の開発をメインに活動していました。その後、フィアットグループの組織再編により2007年にアバルト&C社として復活。ボローニャに拠点を置き市販車の販売を行なっています。ウンチクはこれにて終了。


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 「私は釣り目のクルマが好きなので、好みかどうかというと……ですが、丸っこくて可愛いですね。個性的でイイと思います」と唯さん。ちなみに取材に同行したオヤジスタッフたちが乗ったら変ですか? と尋ねたところ「それはないですね。色にもよりますがオシャレだと思いますよ」とのこと。


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 それではボンネットを開けてみましょう。今回試乗するアバルト 595は最もベーシックなモデルで、最高出力145馬力、最大トルク21.4kgmを発する1368cc直4ターボエンジンを搭載。ちなみに上位モデルとして165馬力の「595 TURISMO」と、そのオープンモデル「595C TURISMO」。

そして180馬力の「595 COMPETIZIONE」がラインアップされています。そのうちMT設定があるのは595と595 COMPETIZIONEのみ。さらに言えば595にAT設定はありません。「つまりMTを駆使しながら少ないパワーをフルに楽しもうということですね」と、さすが唯さん。わかっています!


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 「赤いヘッドカバーにサソリのマーク。これは実にイイですね。スポーツカーのエンジンは、やっぱり赤いヘッドカバーじゃないとですね! こんなヘッドカバーがついていたら、洗車した時にボンネットを開けて、水拭きして綺麗にしたくなりますね」とほくそ笑む唯さん。実にクルマ好きらしい発言に、周囲のダメなオトナもニヤニヤ。


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 続いてリアをチェック。「やっぱりハッチバックにはスポイラー必須ですよね」という唯さん。そして「マフラーは左右2本出しでイイですね。しっかりとノーマルとは違うということを主張しています」とニコニコ。

「このクルマ、前後だけでなく、左右にもサソリのエンブレムがあるんですね。どこから見てもアバルトであることを主張しているんですね」と発見。言われてみたら確かにそうですね。


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 バックドアを開けてラゲッジを確認。イマドキの軽トールワゴンの方が荷物が載るでしょ、と誰もが思うこと間違いナシ。「でも2人の旅行とかだったら全然平気ですよね」とフォローする唯さん。実に優しく寛容な心の持ち主です。


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 シートを倒せば容積は稼げるのですが、これを倒すのがちょっとだけ面倒。筆者的には「同じ4人乗りのクルマなら、Honda eみたく真ん中にシートを倒すレバーを置いてよ」と文句タラタラ。で、倒してみると「フルフラットにはならないんですね」と一言。それよりも「今気づいたのですが、後席の背もたれ背面が、思いっきり鉄板っぽいのですが……」と驚いた様子。


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 ちなみに荷室のカーペットを取り除くと、パンク修理キットなどが姿を現わします。

さすがにスペアタイヤを搭載する場所はない、ということですね。


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 続いて後席をチェック。4人乗りで、一応ドリンクホルダーはあります。ですがUSBソケットはなく。最近の国産Bセグメントに慣れた目からすると、狭いし装備は少ないし、ついでに言えば3ドアハッチだから乗りづらかったりと……。


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 痩せている唯さんは「あ、普通に座れますよ」とのことでしたが、いざ担当編集のスピーディー末岡が運転しやすいシートポジションに設定すると「ちょっと狭いかも」と不満げ。さらに大柄な身長185cmの不肖が運転席に座りシートポジションをセットすると「足あたってる! いたたたたっ」と悲鳴が。ちなみに大柄な男性が座ると、天井に頭が当たったり、足が入らなかったりするので、あくまで緊急用シートと考えた方が良さそうです。もっとも、アバルト595 を求める方は、そこは目をつむることでしょう。


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 一方、運転席は快適そのもの。ホールド感のよいセミバケットシートとカジュアルな室内は「これはアリですね。あと小さなターボメーターが可愛い」と笑顔。ナビはディスプレイオーディオでスマートフォンを利用するタイプ。ボタン類は他社の現行車種と比べて少なく、クルーズコントロールすらないという潔さ! 実にプリミティブで、逆に操作の迷いは少なそうです。


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 逆に見慣れないボタンがいくつかあって、そのうちの1つがTTCというもの。コレは何? とマニュアルを取り出すと「この車検証入れ、カーボン調でカッコイイ!」と唯さんは、マニュアルを見る前に反応。そのTTCですが、トルク トランスファー コントロールという機能のようで、簡単に言えばLSDのようなもの。サーキット走行などで役立ちそうです。スポーツモードはハザードボタンの左隣。サソリのマークがやる気にさせてくれます。


見た目はカワイイけど走りは獰猛

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 それでは公道へ。まずはノーマルモードを試してみることにしましょう。スポーツカーっぽい低い音が車内に轟きます。「おぉ! やる気ですね!」と唯さんはニコニコ。ですが走り始めてスグに「このクルマ、思ったより進んでくれないように感じるのは気のせいですか?」と意外な反応。「あとハンドルが結構軽いんですね」と、手強いクルマと覚悟していた分、ちょっと拍子抜けしている様子。「坂道発進時に補助機能が働く時があったり、なかったりで。坂の角度によるんですかね? それと発進時に少しエンジンの回転数が上がっているようで、それが発進のしやすさにつながっているようです」と、色々と困惑されているようです。


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 「クラッチペダルのフィーリングはやや重たいのに、アクセルペダルのそれは軽いというか……。シフトフィールはスコッと柔らかく入る感じ。ストロークは比較的長めですね」と、テキパキと感想を述べていきます。「視界は悪くはなさそうです。むしろ思っていたより広いかも」とのこと。ちなみに座高のある人が座ると、思ったよりシートが下がらずに前が見づらいということになりそう。身長185センチの不肖はローポジションシートレールが欲しくなりました。後席の件もしかりですが、イタリアの男性って小柄な方が多いんですかね?


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 「アバルトというので、ガチガチの硬い乗り心地を覚悟していたんですよ。実際はしなやかで驚きました」と唯さん。これには筆者も同意見で、以前FIAT 500 TwinAirを試乗したことがあるのですが、それよりも柔らかいように感じた次第です。「普段の街乗りでも全然平気。排気音はスポーティーだし音も普通のクルマに比べれば大きいですが、それほど耳に付くような音じゃないです」と唯さん。


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 ただ、「サイドブレーキの近くにシートの座面高さ調整のレバーがあって、間違えてひいちゃいそうになりました」というわけで、独特のクセはありそう。


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 街をそこそこ走ったところで、そのままSPORTモードに変更。ブーストメーターにSPORTと表示されます。押した途端「コレですよね! やっぱり!」と陽気な笑顔に。「ハンドルが重たくなったようです。アクセルレスポンスも俊敏になりましたね。基本的にこれで走れ、ということですね」と唯さんは小気味よくシフトを操作しながら街を駆け抜けます。「このクルマ、オモシロ! いいじゃないですか!」と完全にハマったようです。「小さいから街乗りにピッタリ。それでいて楽しい。これはイイですね」と賛辞の嵐です。


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 そのまま高速へ合流。「ホイールベースが短いし、背も高いからどうなんだろうと思ったのですが、意外と安定しているというか、むしろこっちがメインという感じですね。トンネルの中でエンジンを回すと、ホントにいい音がします。乗り心地が一層よくなる印象ですから、遠出のクルマとしても楽しそう」。唯さんはルンルン気分で首都高を走ります。


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 ルンルン気分で首都高C2の中を走っていたところ、スマホナビが途中で道をロスト。走り慣れない道ということもあり、唯さんは迷子になってしまいます。「スマホナビって、こういうことが起きるんですね。山とかで電波の届かないところとか困りますね」と困惑する唯さん。これはGPSの電波が届かない時に起きる現象で、一般的なカーナビは速度検知や本体内のジャイロなどで電波がロストした状態でも補正をしてくれるのですが、スマホにそのような機能はありません。板橋JCTが見えた時には「このまま大宮方面に向かって、高島平で降りてレインボーモータースクール和光に行きます?」と呑気なことを。いやいやいやいや、そこまで時間は……ということで、東池袋で降りました。


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 「楽しかったからOKということで!」と、道を間違えても唯さんはポジティブ。そういう気持ちになれるのは、このクルマが楽しいヤツだから。普通のクルマだったら、きっと車内は険悪な空気が流れていたかも!? そういったラテンのノリにさせてくれるのも、イタリア車の魅力なのでしょう。「人生、時には寄り道が必要なんですよ」。


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 「このクルマのファンになる気持ち、凄くわかります」と唯さん。「見た目も個性的でかわいいですし、日本の道にピッタリだし何より走っていて楽しい。1~2人でのドライブやお買い物にピッタリですね。320万円という値段はちょっと高いかなと思いましたけれど、唯一無二の魅力に溢れていますから納得できますし」とのこと。「でも、カーボンニュートラルやら電動化とかで、こういうクルマが減ってくると思うと悲しくなりますね。可能な限りいつまでも作り続けてほしいですし、持っている方は大切に乗り続けてほしいですね」。こうして気づけば唯さんはサソリの毒にあてられてしまったようで、「もっと乗っていたい」と笑顔でした。


 320万円あれば、国産Bセグメント・コンパクトの上位グレードが購入できます。運転支援もついてくるし、後席も広く荷物だって載せられます。燃費だってイイです。何よりレギュラーガソリン対応。アバルトはハイオクですから、お財布に優しくありません。ついでに言えば、アクセルを踏むだけで一気に加速をするのに対し、こちらはギアとクラッチを操作しなければなりません。ですが国産Bセグメントのクルマにはない魅力がたっぷり詰まっていますし、何より乗り手をハッピーな気持ちにさせるのがアバルトです。高機能になればなるほど、クルマは人から離れてしまっているのかも? 唯さんの笑顔を見ながら、そんなことを考えてしまいました。


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 A PIT オートバックス東雲の担当者によると、アバルト 500をベースにカスタマイズされる方は多いのだとか。これだけ楽しいクルマなのですから、より一層自分好みの1台、自分だけの1台にしたくなるのも納得です。ということで、唯さんには今度、A PIT オートバックス東雲が仕上げたデモカーに試乗してもらいたいと思います。どんなクルマに仕上げられているのでしょう? 唯さんは今から楽しみで仕方なさそうです。


■関連サイト


モデル紹介――新 唯(あらた ゆい)

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 栃木県出身10月5日生まれ。2020年に小林唯叶としてモデルデビュー。2020年シーズンのSUPER GT「マッハ車検GAL」をはじめ、SUPER FORMULA、スーパー耐久シリーズのレースクイーンとして活躍。2021年4月の芸能事務所プラチナム・プロダクションへの移籍に伴い新唯に改名。現在ファッションモデルとしての活動のほか、マルチタレントを目指し演技の勉強中。


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