放送波を視聴する装置としてテレビをとらえると、最も厄介なのが「アンテナ線」だ。送信所から自宅までコンテンツが無線で飛んできても、その先は基本的に有線だ。部屋の中ではアンテナ線をテレビにつなげる有線状態になってしまう。しかも、その線はそこそこ太く取り回しも面倒だ。
4月、TVerがゴールデンタイムのオンライン同時配信(サイマル配信)を開始した。地上波テレビにとってオンライン配信の開始は「パンドラの箱を開ける」ことに等しい。これまで視聴率というざっくりした基準で視聴数や視聴者像を推計してきたわけだが、オンラインにシフトするとより正確な視聴記録が残る。ごまかしや言い逃れはできない。オンラインコンテンツの台頭で背に腹は代えられなかったのだろう。
「若者のテレビ離れ」。激しく手あかのついたフレーズだが、実際は「地上波コンテンツ離れ」だろう。コロナ禍の巣ごもり需要で、テレビの売り上げは絶好調だった。今年は反動減で前年割れベースではあるが、底堅い売れ行きを示している。テレビ離れはハードの問題ではなく、コンテンツの問題だ。かたや潤沢な予算をつぎ込んで豪華なセットと出演者をそろえたつまらない番組、かたや予算なしセットなしだがアイディアはすぐれた個人の動画、という構図もあちこちで見られるようになってきた。地方局のみならずキー局も、テレビ局はこれから冬の時代を迎えることになるだろう。
司法・立法・行政に並ぶ「第4の権力たるメディア」の一角を担うテレビ。ところが昨今「マスゴミ」と揶揄され、その権力に胡坐をかいた報道姿勢が激しく批判されている。ネットの力で一気に権力の座から引きずり降ろしてしまえという空気すら感じる。しかし、しかしだ。ひとつ問題がある。まさにその報道機関としての機能だ。このままテレビがさらに視聴数至上主義を激化させ、稼がないコンテンツはやめてしまえ、となれば、一体だれが政治を、経済を社会を報じるのだろうか。報道には人も金も設備もかかる。場合によっては危険も伴う。その割にあまり儲からない。ウクライナやロシアの情勢を現地から報じる記者の少なさは、テレビの現状を物語っている。
今、世の中にあまたあるニュースは、そのほとんどが報道機関が発信しているものだ。
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