LANケーブル1本でプロ用マイク4本分の音声を一度に送る……。そんな面白いシステムがある。
高度なデジタル技術を駆使……するわけではない。まさにアナログそのものなのだが、これが意外に重宝する。動画制作やちょっとしたバンド演奏を収録する際、複数のマイクを使いたい場面があるだろう。2本ぐらいならまだしも4本にもなればケーブルがごちゃごちゃになって大変だ。それを、たった1本のLANケーブルでスッキリと接続できる。

 プロ用マイクを接続する際の標準規格はXLR。3本の電線で信号を伝送する。ホット、コールド、グランドとそれぞれ独立しているため、信頼性が高くノイズに強い。しかしこのケーブル、結構な太さのものが多い。本数が増えてくると、取り回しがとても煩わしくなってくる。マイク4本程度を一度に伝送できる手軽なシステムがないか?そんな要望に応えるのがLANケーブルを流用した伝送システムだ。用意するものは、4本のXLR(メス)コネクタからLANのRJ454端子に変換するアダプタ、STP仕様のストレートLANケーブル、LAN端子から4本のXLR(オス)に展開するアダプタの三つだ。
これらの両端にマイクとレコーダーなどを接続して利用する。
 仕組みはこうだ。LANケーブルには8本の電線が入っている。そのため、ホットとコールドの2極までであれば、四つの機器が普通につなげられる。しかし、XLR接続は3本セット。4本のマイクをつなげるなら、ケーブルが4本足りない。これを、LANケーブルの中でも特にシールドが施されたSTP(Shielded Twisted Pair)ケーブルを使うことで解決する。STP仕様のLANケーブルにはプラグの側面にも接点があり、ケーブル内のシールドにつながっている。これをグランドとして4チャンネル共通で使用し、4本のマイクをつなげてしまおうというものだ。プロ用のマイクには「ファンタム電源」という、微弱電流を流さなければ動作しないものもあるが、これも問題なく供給できる。アダプタの内部も、特に複雑な回路などはなく、単にXLRからLAN端子に線がつながっているだけだ。
 世の中には、1本でも4チャンネル分のケーブルを必要とするマイクがある。
ゼンハイザーの「AMBEO VR MIC」やRODEの「NT-SF1」といった、いわゆる立体音響を収録する「音のVR」のためのマイクだ。一本のマイクの中にバラバラの4方向を向いたマイクユニットが仕込んである。これら各方向の音を合成することで、立体感や方向感を作り出す。画期的なマイクなのだが、ユニットが四つもあるため、出力も四つ。当然、レコーダー側も4チャンネル同時に録れるものが必要だ。さらに、マイクとレコーダーを結ぶケーブルも4本要る。これがかなり面倒だ。例えば、マイクの近くにレコーダーが置ける環境ならいいが、自然音などを収録する際、マイクから10m以上離れた場所で収録しようとすれば、4本のXLRケーブルを10m延々引き回す必要がある。そんな時にも、このLANケーブル接続が便利だ。
 ケーブルはSTP仕様のLANケーブルであれば何でもOK。何十mもの長距離を引き回す必要がある場合でも比較的安価に実現できるのがうれしい。しかし、音声用に利用するならノイトリックが開発した抜けにくいLANケーブル「イーサコンケーブル」がある。
ノイトリックはリヒテンシュタインに本社を構える、コネクタの国際企業。オーディオの世界では泣く子も黙るトップブランドだ。そのノイトリックが開発したとなれば、信頼性も高そう。外から見たコネクタの形状はXLRそのもの。しかし、内部にはLANでおなじみのRJ45プラグが入っている。XLRコネクタと同様、抜け防止の機構がコネクタ側にあり、普通のLANケーブルにある「ツメ」はない。そのため「ツメ折れ」の心配もない。イーサコンケーブルは、XLRコネクタと同じような感覚で接続でき、とても安心感がある。カナレのケーブルで試してみたが、15m、30mと長めに引き回しても、ほんの少し高音部が減衰する程度で、ほとんど音質に影響がなかった。
 長いXLRケーブルはあまり出番がない。そのくせ費用はかさむ。持ち運ぶにも重く、できれば使いたくない。
しかし、ちょっとした収録で長さが足りない、ということも間々生じる。そんなときに活躍するのが、LANケーブル接続セットだ。2セット用意すれば、多少の距離があったとしても、8チャンネル分の伝送を2本のLANケーブルだけでまかなえる。オススメだ。(BCN・道越一郎)
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