普段はスマートフォンマニアでスマホ記事を寄稿している筆者。このたび、走るスマホこと電気自動車、BYDの「SEAL」を購入した。
SEALはスポーツセダンにあたる車両で、日本向けには後輪駆動(RWD)と四輪駆動(AWD)が用意される。価格はRWDが528万円、AWDが605万円。初回1000台限定の日本導入記念キャンペーンでは、RWDが495万円、AWDが572万円と大幅な値引きがあり、コストパフォーマンスの高さを強く打ち出している。
筆者が購入したのは特別限定色「Edition Pale Green」のAWD仕様で、落ち着いた緑色が印象的
大画面ディスプレイと
快適動作のインフォテインメント
スマートフォンライターとしてまず目を引かれたのは、15.6型フルHDタッチパネルの大画面ディスプレイだ。今までの車にはない大きさのディスプレイは、カーナビやディスプレイオーディオと言うよりも、大型のタブレット端末がダッシュボードについているかのような感覚だ。
特徴的なのは大画面だけでなく、横画面・縦画面の両方に対応している点。縦画面ではマップのリスト表示が見やすく、ブラウジング時にもスマホ感覚で使える。中国市場ではTikTokなどの縦動画コンテンツ視聴用としても評価が高いようだ。


通信機能は日本向けはソフトバンク回線を利用した4G常時接続で、月2GBまでのデータ通信が無償提供される。OTAアップデートもWi-Fi不要で実行でき、“つながるクルマ”としての利便性は高い。
2GBのデータ量を超過すると、一般のスマートフォンの契約同様に通信速度が制限された状態になる。しかし、スマホのようにギガの追加購入は現状できない。
なお、同社の「ATTO3」では過去に容量1GBから2GBへのSIM交換サービスがあったそうだ。もしかしたら、今後は大容量のプランがオプションで追加されるかもしれない。
各種機能も軽快に動作する。インフォテインメントシステムにはAndroid 10ベースのOSを採用し、プロセッサーはQualcomm製のSM6350を採用する。独自のプロセッサではなく、スマホ向けのSnapdragon 690 5G mobile Platformを採用している。日本では4G/LTEまでの対応だが、中国向けは5G通信にも対応する。ストレージは128GBだが、ユーザーが利用できるのは57GB程度となっている。

ただし、Android 10ベースのOSながら、セキュリティの観点からアプリのサイドロードは不可。日本向けアプリストアにあるアプリはAmazon Musicのみと貧弱で、YouTubeやTikTokはブラウザー経由での利用に限られる。
画面分割もSpotifyとブラウザーにしか対応せず、せっかくの高性能ハードを活かし切れていない点は惜しい。日本向けもサードパーティアプリを拡充して、より車を便利に使えるようにしてほしい。

これらSEALのインフォテインメントシステムは一見最先端に思えるが、日本向け車両は進化の著しい中国車の最先端と比較すると2~3世代前の水準に留まる。BYDの最新車種「SEALION 7」と比較しても、HUD表示の情報量やディスプレイの動作レスポンスに世代差を感じる。
操作UIやYouTubeなどの一部機能は、スマートカーらしくアップデートで追加されるものの、日本向けには提供されていない。
日本では未発売なものの、中国ではSEALと同価格帯で登場しているLUXSEED S7(HarmonyOS搭載)、Xiaomi SU7(HyperOS搭載)と言ったスマートフォンとの連携性が極度に高い車両。Zeeker 007やNio ep6(Snapdragon系SoC採用、AI言語モデル搭載)などと比べると、BYDの車両はインフォテインメントの性能やスマートフォン連携といった分野で劣り、設計も保守的な印象が否めない。
このようなスマートカーが欲しい筆者からすると、BYDも中国と同様に5G対応、先進的なインフォテインメントを取り入れた車両を日本にも投入してほしいものだ。



ガジェット充電し放題! 車内の電源性能は充実
SEALのもう1つの特徴は、電気自動車らしい大容量のバッテリーを活かし、最大6台のスマホやタブレットを同時充電できる電源供給性能だ。USB Type-CとType-A端子を前席・後席それぞれに1つずつ、計4ポートを備えるほか、Qi規格15Wのワイヤレス充電パッドも搭載。助手席側のType-Cは60W PD対応でノートPCも充電可能だ。



ただし、最新世代車種では50W級ワイヤレス充電や全ポートType-C化、後席含む60W級の高出力対応が一般化しており、この点でもSEALはやや世代差を感じる。車種によってはV2L(Vehicle to Load、EVのバッテリーを外で使う)アダプターを必要とせず、車内に備えたコンセントから電気を取り出せるものもあり、この点でもやや劣る印象は否めない。


走行性能と装備も充実だが
走りを楽しむ要素は薄い
SEALは高い走行性能を持ち合わせる。AWDモデルは0-100km/h加速3.8秒、最高出力527psを誇り、高速道路でも余裕の走行が可能。車重2210kgと重量級ながら、ハンドリングは軽快で日常走行に不満はない。峠道やウェット路面では重さを意識する場面もあったが、総合的な走行性能、クルマとしての安定感は高いと感じた。
内装は価格以上の質感を備え、本革電動シート(メモリー機能付き)、DYNAUDIO監修オーディオ、空気清浄機能、ベンチレーション(シートを冷やす機能)など、価格を超えた装備が標準搭載。
走行面では加減速から停車まで全自動の前車速追従クルーズコントロール、レーンアシスト、緊急ブレーキを備える。このほか、運転席のHUDや全周囲カメラ、幼児置き去り防止検知機能なども装備する。


充電性能も現時点ではCHAdeMO規格で105kWの受け入れに対応。バッテリーに冷却機構を搭載しているため、炎天下でも熱落ちすることなく急速充電ができた。バッテリー容量も82.56kWhと大容量で、電費的に不利なAWD仕様でもWLTC値で575kmの航続距離も魅力。
筆者も実走してみたところ、新潟~大阪間往復の1200kmは休憩ついでに15分程度の急速充電でカバーでき、新潟ー仙台往復の530kmは無充電で走行できたので、航続性能はかなり優秀だ。
一方で、「車を操る楽しさ」といった感覚を刺激する要素はあまり備えていない。SEAL自体がコンフォートセダンに近い側面があることに加え、中国市場では新エネルギー車=自動運転を始めとした機能が求められていることも理由と考える。
中国では人間が運転して楽しい車両よりも、自動運転で安全かつ、快適に移動できる車両のほうが求められている。これは普及価格の車両にとどまらず、電動スーパーカーのYANGWANG(仰望) U9やXiaomi SU7 Ultraのような、驚異的な走行性能を持つ車両も例外ではない。
サーキット走行にも耐える性能を持つクルマでも、「走り」に重要な車両の軽量化よりも、先進運転支援機能のほうが求められているのだ。

【まとめ】中華スマホっぽい圧倒的コスパのBYD製EV
SEALは初回割引で495万円から、補助金を活用すれば地域によっては実質300万円台で購入も狙える。SEALに限らず、日本向けの車両はすべて中国での最上位グレードが投入されているため、性能・装備・質感の総合力は価格以上。そして、車両としてのコストパフォーマンスも良好だ。
スマートフォンに例えると「10万円を超えるGalaxy Sシリーズの性能・機能・質感を、5万円ほどのPOCO F7の価格で手に入れる」感覚だ。まさに高いコストパフォーマンスを得意とする中国メーカーの真骨頂ともいえる1台である。
一方で、ソフトウェアアップデートの提供頻度の少なさ、遅さは否めない。実際、SEALも発売から1年が経過してインフォテイメントのアップデートが1回のみ、車両アップデートは未提供という、スマートカーとしてはソフトウェアアップデートがほとんど行なわれていない状態なのだ。
自動車はスマートフォンと比較したら長いスパンで利用するものだが、インフォテインメント、車両ともに機能改善のアップデートは、中国と同じく半年から1年に1度はしてほしい。
現在、BYDは日本市場にREEVの新型車両ならびに軽EVの投入を予告している。スマートフォン同様に納得の性能、質感を備えつつ、日本の事情に沿ったローカライズされた製品を展開できれば、自然と注目度は高まると考える。
すでに正規ディーラーは全国に50店舗以上、提携整備拠点も拡充させており、日本でも本気でクルマを売りにきているBYD。今後の動向にも目を離せない。
■関連サイト