プロドリフト競技の開祖にして、国内最高峰「D1グランプリ」。その2023年シーズンの最後を飾る第9戦・第10戦「TOKYO DRIFT」が、11月11~12日の2日間、東京・台場で開催されました。
ASCII.jpが応援するTeam TOYO TIRES Driftの#66 藤野秀之選手が「単走シリーズ」「ドライバーズ」の両チャンピオンタイトルを獲得し、さらにチームも「チームシリーズランキング」を戴冠。今シーズンのD1タイトルを総ナメしました! その様子を振り返りましょう!
お台場にD1が5年ぶりに返ってきた!

2018年以来5年ぶりとなる、お台場での開催となった本大会。会場は以前と同じ、ダイバーシティ東京プラザの近くにある大型駐車場です。コースレイアウトは以前と異なり、1コーナーへの侵入は120km/hオーバーから100km/h近くにまで落とされる配慮がなされていました。これは安全面で仕方のないことでしょう。お台場がほかの大会と大きく異なるのは、ハンドルが取られるほど荒れた路面と、シーズンを通して唯一の「ナイトドリフト」が行なわれること。
「お客さんが多くいらっしゃいますし、すごく近くで見られるので、お台場で走るのは気持ちがいいですね。ただコースも狭いですし、路面も悪いので、クルマには悪いなって思っていました」と藤野選手は感想をポツリ。
そんなお台場は、過去を振り返ると、藤野選手は2017年にお台場で単走とドライバーズタイトルを獲得。#88 川畑真人選手もドリフトの世界大会「FIAインターコンチネンタルドリフティングカップ」の初代王者を決めるなど、色々と思い出を残る場所です。


また、当日はモーターファンフェスタという無料イベントも併催。秋色に染まる台場は、この週末だけはクルマ色に染まったのでした。
◆ドライバーズタイトルは大混戦!





前戦オートポリス終了時点で、ドライバーズタイトル争いは#99 中村直樹選手をトップに、#31 蕎麦切広大選手、#2 田中省己選手、#77 松山北斗選手、そして藤野選手の5名に絞られました。中村選手と藤野選手のポイント差は、わずか9ポイント。
例年、タイトル争いは2~3名に絞られるのですが、5名によるタイトル争いなので混戦は久しぶり。しかもTOYO、ヴァリノ、シバタイヤとD1に参戦している主要タイヤメーカーがすべて入っている展開です。
それゆえタイヤメーカーのイメージカラーから「赤vs青の戦い」とも形容され、5年ぶりのお台場大会は最高の熱を帯びての開催となりました。逆にチームは総力戦の様相で、ピットはどこもピリピリとした空気が漂っていました。
グランツーリスモD1GPシリーズ第9戦公式練習日。中村選手がチェック走行でクラッシュ! リヤメンバーも曲がっています。修復は間に合うでしょうが、万全の状態で本番を走れるか⁉︎。#D1GPpic.twitter.com/8pAaTuMrft
— D1 GRAND PRIX (@D1GRANDPRIX) November 10, 2023
事件は雨模様の金曜日から始まりました。練習走行中、中村選手のマシンがコンクリートウォールに激突。チームは千葉の板金工場で朝の4時まで修理をしてマシンを復帰。サーキットに戻しました。

そして土曜日。この日のお台場は、朝に風速20mを超える強風が吹く荒れた天候。設置したテントは風に飛ばされ、併催イベントが中止に追い込まれるなど大きな被害が出ました。その様子は、近くのテレビ局によって全世界に向けて配信されたので、ご存じの方もいるかもしれません。

Team TOYO TIRES Driftのチームテントは幸いにも無事でしたが、物販エリアのテントは一部が倒壊。また、ほかのチームも一部が壊れて屋根なし状態になるなど、被害が出ていました。それゆえD1グランプリの大会そのものも開催が危ぶまれましたが、風が弱くなると見計らって、予定より2時間30分遅れの10時30分からチェックランがスタート。ですが、この時点でも「単走はするけれど、追走トーナメントをするかは単走終了の時間次第」という状態だったのです。



その中、藤野選手のマシンに駆動系にトラブルが発生。前戦のエンジントラブルでリタイアした記憶が蘇ります。ですが部品交換を得て事なきを得ました。
【単走】藤野選手は3位で好発進!
強風により開始が大幅に遅れ、11時30分すぎから競技は開始。通り雨も止むものの、頬を突き刺す北風も少し弱まりました。追走は追走トーナメント決勝進出の可否のみならず、ドライバーズチャンピオン争いのポイントも入るため、藤野選手はライバルの誰よりも上の順位で通過することが求められます。

藤野選手はAグループからのスタート。1本目は108km/hという高い侵入速度ながらも、やや抑え気味の走りで98.7。

2本目はより深くから一気に角度を変えての侵入。つまり攻めた走りをみせます。その一方で、最後はまっすぐ気味に。その影響もあって、点数は伸び悩み98.5。この時点で3位。

川畑選手はCグループからの出走。1本目は113km/hからの侵入。ですが比較的手前から1コーナーに侵入してしまい、角度は足りず。さらにセクター2でコースアウト減点がとられて92.8と失敗。

あとがなくなった2本目。ですが点数は伸びずの95.98。Cグループ終了時点で、追走トーナメントへ進出できる16位の点数が97.21だったため、追走トーナメント進出ならず。

なお、単走優勝は#33 石川選手が勝ち取りました。単走終了時点で、ドライバーズチャンピオン争いに目を向けると、藤野選手は3位で2ポイント獲得。蕎麦切選手が4位で1ポイント。
以下ノーポイントで、5位に松山選手、7位に田中選手、13位に中村選手。トップ中村選手と藤野選手の差が少し縮まりました!
【追走トーナメント決勝】藤野選手が優勝!
ドライバーズランキングトップとは3ポイント差で最終戦へ

藤野選手のベスト16戦。相手は3ローターのFC3Sを駆る#51 岩井照宜選手。藤野選手先行の1本目、安全マージンを取りながら綺麗な走りをする藤野選手に対して、後追いの岩井選手は1コーナーの出口を、ちょっとまっすぐになってしまうミス。距離も離されてしまい後追いポイントを稼ぐことが出来ず、藤野選手96点に対して、岩井選手は90点の走りに後追いポイント2。

藤野選手後追いの2本目。藤野選手は無理をしない寄せで安牌の走り。岩井選手96点の走りに対して、藤野選手は91点に後追いポイント10で勝利。

完全に太陽が落ちた頃に行なわれた藤野選手ベスト8戦。対戦相手は#79 目桑宏次郎選手です。藤野選手先行の1本目、目桑選手は4セクターで少し離されてしまいます。藤野選手97点の走りに対して、目桑選手は94点の走りに後追いポイント10。

藤野選手後追いの2本目。藤野選手は一気に寄せます。その刹那、目桑選手のドライブシャフトが折れて勝負決定。藤野選手がベスト4へと進みます。

ベスト4の対戦相手は#52北岡裕輔選手(TEAM MORI)。ですが、対戦前のウォームアップ走行中にデファレンシャルギヤが破損。北岡選手はスタートラインに着くもスタートすることはできず、藤野選手が勝ち上がります。

決勝は中村選手との直接対決。中村選手先行の1本目、中村選手はゾーン1を外すミス。中村選手97点の走りにゾーン減点2の95点。藤野選手は95点の走りに後追いポイント11.5。よって11.5のアドバンテージをもって2本目に挑みます。

藤野選手先行の2本目。逃げる藤野選手に必死の寄せを見せる中村選手。ですがゾーン2付近で中村選手は藤野選手に接触。ですが藤野選手は走り切ります。いっぽう中村選手は姿勢を乱して少しまっすぐ気味に。この際に4セクターでややインカット走行をしてしまいます。結果、藤野選手97ポイントの走りに対して、中村選手は95ポイントに後追いポイント9.5、さらにインカット減点2が入って102.5で逆転を阻止。藤野選手が今シーズン2勝目を挙げました。

第9戦の終了時点でのドライバーズランキングのポイントは、中村選手124、 藤野選手121、松山選手109、蕎麦切選手109、田中選手108。藤野選手と中村選手が、3位以下に対してわずかに引き離して最終戦を迎えることになりました。
【最終戦・単走】藤野選手が単走優勝!
中村・蕎麦切が雨に泣く
決戦の日曜日は、朝から雨が降るコンディション。ですが天気予報によるとセッション中の11時頃に雨は止むとか。D1グランプリでは降雨時、走行点に雨量に応じて一定の係数(ウェット係数)が設けられます。これにより、雨量による有利不利を少なくしています。
ですがドライと違うのは追走進出への方法。セッション全体が同じ係数ならドライ時と同じ全体の得点上位16名が選出されるのですが、セッション中に4つにわけたグループの各上位4名が進出するというシステムが採られます。結果、組み合わせが重要なカギとなります。
川畑選手はAグループ前半からの出走。このグループからは10名が参加し、その上位4名に入らなければなりません。さらに中村選手と蕎麦切選手、松山選手と3名のドライバーズチャンピオン候補者がいるほか、何名かの単走巧者がいるという「死のグループ」。川畑選手は自身のためはもちろん、藤野選手をアシストする上でも通過したいところです。

いったん雨が上がった川畑選手の1本目、97km/hからコーナーのアウト側にあるゾーン1に向かってアウトギリギリの理想ラインを通る綺麗な走り。これで96.8。

少し雨が降り始めた2本目。同じラインで狙ったのですが、ゾーン1をコースアウト。減点2が入って94.0に終わります。

蕎麦切選手、中村選手は緊張からか、路面とクルマが合わなかったのか、グループのトップ4に入ることができず。雨が止んで路面が乾き始めたグループC開始前にウェット係数が変更され、その時点で追走進出は途絶えました。その結果、事実上のドライバーズチャンピオン争いから脱落。

藤野選手はDグループの後半で出走。この頃になると、路面もドライ方向へ。藤野選手の1本目、緊張ゆえか、ややコンパクトにまとまった走りで96.8。グループ6位とピンチに陥ります。

運命の2本目。一転しダイナミックな走りへと変化。これが功を奏して98.5でグループトップ。さらに全体のトップに立ちます。その後、ほかの選手がこの点数を超えることができなかったため、藤野選手の単走優勝が決定。さらに年間の単走チャンピオンに輝きました。ドライバーズランキングでも、4ポイントが入り中村選手を逆転。単独トップに躍り出ます。
【追走】松山選手が優勝、藤野選手2位でお台場「秋のTOYO祭」
単走終了時点(=追走ベスト16戦開始時点)でのドライバーズタイトルポイントに目を向けると、藤野選手125、中村選手124、田中選手111、松山選手110、蕎麦切選手109。中村選手と蕎麦切選手は追走進出できないことから、タイトルは藤野選手、田中選手、松山選手に絞られました。追走優勝で得られるポイントが25であるため、藤野選手と田中選手の差が25ポイント以上ついた段階で、藤野選手のシリーズチャンピオンが決まります。

この時点で、藤野選手と田中選手のポイント差は14。藤野選手は単走1位であったことから、ベスト8戦に上がった段階で5位が確定し13ポイントが入ります。すると田中選手との差は27ポイントとなることから、追走で1勝すれば藤野選手のシリーズチャンピオンが決定します。

午後3時頃から始まったベスト16戦。路面は完全にドライとなりました。藤野選手の相手は、今年初めて追走進出を果たした#27 茂木武士選手。藤野選手先行の1本目、逃げる藤野選手に対して、茂木選手は前半に詰めるものの、後半で離されてしまいます。藤野選手98点の走りに対して、茂木選手は92点の走りに後追いポイント10.5の101.5。

運命の2本目。藤野選手は茂木選手に対して常に一定の距離でついていく、王者の走り。茂木選手96点の走りに対して、藤野選手は95点の走りに後追いポイント7.5の102.5。




結果、逆転に成功。この瞬間、大会終了までタイヤのトラブルがでない限り、藤野選手の2017年以来となるドライバーズタイトル戴冠が決定しました。今回、TOYO TIRESはVIP席を用意していたのですが、来場者のテンションは最高潮。ピットに戻る藤野選手は、声援を送る人たちに車内から応えていました。

川畑選手のベスト16戦の相手は、タイの#89 ポップ選手。川畑選手後追いの1本目、常にポップ選手を捕まえて、ポップ選手96点の走りに対して、川畑選手94点の走りながらも13ポイントの後追いポイントを獲得し107。

川畑選手先行の2本目は、まさに無双状態。川畑選手98点の走りに対して、ポップ選手は96点の走りに後追いポイントは4.5。結果川畑選手の勝利となりました。

ベスト8は藤野選手対川畑選手のチームメイト対決。夕方になり、外はだいぶ暗くなってきました。藤野選手先行の1本目、川畑選手は常に横につけて、まるでデモランのよう。藤野選手98点に対し、川畑選手は93点に後追いポイント12。


入れ替えての2本目もデモラン状態。ですが、藤野選手の方が近かったようで、川畑選手98点の走りに対して、藤野選手は96点の走りに後追いポイント14。藤野選手の勝利となりました。

藤野選手ベスト4の相手は、FD使いの#7 松井選手。松井選手は今シーズンここまで調子が出なかったため、来年への継走をみせたいところ。藤野選手の1本目。松井選手はセクター4でついていけず、藤野選手97点の走りに松井選手94点に後追いポイント9。


松井選手先行の2本目は、一定の距離をとった藤野選手。松井選手は97点の走りでしたがゾーン1の不通過減点2がとられて95。藤野選手97点の走りに後追いポイント11.5。藤野選手の決勝進出が決まりました。

決勝の相手は松山選手。藤野選手としては優勝してシリーズチャンピオンを決めた、と言いたいところ。藤野選手先行の1本目。ここでも4セクターがカギをにぎり、松山選手はついていくことができません。藤野選手97点に対して、松山選手は95点に後追いポイント8。

入れ替えての2本目。一気に逃げる松山選手。藤野選手は前半でついていくことはできませんでしたが、後半で差を詰めます。松山選手99点の走りに対して、藤野選手は96点の走りに対して後追いポイント7で103ポイント。

結果2点差で松山選手が今季初優勝。松井選手は今季最上位の3位入賞したことから、TOYO TIRES勢が表彰台を独占しました。お台場での「青vs赤」の対決は青の勝利となりました。

さらにこの大会はJAFカップ大会だったことから、藤野選手は単走優勝のJAFカップが贈呈され満面の笑みをみせました。



その後、年間表彰され、藤野選手はうれしい賞金300万円をゲット。チームも年間ランキング1位を獲得。藤野選手にはさらに単走チャンピオンもあり、Team TOYO TIRES Driftと藤野選手は今シーズンのタイトルを総ナメしました!

【コース外の様子】コースの中も外もTOYO TIRES祭



併催イベント「モーターファンフェスタ」側で行なわれた物販エリアに目を向けると、お台場限定のジップアップパーカーが登場。土曜日は販売できなかったので、さらに日曜日限定という感じでした。ちなみにLサイズは早々に完売していたようです。

単走と追走の合間に行なわれたトークショーは、藤野選手が単走チャンピオンを獲得した状況ということもあって、大盛り上がり! 恒例のジャンケン大会も大盛況。コースの中も外も「秋のTOYO TIRES祭」でした。

さらに久々のお台場開催ということで、TOYO TIRES応援VIPスタンドが設置。国内外の様々なVIPなお客様がドリフトバトルを楽しまれていました。
◆表彰式の後には別れの時が……

日曜に行なわれた年間表彰の後、チームのピットでは歓びの声に沸いていました。そして1年間レースクイーンとして華を添えられていた逢坂真希さん、白石美音さんとのお別れの時が。川畑選手、藤野選手から謝辞とともに花束が手渡されると、2人の目からは大粒の涙が。2人とも、ほぼ初めてのサーキットでのレースクイーン活動で、いきなりのチャンピオン。「アットホームで温かいチームで、とても幸せでした」(逢坂さん)と笑顔をみせました。

そして20年以上にわたり、Team TOYO TIRES Driftを支えたTOYO TIRESの菅野氏が勇退するとあって選手とスタッフで胴上げ。怖がりながらもうれしさをにじませた菅野氏は、胴上げ後に「また、どこかでお会いできればと思います」と照れながら語りました。
◆賞金300万円は「壊れたエンジン代になるのかな(笑)」

こうして、見事チャンピオンになったTeam TOYO TIRES Drift。選手に今大会と1年を振り返っていただきました。
川畑選手「お台場らしい、よい雰囲気を味わいました。乗り慣れていないわけではないのですが、土曜日はちょっとリズムが崩れた感じでした。今日は最低限のノルマを達成したという感じです。ベスト8の藤野選手との対戦は楽しかったけれど、勝ちきれなかったのが……。自分の中でも攻めきれなかったというのはありますね。
1年を振り返って、ちょっとムラのある1年だったなと思います。もうちょっと強くならないとな、というのはありますね」
藤野選手「昨日は行けると思っていなかったのですが、今年最後の節目で、周りの仲間からの勝たせようという気持ちがすごく強かったので、そこに自分が弱い気持ちでいったら成績も出ないので、強い気持ちで行きました。
日曜日の単走はめちゃくちゃ緊張していました。緊張して点数がまったく出なかったのですけれど、2本目は自分を信じていくしかないという状況で、できる限り攻めました。単走チャンピオン獲得できてうれしかったですね。2017年にシリーズチャンピオンを取ったのお台場で、今回また獲れたことがすごくうれしいです。
あと1年間色々とメカのトラブルだったりとかあったのですが、仲間が忙しい中、色々助けてもらったので、恩返しができたかなと思います。来年は2連覇を目指します。86もすごく良い状態になってきているので、さらにもう少し詰めていきたいです」
気になる優勝賞金300万円の使い道はというと「前戦のオートポリスでエンジンが壊れたので、そこでなくなってしまうかも(笑)」


こうして2023年シーズンを締めくくったTeam TOYO TIRES Drift。ですが来年の戦いは既に始まっています。来シーズンは5月10日(金)の奥伊吹モーターパーク(滋賀県)で開幕します。その前に1月の東京オートサロンでKick Off Driftを開催するほか、時期は未定ながらエキシビジョンマッチも開催予定とのこと。

チーム体制を一新するとともに、GR86投入して2年目。ついにチャンピオンを戴冠したTeam TOYO TIRES Drift。来年の活躍が今から楽しみです!

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