2035年、東京都内ではガソリンエンジンを搭載した新車バイクの販売ができなくなる、通称「バイクの2035年問題」。その前に排気ガス規制により、名車が消えつつあります。
エンジンとともに
変速機もなくなるかも問題
正直に申し上げると、不肖はネイキッドまたはレーサーレプリカが好きでして、アフリカツインのようなアドベンチャータイプのバイクは好みではありません。それは実際に乗ったわけではなく「食わず嫌い」によるところなのですが、単に見た目として好みじゃないのです。

ですが連休中などに高速道路に乗ると、後輪の左右にバーニアと呼ばれる箱をつけたアドベンチャーバイクの姿を目にします。それを見ては「こういうバイクだと高速道路はラクなのかな?」と思ったり、さらには「アドベンチャーバイクで日本一周とかしてみたい」というロマンが頭に浮かぶわけです。
最終的には「人生最後の相棒として、アドベンチャーバイクはアリなのでは?」と思ったりするわけで、ならばというわけで、今回はHondaのアフリカツインのDCT仕様(CRF1100L Africa Twin Adventure Sports ES Dual Clutch Transmission)をお借りしてみました。

DCTとはクラッチを切らずに変速できる機構。クルマではおなじみですが、バイクでは一部の高級車にしか用意されていません。その理由は機構が複雑であるがゆえ、コンパクト化が難しく、また重量がかさむから。「スクーターにもあるじゃないか」と思われがちですが、あちらはCVTのようなもので、ギアをガチャンと変えるものではありません。
では、なぜその仕様を借りたのか。それはズバリ「ガソリンエンジンがなくなるということは、変速機も不要になってしまう可能性が高い」から。
想像以上に大きなボディーに驚愕
というわけで、お借りしたのですが、身長185cmの筆者でも「これ乗れるのか?」と思うほどの大きさ。21インチのタイヤ、最低地上高250mmという見た目にひるまずにはいられません。当然シート高も相当に高いのですが、810mm/830mmの2段階で高さ調整が可能。レーサーレプリカが790mmですので、筆者的には足つきは良好だったりします。

次にひるむのがスイッチボックスに取り付けられたボタンの多さ。まず右手側はスターターとキルスイッチに、AT/MTの切り替えとニュートラルといったシフト選択、さらにクルーズコントロール関係……。エンジンをかけて、Dを選択すればバイクはスルスルッと走り始めます。
※初掲出時、リバースギアありとの記述がありましたが、搭載されておりません。訂正してお詫びいたします。


左手側はさらに複雑怪奇。ほかのバイクにあるウインカーとライト、ホーンボタンに加えて、ハザード、十字のマルチファンクションボタン、さらにMT時のシフトアップ・シフトダウンボタンなどなど、何が何やらです。



上下二段のディスプレーまわりもひるむ要因のひとつ。下段は速度とシフトインジケーター。上段はスマホとの連携機能も有した6.5型のタッチパネル式液晶モニターで、電話帳や音楽プレイリスト、地図アプリなどの利用も可能だったりします。ただし、Apple CarPlayを利用するには、Bluetoothヘッドセットが別途必要になります。

快適装備といえばバーニア。バイクのキーで施錠ができます。容量はかなりあるのですが、慣れるまでは、車幅感覚にとまどううえに、荷物を均等に入れないとバランスを崩しやすいかと。高速道路でこの手のバイクですり抜けをされる方を時々見かけますが、実際にアフリカツインで高速道路の渋滞にハマりましたが「不肖にはできない」と痛感しました。

エンジンは1082ccの直列2気筒SOHC 4バルブ。最高出力102PSと控えめながら、最大トルクは10.7kgf・mとかなり太め。このあたりのセッティングがオフロードを走る上でラクなのでしょう。



サスペンションはショーワが開発した電子制御サスペンション「EERA」。「ミッド」「ハード」「ソフト」「オフロード」「ユーザー」という5つのモードが備わっているだけでなく、ライディングモードセレクターの設定に応じて、自動で最適なサスペンションモードが選択される仕組みです。



電源まわりをみると、USBのType-Aと12Vのアクセサリーソケットの2つを用意。USB Type-A端子は防水機構がしっかりしており、かなり奥に差し込む必要があります。
もはやなんでもござれ、のアフリカツインDCT仕様。お借りした車両は税込み205万円と軽自動車が買えるプライスだったりします。でも装備をみると「確かにそれくらいかかっても不思議ではない」かもとも。それではアフリカツインに乗ってアドベンチャーをしてみることにしましょう。
車重は重いが走行性能はスポイルされない

まず乗り出して思うのは、250kgという車体重量からくる功罪。
鈍重なバイクかと思いきやそうではなく、加速はかなり鋭い印象。2気筒エンジンらしいパルス感のともなった排気音と振動を感じながら車速が乗る感覚は快感そのものです。変速時のショックはなく、停止時にクラッチを切らないという点ではスクーターに似ているのですが、スクーターと違うのは走りの楽しさ。力強さが段違いなのです。とはいえ、ガンガン回して……というバイクではないので、のんびりと走るのがいいのかなと。

視野が高いのも美質。感覚的にはSUVと同じか、それ以上という印象でしょうか。だから遠くが見通せますし、ATモードと相まって「意外と街乗りに適しているかも」と思いました。それにしても左足にペダルがないのは不思議な気分。

ですが真骨頂は高速道路とワインディング。
取材時、中央道は激しい渋滞だったのですが、ATということもあって、走りは相当ラク。ただ右手の人差し指と薬指を常にブレーキレバーに置くハンドルの握り方をすると、エンジンの振動ゆえか、次第に小指がしびれてきます。4本指でしっかりグリップすると、そのような痺れは回避できるようで、これが乗りこなしのポイントといえるかも。


さて、正丸峠をアタック。道は相当荒れているうえに、昼間でも薄暗く滑りやすいという中々の場所。ですが、アフリカツインで走ると、これが面白くて仕方ないのです。めっぽう安定していますし、ぐんぐん登坂するのはもちろん、下りもラクラク。何より冒険者の気分が味わえるのです。乗りながら「アフリカツインに乗って、酷道・険道めぐりとかしてみたい」と気持ちになること間違いなしで、実際できそうな雰囲気。

嘘偽りなく「これ欲しい」と思ったのは正直なところ。なのですが「コレ1台でアガリ」かというと、それもまた違うかなとも。何かバイクがあって、さらに1台というのが許されるなら、アフリカツインは最有力候補。「結局のところ、アガリの1台は難しい話なのかな」と欲深い不肖は改めて思ったのでした。

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