【外食業界のリアル・24】外食の世界では、これまで「予約」「注文」「決済」はそれぞれ別々の仕組みで処理されるのが当たり前だった。例えば予約がクラウド台帳、注文が店内タブレット端末やスマートフォン(スマホ)、決済がPOSレジ。
利用者は場面ごとに別のシステムに触れる必要があり、データを共通化し、横断したアプローチも限定されていた。しかし近年、予約から注文、決済までを一気通貫で処理する流れが出てきており、ユーザー体験を変えるだけでなく、店舗オペレーションの在り方を変える可能性も秘めている。今回は一気通貫について語りたいと思う。

●予約情報と注文情報の分断
 これまでの予約は「日時」「人数」「希望のコース」「幹事の名前」「幹事の連絡先」といった入力された情報が予約台帳に登録され、条件に合わせて自動的に配席され、その後はリマインドがくるという流れであった。注文は当日、店内タブレットやモバイルオーダー、あるいはスタッフのハンディ端末で入力される形となる。コースを予約している場合は席に座ると料理が順次提供されるが、席のみの場合、店舗は来店するまで「何を準備すべきか」が見えない状態であった。
 外食業界では一部の人気店や高級店を除くと事前決済はあまり普及していない。ただし、例外的にビアガーデンのような食べ飲み放題を主体とする業態では少し事情が異なる。コースだけの提供であるとともに夏場は混雑が常態化し、オペレーションが大きな負担になるため、予約時にコース選択と決済を済ませておき、当日は受付確認後すぐにモバイルオーダーで注文する、そんな流れが既に始まっている。
●変わる店舗オペレーション
 店舗にとって事前に準備ができるコース予約の方がありがたい。あらかじめ食材を仕入れ、仕込みを済ませられるので効率が良く、来店後の待ち時間も少なくできる。内容に応じた料理を順番に提供していく形となり、オペレーションのタイムスケジュールが見えやすい。
一方で、自由に料理を選べるアラカルトも根強い人気となる。グループで何を食べようかと話したり、参加メンバーの好みを確認したりしながら、好きなものを好きなタイミングで注文できるのはアラカルトの醍醐味である。
 モバイルオーダーの注文においては「予約した人」と「実際に食べたい人」、「実際に注文する人」が一致しないことが課題となる。過去の予約や注文に応じてサジェストをすることはできるが、本当にその人が食べたいものなのかどうかとはいい切れず、予測が難しい。しかし、技術的に完全な“好み予測”を目指すよりも、店舗にとって本当に重要なのは「待たせないこと」である。
 特に最初のドリンクやフードをいかに早く出すかは、利用者の満足度を大きく左右する。もし予約時に提供する料理やドリンクが決まっているならば、来店と同時に料理を提供でき、“待ち時間ゼロ”が実現するだろう。アラカルトであっても事前に注文してもらえれば、仕入れや調理もスムーズになる。
 全ての料理を事前に注文することは難しいが、特別なメニューや前菜だけでも決めてもらえれば、当日の負荷が少し減る。予約台帳とモバイルオーダーがつながることで、こうした柔軟な運用が可能になる。
●「並ばない・支払わない外食体験」へ
 外食業界が長年悩まされてきた課題に無断キャンセルがある。事前決済はその有効な対策となるが、「利用者にメリットがない」ということで業界的には導入が進んではいない。
だが、「予約時に決済しておくから限定メニューが食べられる」「来店後すぐに料理が出てくる」といった利便性があれば、利用者も納得しやすいのではなかろうか。
 いま、予約台帳とモバイルオーダー、決済システムの連携は“外食DXの新標準”になろうとしている。予約と同時に注文と決済が完了し、来店すればすぐ料理が運ばれてくる。そんな「並ばない・支払わない外食体験」が増えてくるかもしれない。(イデア・レコード・左川裕規)

【注目の記事】
「スタバなう」とは何? 今、再び盛り上がっている理由
AI時代の飲食店集客、Webサイトの役割はこう変わる
人手不足を救うAIコール、外食業界の新常識とは?
ネイティブアプリとLINEミニアプリの最新事情、人手も含めた選択と集中がカギ
利用するだけでは見えない!? 飲食店のクーポン事情とその裏側
編集部おすすめ