コンパクトデジタルカメラ(コンデジ)でキヤノンのシェアが爆上がりしている。BCNランキングの集計で7月は5.3%と6位に沈んでいた同社だが、8月には27.1%と怒涛の回復。
やすやすとトップシェアを奪還した。原動力は8月に受注再開した「PowerShot G7 X Mark III」。7月まで流通在庫のみで細々と販売されていたこのカメラ。8月には、いきなり15.6%のシェアを得てトップに躍り出た。2019年発売で1インチセンサーを搭載。ロングセラーの高級コンデジだ。8月の平均単価(税抜き、以下同)は10万7000円だった。同じく8月に受注を再開した「PowerShot SX740 HS」も8.0%と台数シェアで3位につけ、キヤノンのコンデジシェアを押し上げている。1/2.3型センサー搭載で8月平均単価は6万8000円だった。より高価なPowerShot G7 X Mark IIIの方が倍近く台数が出ており、この点は興味深い。

 キヤノンのコンデジ回帰は続く。同社は9月10日、2016年発売の超ロングセラー「IXY 650」のマイナーチェンジモデル「IXY 650 m」を10月下旬に発売すると発表した。
記録媒体をSDカードからmicroSDカードに変更しただけ、という極めて小さな変更ながら、キヤノンオンラインショップの税込価格は5万5000円。前モデル、IXY 650が発売当初2万4624円だったことを考えると実に2倍以上の値上げだ。確かにIXY 650は発売以後何度か価格改定を行ってきた。直近では昨年4月に3万9000円まで値上げしている。それでも、新製品との差は大きい。この価格設定に関し、キヤノンマーケティングジャパン カメラ統括本部 カメラマーケティング本部 カスタマーリレーション企画部 コミュニケーション企画第一課の加藤政佐樹氏は「最近の中古市場の相場も参考にして価格を決めた」と話す。確かに中古市場も値上がりしているようだ。それほど、コンデジ市場は飢えている。
 キヤノンは昨年のコンデジ年間シェアで23.4%でトップ。2年連続でBCN AWARDを受賞した。トップシェアの同社がコンデジ回帰の動きを加速することで、市場全体にも大きな影響を与えている。8月の販売前年比は台数で187.4%、金額では実に248.7%と大幅に拡大。
平均単価も7月の3万2800円から8月は4万6800円と1万4000円も一気に上昇した。この勢いをいつまで継続できるかはわからない。少なくとも足元では、しっかりと需要が確認できている。しかし、市場をけん引しているのは、あくまでも旧製品かそれに準ずるカメラにすぎない。問題は「次のコンデジ」。スマートフォン全盛時代に、しっかりと共存できるカメラ専用機とはどんなものなのか、まだ不透明だ。
 かつてライカが35mmフィルムカメラを世に送り出したとき、「小型・軽量・携帯性」をウリにしていた。それでいて画質もいいと。日常的な取材などを通じ、今私が思うカメラもそんなカメラだ。そこそこのセンサーサイズがあり、ある程度の暗所撮影にも対応しつつ、35mm換算で28mmから300mm程度の光学ズームを備えるカメラ。多少厳しい環境の撮影でも、紙媒体の原稿として十分耐える画質が維持できるカメラ、といったところだ。PowerShot G7 X Mark IIIが激売れしているのも、こうしたニーズがあるからだろう。
レンズ交換式カメラの価格高騰や巨大化とは正反対のカメラに対するニーズは意外に大きいと感じる。カメラメーカー各社には、コンデジに正面から向き合って、もう一度カメラの完成形を目指してほしい。できれば価格は控えめで。(BCN・道越一郎)
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