「シビック」は、ホンダにとって非常に重要なクルマです。今、日本ではそんなに売れていないですが、1972年初代から現在の11代目まで50年にわたってホンダを支えてきた大黒柱です。
11代目シビック e:HEV
ハイブリッドに新開発した新エンジンを搭載!
現在の最新の11代目シビックは、アメリカ向けを強く意識して作られたモデルです。また、初代から7代目までのシビックはコンパクトカーでしたが、2001年に「フィット」が登場したことでエントリーという役割をフィットに明け渡し、シビックはより上のクラスへ移行します。そのため現在の11代目シビックは、全長4550×全幅1800×全高1415mmというミッドセダンになっています。これは全長4495×全幅1745×全高1435mmのトヨタ「カローラ」よりも上のクラスです。

しかし、大きくなってもアメリカ市場での「シビック」のユーザーは若者です。ですから、現行シビックは、まるでファストバッククーペのような流麗なスタイルを持ち、インテリアのデザインも非常にモダン。ホンダの広報に聞けば「日本でも購入者の25%ほどが10~20代の若い世代です」とか。若い人にも人気のあるモデルとなっています。
そんなシビックをハイブリッド化したのが、今回のシビック e:HEVです。システムの仕組み自体はフィットや「インサイト」などと同じように、シリーズ式ハイブリッド(エンジンで発電し、その電力をもってモーター駆動する)を基本にしつつも、高速走行域でエンジンの直接駆動を行なうというもの。

これには驚きました。なぜならホンダは、昨年春に社長が「2040年にはEV・FCVを100%にする」(=エンジン車をやめる)と宣言しています。そのため、“もう新しいエンジンは出てこないだろう”と思っていたところに、今回の新エンジン搭載。しかも、このハイブリッドは数多く販売が見込めるアメリカでは売らないとか。あまり数をさばけない日本と欧州のためのものというから、さらに驚きます。なんと儲からないことを、と心配になるほどです。
パワフルかつ、燃費にも優れるハイブリッド
しかし、ユーザーとして、新エンジン搭載は大歓迎。なぜなら、この新型エンジンを使う「e:HEV」システムのデキがものすごく良かったからです。
まず良いのがパワフルなこと。エンジンのスペックは最高出力104kW(141馬力)・最大トルク182Nmで、1.5リッターターボエンジン車のシビックの最高出力134kW(182馬力)・最大トルク240Nmに届きません。しかし、シビック e:HEVには、135kW(184馬力)・最大トルク315Nmの駆動用モーターが搭載されています。街中やワインディングでは、このパワフルなモーターが主に使われることになります。

そのため走り出した瞬間に、「あっ、速い」と1ランク上の動力性能があることが実感できます。ちなみに、燃費も当然よくてガソリン車の16.3km/L(WLTCモード)に対してシビックe:HEVは24.2km/L(WLTCモード)。速い上に燃費が良いわけですから、文句なしです。

最も素晴らしいのは
走っていて楽しいこと
そして、なによりもうれしかったのは「シビックe:HEV」は、走っていて“とても楽しかった”こと。
びっくりするのは、“エンジン音がする”ことです。高速道路のような高速域以外では、シビックe:HEVはモーター駆動が中心です。エンジンは発電機。つまり本来は、一定に回して発電すればいいはず。ところが、シビックe:HEVは、アクセルの踏み込み量に合わせるようにエンジン音が大きくなるのです。さらに、まるでシフトアップするかのようなエンジン音の変化まであります。一瞬、「あれ? これエンジン車なのか?」と勘違いするほど。

開発者に聞いてみると、「エンジンの音には相当にこだわった」とのこと。
軽快そのもののハンドリング
さらにハンドリングの良さも楽しさに拍車をかけます。ほんのわずか、指1本分以下でもハンドルを動かせば、クルマはしっかりと応答してくれます。かといってナーバスなわけでもありません。4輪がしっかりと路面をつかんでいる安心感があります。また、パワフルなパワートレインということで、アクセルのわずかな操作にも、しっかりとトルクが出てクルマを加速させることができます。


気分のよいエンジン音を耳に、ハンドルとアクセルの操作に忠実に動くクルマ。これが楽しくないはずがありません。いつまでもワインディングを走り続けたくなることでしょう。ホンダはシビックe:HEVのグランドコンセプトを「爽快CIVIC」と説明しますが、運転だけでいえば、言葉通り爽快そのものでした。
【まとめ】シビックの上位グレードとしての
高い質感も魅力
爽快というだけでなく、シビックe:HEVは上質さも魅力と言えるでしょう。まず、乗り心地がエンジン車よりも、ワンランク上となります。


フロントのアッパーグリルとドアガラス周りがグロスブラックになり、ミラーもブラック化されており、エンジン車よりも上質感があります。ゆっくり走ったときの静粛性もエンジン車よりも上。つまり、シビックの最上級グレードと言える、質感の高さを備えているのです。価格は394万0200円。FFのみで4WDはありません。
シビックe:HEVの試乗を終えて思うのは、「よく走り、スポーティーなホンダ」が戻ってきたといううれしさです。

最近のホンダは、軽自動車やSUV、ミニバンが商売の中心です。「NSX」もありますが、あまりに高額のうえに終売です。そういう意味で、400万円ほどのシビックe:HEVも安くはありませんが、頑張れば庶民でもギリギリなんとか行けるかも~、と思わせる額です。ちなみに、新しい「シビック TYPE R」も、500万円前後という噂。
■関連サイト
筆者紹介:鈴木ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。
最近は新技術や環境関係に注目。年間3~4回の海外モーターショー取材を実施。毎月1回のSA/PAの食べ歩き取材を10年ほど継続中。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 自動車技術会会員 環境社会検定試験(ECO検定)。
