DJIのビデオカメラ「OSMO POCKET 3」(オズポケ3)の大躍進が止まらない。登場したのは2023年10月25日。
発売からわずか7日で10月の月次販売台数シェア11.3%を記録。いきなり販売台数ランキング3位で登場したのには驚いた。そして翌11月には26.8%で悠々と1位を奪取。以降この6月まで、20カ月連続でトップを走り続けている。まさにメガヒットのビデオカメラだ。発売から丸2年近く経過しているものの勢いは衰えない。足元ではさらにシェアが上昇。この6月の販売台数シェアは34.1%と過去最高を記録した。全国2300店舗の家電量販店やオンラインショップの実売データを集計する、BCNランキングで明らかになった。

 オズポケ3の販売台数シェアは23年11月以降、一度も20%を割り込んだことがない。さらに、ここにきて勢いづいており、5月には33.8%、6月には34.1%と2カ月連続で過去最高シェアを更新した。メーカー別でも同様だ。
オズポケ3を世に送り出したDJIは23年11月、33.0%のシェアを獲得。一気にトップシェアに上り詰めた。その後、勢いを増しながらダントツを維持している。この6月は50.3%と過半を占める独走。まさにDJI無双、オズポケ3無双の状態だ。オズポケ3の登場でビデオカメラ市場も一気に活気づいた。それまで前年並みから前年割れの水準で低迷していたが、23年10月以降21カ月連続で前年超えを継続。市場全体を押し上げている。
 オズポケ3がこうも市場を動かしたということは、従来型のビデオカメラが大いに衰退したことを意味する。環境の変化に耐えられなかった。従来型のビデオカメラで、最大の需要要因と考えられていたのが運動会の撮影だ。高倍率ズームを搭載したビデオカメラでわが子の雄姿を撮影したいというものだった。
しかし、少子化のあおりで需要そのものが減少。運動会自体も規模縮小の傾向が続き、撮影の重要度も低下した。ビデオカメラの運動会需要はどんどん小さくなっている。運動会の開催時期も秋集中型から春秋分散型に変わってきた。秋口にメーカー各社がこぞって広告を投下し、ビデオカメラ需要を喚起する、という構図も成り立たなくなってしまった。もちろん、スマートフォン(スマホ)の影響は絶大。動画撮影のスマホ化が進み、普段使いではビデオカメラの必要性が薄まった。また、レンズ交換式のミラーレスカメラによる動画撮影が一般化。ハイエンドな動画撮影需要はミラーレスへの移行が進んだ。ビデオカメラ市場から「お得意様」が次々と流れ出てしまったわけだ。
 しかし、スマホでは賄えない撮影需要を満たすカメラは生きている。雨の中や水中の撮影にも耐え、スポーツの一人称視点での撮影にも活躍するカメラには一定の需要がある。
GoProに代表される小さなアクションカメラだ。夏と冬のスポーツシーズンに新たな需要期を生み出した。もう一つ、スマホでは賄えない撮影需要を満たしたカメラがある。それがオズポケ3だ。自撮りを含むVLOGブームをがっちりとらえた。棒状の小さなボディーであるため、カメラを握って腕を前に出すだけの自然な体制で自撮りが可能。カメラユニットもボタン一つで自分向きに回転するため、スマホより楽に自撮りができる。
 基本機能が優れているのもオズポケ3の持ち味。物理的な手振れ補正機構(ジンバル)を搭載しているのが、最大の特徴だ。ジンバル機構は繊細で扱いに神経を使うのが玉に瑕。だが、そのデメリットを補って余りあるメリットがある。そもそも、カメラユニットがくるくる動くため、見ているだけでもかわいらしくて面白い。
1インチと大きなセンサーを搭載しているので、暗所に強い。ジンバル機構との相乗効果で、全般にブレやノイズが少ないクリアな映像が撮影できる。こうした部分はやはりスマホではカバーできない。スマホを持っていながらも、さらに買う価値のあるカメラ、というわけだ。
 こまめなファームウェア更新も魅力。オズポケ3の「長期政権」を支える要因のひとつだ。発売以来これまで5回の大きなファームウェアの更新を実施。その都度新たな機能を追加してきた。しかも無料で。この2月もアップグレードを行った。高画質な中望遠モードやピント調整時に画角の変化を抑えるフォーカスブリージング補正機能を追加した。オズポケ3には光学ズーム機能がないのが弱点とされてきた。
しかし、今回追加された高画質中望遠モードは、その弱点をある程度補えるものと評価されている。
 オズポケ3と同様のジンバル機構を備えたカメラは、日本ではほとんど見かけない。一方中国市場では、2匹目3匹目のドジョウを狙って類似のカメラを数多く見かける。かつてビデオカメラ市場で覇権を握っていたソニーやパナソニックは一体何をしているのだろうか。両社とも動画市場の軸足はミラーレスカメラに移行してしまい、ビデオカメラには興味を失っているようにも見える。それとも、もはや彼らにはビデオカメラ市場でブレイクスルーを起こす力は残っていないのだろうか?(BCN・道越一郎)
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