(本紙主幹・奥田芳恵)
●ラグビーを通じて学んだ経営の本質
奥田 檜山さんにとって、ラグビーのご経験はとても大きなもののように思えます。
檜山 激しくて常にぶつかりながら殴り合っているようなスポーツなんですが、終わると血を流しながら握手して互いのプレーをたたえる(笑)。
奥田 ノーサイドですね。
檜山 時々街中で、相手チームの選手から「あのプレーはよかった」とか声をかけられるようなこともあって、そんなラグビーの清々しさがとても好きです。
奥田 ポジションはどこだったんですか。
檜山 日本ではフルバックでした。
奥田 ラグビーを通して学ばれることも多くあったように思われます。
檜山 ラグビーはチームスポーツです。15人それぞれの役割が明確に決められています。自分は自分の役割を追求して、どうチームに貢献するかを真剣に考える。他のメンバーはどうやってチームメイトを生かすかを真剣に考える。戦況を見ながら、臨機応変に動かなければならない。とても頭を使うんですよ。終わると体だけじゃなく頭もすごく疲れているのが分かります。
奥田 なんだか経営にも通じる話のように思えてきました。
檜山 戦況を見て、戦い方を変えていく。
奥田 周りを動かすコミュニケーション、大事ですね。
●SI一辺倒では欧米に勝てない これから必要なのはSOだ
檜山 SIだとかDXだとか、ITビジネスは複雑です。いろいろな要素があってスキルも異なります。できる限り簡単に理解できるよう、例え話を多く使うようにしています。
奥田 とても時間がかかりそうですね。
檜山 時間がかかるし、継続的に言い続ける、ある種の忍耐も必要です。
奥田 分かりやすいですね。SOにシフトする必要性について、もう少し詳しく教えていただけますか。
檜山 日本はデジタル化がとても遅れています。世界に比べて周回遅れです。特にデータを使って新しいビジネスを創出するようなところが、すごく遅れている。
奥田 どうしてこんなに後れを取ってしまったんでしょうか。
檜山 日本では、IT業界にまかせっきりなんです。だから、ITエンジニアの数が米国に比べ4分の1とかなり少ない。SOに移行してもっと効率化する必要があります。すでにAIの時代が訪れています。AIの活用はこれからどんどん進んでいくでしょう。そのベースを今、つくっていかなければならないんです。
奥田 AIの活用が必要不可欠であると。
檜山 労働人口はどんどん減っていきます。
奥田 東芝から日本マイクロソフト、そして今と、ずっとPCに関わってこられたわけですが、これからPC市場を伸ばす余地はあるんでしょうか。
檜山 十分あると思います。レノボに来たのはそれを実現するためでもあります。東芝というハードメーカーからGAFAMの一角でもあるマイクロソフトというプラットフォーマーに移った。これからの産業に不可欠だと思ったからです。ところが、プラットフォームだけでは、市場の活性化には不十分だと感じました。そこで、またハードウェアに戻ってきたわけです。
AIの活用が進めば、データのコミュニケーションが一挙に爆発します。今のデータセンターだけでは賄えないかもしれません。クラウドに上がってきた情報が外にもあふれ出すでしょう。その受け皿としてPCが必要なんです。市場はもっと伸びるでしょう。
奥田 最近ではサーバーの水冷化が進んでいますよね。あの冷却システムを見ていると、どれだけ熱くなるのかと不安にもなります。ひいては環境問題にも発展するのではないでしょうか。
檜山 システムはすさまじく、ものすごい勢いで熱くなります。当社にはIBM時代からのネプチューンという水冷システムがあり、現在第6世代まできています。常温の水で冷やせるという画期的なシステムです。とはいえ、温暖化にもつながるような問題だけに、われわれだけで解決できるわけではありません。CO2のオフセット券を発行するなどして、ユーザー、パートナーも含めた環境のエコシステムをつくることも重要です。
奥田 温暖化以外にも新しい問題が生まれる心配はありませんか。
檜山 今はバラバラに存在しているAIですが、AI同士の接続が始まろうとしています。AI同士でデータがやり取りされるようになると、例えばプライバシーを含んだデータもどんどん流れ出てしまいかねない。AI同士の接続を監視して管理する必要もあります。
奥田 AIの進展で人間の存在意義は薄れてしまいませんか。
檜山 どんなにAIが発展したところで、私たちは間違いなく新しい創造領域をつくっていくことになるでしょう。そこは楽観視していいと思いますよ。
●こぼれ話
週刊BCNに度々ご登場いただいている檜山太郎さん。今回は、千人回峰で対談の機会を得ることができた。ビジネスの詳細は他の記事に委ね、千人回峰を貫く大きなテーマ「人とは何ぞや」に近づけるか。初登場ではないからこそのプレッシャーと期待を自らに課しながら秋葉原へ。
何から切り出そうか。対談の入り方はある程度考えていくものの、その場の雰囲気を大切にしている。檜山さんの場合、時間の関係でいきなりポートレート撮影からスタート。あいさつもそこそこに窓際に立っていただき、にこやかな表情を要求する。場が和んでいない中、カメラを見つめながら穏やかな笑顔で雑談に応じる檜山さん。あっという間に、室内に笑顔と笑い声が広がり、取材クルー一同が檜山さんのお人柄に救われる。
例え話を用いながら、丁寧に説明するように心掛けているという檜山さん。お立場から時間に追われる毎日と想像するが、コミュニケーションには時間をかけているそう。私はと言うと「コミュニケーションはコストではなく投資」と心にとどめているものの、できていない自分に直面し、反省ばかりの日々だ。「分かるだろう、分かっていてほしい」。そんな相手への甘えも、コミュニケーションを希薄にしてしまっている。多くの人に支えられていることに甘んじることなく、それに応える丁寧なコミュニケーションを心掛けたいものだ。それがビジネスのスピードや成功にも直結する。
檜山さんは、ラグビーの経験から、チームプレーが脳内に染み付いているようだ。それだけラグビーに打ち込み、多くのことを得られたのだろう。真剣にやるからこその学びだ。
AI同士がつながり、さらに大きな変化が起ころうとしている。その世界で自分はどんな想像領域をつくっていけるのだろうか。人間の欲望に天井はない。それゆえ不安もあるが、だからこそ驚きが生まれる。
IT業界は、幾度となく新しいテクノロジーによって、安定を崩して新しいビジネスをつくってきた。檜山さんが率いるレノボの挑戦は、世の中にどんな驚きを与えるだろうか。そのスピードは加速している。(奥田芳恵)
心に響く人生の匠たち
「千人回峰」というタイトルは、比叡山の峰々を千日かけて駆け巡り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借したものです。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れたいと願い、この連載を続けています。
「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。
奥田喜久男(週刊BCN 創刊編集長)
<1000分の第381回(下)>
※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。
 
                         
                             
                                         
                                         
                                         
                                         
                                         
                                         
                                         
                                         
                                         
                                 
                                 
                                 
                     
                     
                     
                     
                     
                     
                     
                     
                     
                     
                     
                     
                    










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