電気自動車(BEV)でロングドライブに行くと、必要な充電量とその費用はどれだけのものになるのでしょうか? 電気自動車の購入を考えるにあたり、ランニングコストは気になるところです。
そこで、日産「アリアB9」での1600kmオーバーの旅にかかった費用を、エンジン車と比較してみました。
最新の日産「アリアB9」にてロングドライブの旅へ
EVでのロングドライブにかかる燃料費、というか電気代はいったいいくらかかるのでしょうか? そして、それはエンジン車と比較して、どっちが高いのか? そんな疑問に答えるべく、7月上旬の酷暑の中、東京から青森までの3泊4日のロングドライブに出かけてきました。

テスト車となったのは昨年「アリア」に追加された、バッテリー最大グレードとなる「アリアB9」(738万2100円)です。こちらのモデルは、91kWhのバッテリーを積み、一充電走行距離640km(WLTCモード)という「アリア」の中で最大の航続距離を誇ります。カタログスペックの電費は169Wh/km(WLTCモード)です。これは1kWh当たりの電費で、約5.92km/kWhに該当します。
そして、4日間の東京~青森のドライブで走ったのは1653.4kmでした。4日間で行なった充電は、30分の急速充電が8回と、9時間半の普通充電を1回。ただし、充電率99%でスタートして、ゴールしたのが75%だったので、走った分だけ充電しようとすると、もう1回の急速充電が必要になります。つまり、トータルで急速充電9回(270分)と、普通充電9時間半(570分)という結果になります。
電費は手計算になりますが、トータルで6.36km/kWhでした。高速道路中心とはいえ、カタログ値を上回る、優れた電費が実現できたことになります。
外出先で充電する場合、BEV充電の費用のほとんどが、電力量ではなく、時間分で請求されます。30分の急速充電なら、出力が弱くても強くても料金は変わりません。

つまり、家の外での充電費用を安く抑えるには、なるべく高出力の充電器を選ぶのがコツ。今回の旅は、高速道路のサービスエリアの急速充電器を主に使いましたが、昔からある50kWではなく、新しく設置された90kWや150kWを狙って充電しました。
ロングドライブでいったいどれだけの費用がかかったのか?
今回の「アリアB9」でのロングドライブでは、急速充電9回(270分)と普通充電9時間半(570分)が、走るために使った電気の料金になります。

これはいったいいくらなのか? 実のところ、BEVで面倒なのは、充電の支払い方法にたくさんのプランが用意されていることです。
日産でいえば以下のプランになります。
・プレミアム100:月額4400円
・プレミアム200:月額6600円
・プレミアム400:月額1万1000円
・シンプル:月額1100円
それぞれに基本料金で使える充電時間分が含まれており、それを超えると時間分が請求されるという仕組みです。越えなければ追加費用はゼロ。ただし、超えた分は急速充電が1分33~99円、普通充電が1分3.3円という料金です。
真ん中のプレミアム200でプラン以上の急速充電の料金は1分38.5円ですから、30分では1155円になります。
同じく、日本最大級の充電サービスのeモビリティパワーでも「急速・普通併用プラン」(月額4180円)、「普通充電プラン」(月額1540円)というプランが存在し、1分当たりの充電料金が設定されています。急速充電が1分27.5円で普通充電が1分3.85円になります。この場合の30分の急速充電の費用は825円になります。

ちなみにeモビリティパワーには登録なしのビジター料金というものもあり、その場合、プランよりも割高な料金制になっています。たとえば、最大出力50kWで30分充電すると1650円程度になります。
どの料金がオトクになるのかというのは、ユーザーの毎月に使う充電の回数次第と言えるでしょう。ほとんど外で充電しないなら、基本料金の安いプランがいいですし、逆にたくさん充電するなら基本料金が高い方がコスパがいいでしょう。

いくつかのプランで試算してみると
今回は日産車でのドライブなので、まずは日産のプランで計算してみましょう。たとえば、日産の充電プランの真ん中となるプレミアム200(月額6600円)の場合、プランに急速充電200分と普通充電600分が含まれています。今回の旅は急速充電270分と普通充電570分ですから、プランの基本料金からハミ出るのは急速充電70分だけになり、その費用は2695円となります。つまり6600円の基本料金にプラス2695円で旅の電気代が賄えたことになり、トータルでは9295円です。

ただし、基本プランのインクルード分は使わず、追加分のみで充電したと計算すると、急速充電は38.5円、普通充電は3.3円/分ですから、38.5円×270分+3.3円×570分=1万2276円となります。1万2276円が旅の電気代になるのです。
では、eモビリティパワーの「急速・普通充電併用プラン」(月額4180円)ならどうでしょうか? こちらは基本料金にあらかじめ含まれる分はありません。急速充電が1分27.5円で、普通充電が1分3.85円となります。これで計算すると、27.8円×270分+3.85円×570分=9700.5円となります。
つまり「アリアB9」の旅では、9295~1万3880.5円が走るために使った電気代になるわけです。

エンジン車で旅の燃料代を試算してみる
続いて、エンジン車での燃費を計算してみましょう。「アリア」は全長4.6mのミッドサイズSUVですから、同格となるのはガソリン車ハイブリッドの日産「エクストレイル」、ディーゼルのマツダ「CX-5」です。この2台と比較するのが良いでしょう。

すべて2WDとして、エクストレイルの燃費性能は19.7km/L(WLTCモード)で、「CX-5」は17.4km/L(WLTCモード)です。燃料の価格は、レギュラーガソリンで170円、軽油で150円として計算してみましょう。
走った距離は1653.4kmですから、「エクストレイル」なら約83.9L、「CX-5」なら95Lが必要となります。つまり「エクストレイル」なら燃料費が1万4263円、「CX-5」ならば1万4250円になります。エンジン車の場合、基本料金もなにもありませんから、これがそのまま燃料費になります。
比べてみれば、「アリア」は9295~1万3880.5円。ガソリン・エンジンのハイブリッドである「エクストレイル」は1万4263円。ディーゼルの「CX-5」ならば1万4250円となります。

ちなみに、ガソリン価格がレギュラー130円程度であれば、その勝敗は逆転します。つまり、今回の勝負はBEVの「アリア」が勝りましたが、ガソリン価格や充電価格の変化があれば、勝敗はどちらに転ぶかわからないということです。個人的には、「意外と僅差だな」というのが正直なところでした。

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筆者紹介:鈴木ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。
最近は新技術や環境関係に注目。年間3~4回の海外モーターショー取材を実施。毎月1回のSA/PAの食べ歩き取材を10年ほど継続中。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 自動車技術会会員 環境社会検定試験(ECO検定)。
