刺激的な走りで多くのファンを持つイタリアの名門「アバルト」から、初のBEV(バッテリーEV)「アバルト 500e」が誕生しました。果たして電気になってもサソリの毒は健在なのでしょうか?
以前、アバルト500を試乗したことのあるモデルの新 唯(あらた・ゆい)さんとともにレポートします。
超個性的なフロントマスクで街中でも目立つ!

フィアット 500eが日本上陸したのは2022年6月のこと。発売直後からアバルト版が出ることは誰もが予想していたものの、どんなクルマになるのか興味津々。というのも、BEVはエンジン車と比べて差別化が難しいから。




目の前に登場したアバルト 500eは、予想通りと予想外が入り混じった1台でした。まず予想通りだったのは、エアロや室内がフィアット 500eとは異なる点。エアロはフロントマスクがマッシブでボリュームアップ。それにともなって全長が45mm伸長したほか、サイドスカートが設けられるなど、スポーツテイスト満点です。
フロントバンパー下部のエアダムはサソリの足、フロントフラップはサソリの硬い背甲をモチーフにしているというコダワリっぷりです。うれしいのはガソリン車のフィアット 500と同様の、5ナンバ―サイズであること。日本の道に5ナンバーサイズはピッタリですからね。迫力を増したエクステリアに、唯さんは「ちんまりしていてカワイイ」との印象。
オープンモデルなのと充電アダプターで荷室は狭い






今回の試乗車はカブリオレなので、バックドアの開口部も荷室容積も小さく「ロードスター程度ですかね」とも。そして後述しますが、急速充電アダプターが大きいので、さらに容積は小さく。




室内も各所にスウェード調の表皮が貼られてスポーツテイストが一気にアップ。「これ、ホコリを取るのが大変そう」と掃除の心配をする唯さん。しかし、青と黄色のステッチに「これはカワイイですね」と気に入られたようす。







メーターパネルはフル液晶。ステアリングホイールのグリップ部分にもスウェード調の表皮がおごられたほか、アルミペダル採用でよりスポーティー。クルーズコントロール系が右手親指方向にあるので、日本車に慣れた身としてはうれしいところ。ですが普通のクルーズコントロールで、一定の車間距離を維持して前のクルマを追走するアダプティブ型ではないのがションボリ。フィアット 500eがアダプティブクルーズコントロールなので、機能としてはあると思うのですが……。
シートもセミバケットで、かなりサイドシルが高いもの。いわゆるスポーツシートでタイトなものです。それゆえ「もうちょっとゆったり感があるといいかなと思います」と唯さん。
Apple CarPlay、Android AUTOも対応する利便性









センターコンソールまわりをチェックしましょう。モニターサイズは10.25インチとイマドキとしては標準的。Apple Carplay、Android AUTOに対応しています。その下にはスマホを置くトレイがあり、ワイヤレス充電に対応。車両とはUSB-A端子で結ばれます。アームレストを開けると、充電用のType-AとType-Cを用意。その近くには走行モード切替スイッチと、電子サイドブレーキが用意されています。
バックモニター機能はありますが、頭上から見たカタチで表示するアラウンドビューは非対応で、実像をインフォテインメントモニター、ソナーはメーターパネルでチェックするタイプ。ちなみにカメラの取り付け位置の都合上、雨が降るとうしろが見えづらい時があります。


後席もスウェード調へと変更。コンパクトなボディーサイズゆえ足元は狭く「乗り降りも含めて、荷物を置くための席かな」と苦笑。シートにサソリマークがあるあたりがカッコいいですね。

予想外だったのは、ノーマルモデルよりパワーアップし、さらにBEVなのに「排気音システム」を搭載したこと。フィアット 500eの最高出力の118PSに対し、アバルト500eは155PSと、約3割パワーアップしています。
タイヤサイズも異なり、フィアット 500eの205/45R17に対してアバルト 500eは205/40R18とインチアップ。そして、ブリヂストンのスポーツタイヤにチェンジされています。航続距離はフィアット 500eが335km、アバルト500eが303km(WLTCモード)と短くなっています。

走行モードは「スコーピオントラック」「スコーピオンストリート」「ツーリスモ」の3種類。「スコーピオンストリート」「ツーリスモ」はワンペダル動作で、そのうちツーリスモは出力を下げたエコモードといったところ。スコーピオントラックは普通のクルマのようなペダルワークが必要となります。
スピーカーから爆音が鳴る! EVでもエンジンのエモさが好きな人に
予想外にして、最大の驚きはアクセル開度に応じて、疑似エンジン音を発する「レコードモンツァ」です。スピーカーをボディー後方下部に装備したこと。ドアスピーカーから音を出すシステムの採用事例は多いですが、車両の外にスピーカーを配置し、そこから排気音を出すというのは、ちょっと記憶にありません。



これがかなり立派な音で、「アバルトって、こういう音するよね~!」と思わずニヤリ。こちらは停止時に設定画面から「表示→電気機能」からオンオフができ、オフにするとホントに静かな電気自動車になります。



充電ポートは見慣れない形状で驚き。これは北米仕様のCCS1という規格で、そのままでは日本標準のCHAdeMO規格の急速充電器は使えません。なので、本機ではCCS1→CHAdeMO変換アダプターを介して充電をします。これがただでさえ容量の少ないラゲッジスペースの、かなりの面積を占有する大きさ。そして結構重たかったりします。
アダプターの仕様は「500V、125A」ですので、最大62.5kWhまで対応可能。つまり日本で普及している50kWhタイプは問題ナシですが、それ以上の出力の急速充電器をつなげても、頭打ちになると思います(充電できないわけではありません)。


使い方にも作法があるようで、最初にアダプターを車両に取り付けてから、充電器からのケーブルを取り付けるのが無難のよう。というのも、最初に充電ケーブルとアダプターを取り付けてから車両に取り付けようとすると、かなり苦戦します。また、雨の日だとちょっと大変だなぁと思ったりも。


実際に使ってみたところ、メーターパネルに一瞬エラー表示が出てドキッとしたのですが、キチンと使えました。
走行モードでガラリとキャラクターが変わる

それでは、スコーピオンストリートモードにして、排気音をオンにして試乗を始めましょう。電気自動車の試乗経験は多くない唯さん。果たして……?

「ワンペダルは慣れればラクだと思うのですが、慣れるまで少し時間がかかりそうですね。結構回生ブレーキが利きますし、急に加速して進んじゃうので、急発進急ブレーキみたいになりがちでした」と、ちょっと悪戦苦闘。
そこで「スコーピオントラック」モードにチェンジ。一気に加速するあたり、なるほどアバルトっぽい! 車体重量は電気自動車としては軽量な1360kgで、それでいて155馬力ですから、ガツンと来ないわけがありません。この走りの良さに、運転した誰もが思わずニンマリ。

気になるサウンドについては、「意外と大きくて。気分は若干高揚するんですけれど、信号待ちとかは気になって止めてました」と唯さんがおっしゃるように、社外品マフラーよりも大きい音が出るのです。アバルト 595 コンペティツォーネに搭載するレコードモンツァマフラーも同じように音が大きいので、こんなものかなと思いつつ、個人的にはボタン1つで切替ができたらいいのに、と思ったり。

意外だったのが乗り心地のよさ。唯さんが「スポーツグレードだと思うのですが、それほどスポーツスポーツという感じじゃないですね。
「小回りが利きますから、街乗りにはいいかなと思います。長距離はちょっと辛いかもしれないですね」という唯さん。総括すると「楽しく街を駆け抜ける1台として、アバルト 500eは好適なクルマ」といえそうです。

さて、ここまで値段の話はあえてしなかったのですが、アバルト 500eのお値段をお伝えしましょう。ハッチバックは630万円、試乗したカブリオレは660万円。「高っ」と思わず声を漏らす唯さん。この大きさで、この値段。確かにそう感じるのも無理はありません。
ですが、ガソリンエンジンのアバルト 500が500万円程度、アバルト 500eのベースとなったフィアット 500eがハッチバック553万円、カブリオレ570万円であることを考えると、電動サソリのプライスタグは、むしろ頑張ったというか、オトクと思えるから不思議。

予想通りと予想外が入り混じったアバルト500e。でも一番の予想外は「電気になってもサソリは楽しいクルマ」だったこと。電気の時代でもメーカーの個性がキチンと残る、趣味性の高いクルマは存在しつづけられることを、アバルトは教えてくれたように思いました。

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モデル紹介――新 唯(あらた ゆい)

10月5日栃木県生まれ。ファッションモデルとしての活動のほか、マルチタレントを目指し演技を勉強中。また2022年はSUPER GTに参戦するModulo NAKAJIMA RACINGのレースクイーン「2022 Moduloスマイル」として、グリッドに華を添えた。