「耳スピ」としてオープンイヤー型イヤホン『nwm』を展開するNTTソノリティは、新ブランド『cocoe(ココエ)』の立ち上げに伴い、新ブランド発表会を開催。その第一弾製品は、クラウドファンディングのプロジェクトとして展開すると発表した。


●高齢化社会で難聴者は推定1430万人
 NTTソノリティは先般、新ブランド『cocoe』の発表会を開催。当日は親会社であるNTTの大西佐知子常務取締役が登壇し、NTTグループの音声に対するこれまでの取り組みと新ブランド立ち上げの背景について語った。
 65歳以上の人口は2025年で3619万人。人口に占める割合は29.4%だ。国内の高齢化は進行しており、2040年の65歳以上人口が占める割合は34.8%、つまり3人に1人が65歳以上になると予測されている。
 加齢が引き起こす問題の一つに聞こえ方がある。日本補聴器工業会がまとめたJapanTrak調査報告によると、国内では推定で1430万人が難聴者という。さらに65歳未満でも難聴、もしくは難聴と思っているのは約10人に1人と報告されている。
 難聴者は非常に多いが、前述の調査報告では補聴器を所有している難聴者の割合は約15%。普及は進んでいないのが実情だ。
 大西常務は「NTTグループでは半世紀以上にわたって音に関する研究開発を続けてきました。その培ってきた技術を活かして、聞こえづらくなってきた方々へもう一度、音を耳元へお届けするため、新しいブランド『cocoe』を発表します」と述べた。

 続いて登壇したNTTソノリティの坂井博代表取締役社長は、大西氏が話した難聴者の補聴器普及率を受けて「難聴の自覚症状があっても補聴器を使用しない理由としては、『(補聴器を付けるのが)わずらわしい』、『難聴がそれほどひどくない』、『(補聴器を導入する)経済的な余裕がない』など、さまざまな要因があります」と述べた。
 その一方でNTTドコモ モバイル社会研究所の調査によると、60代のSNS利用率は直近4年間で41%から80%に増加。自分から発信したり、人や社会とのつながりを持ち続けたりするアクティブな大人が増えているという。
 難聴者の聞こえをサポートできれば毎日が楽しくアクティブに過ごせるようになり、QOL(生活の質)も向上する。しかし、補聴器の導入には前述のようなハードルもあるのが実情だ。
 坂井社長は「そこで、オープンイヤー型イヤホンの開発を行ってきた当社が、今のシニアに新しい聞こえの選択肢を届けられないかと考え、オープンイヤーと集音器を掛け合わせた新しいカテゴリーに挑戦することを決めました」と語った。その挑戦が、新ブランドのcocoeである。
●自然な聞こえと装着感が両立したcocoe Ear
 cocoeの第一弾製品は、ワイヤレスオープンイヤー型集音器の「cocoe Ear(ココエイヤー)」。耳をふさがないオープンイヤー型のため、周囲の音を遮断するのではなく周囲の音と共存する。また、集音のみに特化しているわけではなく、ワイヤレスイヤホンとしても利用が可能。カラーラインアップはブラックとベージュ、ホワイトの3色だ。
 製品開発においては約50名にヒアリングを行い、開発の当初から操作感や使用感、デザインにいたるまで何度もテストを重ねてきたという。

 坂井社長は「NTTの特許技術と当社が培ってきたオープンイヤー型開発のノウハウを掛け合わせて、音漏れを抑えながら自然な聞こえと装着感を両立させました」と語る。
 主な特徴は3点。1点目は耳をふさがず、聞こえている音はそのままで足りない音を補う。2点目は日常生活に溶け込んで、必要な時にサッと使えること。3点目はテレビの視聴時に最適な音量で聞こえるためのデバイスとの連携だ。
 1点目の聞こえている音はそのままで、足りない音を補うとはどのようなことか。前職は補聴器メーカーで開発を担当していたというNTTソノリティの中野達也cocoeプロダクトマネージャーは次のように解説する。
 「人は加齢によって高い音が聞こえにくくなってきますが、低い音はそれほど影響を受けません。cocoe Earは低い音はそのまま耳に届け、高い音を増幅します。つまり、直接音と増幅音のハイブリッドで自然な聞こえ方を実現しています」
 中野プロダクトマネージャーによると、ハイブリッドの直接音はまだしも、マイクを利用した集音では2つの課題があったという。一つはマイクから入ってきた音を音声信号として処理して増幅し、スピーカーから出力するまでのレイテンシー、つまり遅延だ。もう一つはスピーカーから出た音を再びマイクが拾ってしまうことで発生するハウリングである。

 前者に対しては音声処理に高性能チップを採用し、わずか約0.0025秒の遅延にとどめた。後者は音漏れを抑制するNTTの特許技術である「PSZ」にハウリングを低減する構造設計と、ハウリングを抑制するための音声処理のチューニングを組み合わせて解決したと中野プロダクトマネージャーは解説する。
 特徴の2点目については本体にメインとボリュームの物理ボタンを採用し、ボタンを押すことによって集音のオン/オフや音量調整ができる。充電ケースから取り出して耳に装着すると自動でスイッチがオンになり、集音が必要なときと不要なときはボタンを押すだけで切り替えることが可能だ。
 さらに「耳に装着すると、どこにボタンがあるのかが分かりにくいという方のためにスマートフォンでも操作できるよう、シンプルで使いやすいcocoe Connectアプリもありますので、音量調整などはスマートフォンでもできます」という。
 また、同梱の着脱式ネックストラップを付けると、使わないときは首周りに掛けておくことができるので、イヤホンの落下に伴う紛失防止にも役立つ。
●テレビのボリューム問題を解決するcocoe Link
 特徴の3点目はテレビ視聴時に連携するデバイス。テレビ番組の音が聞こえにくくなり、ボリュームを上げると家族から音量が大きいと指摘されるのは、高齢者とその家族にとってよくあるケースといってもよいだろう。
 この、いわゆるテレビのボリューム問題を解決するのが、テレビと接続するデバイスのcocoe Linkだ。
 cocoe Linkはテレビ番組の音をワイヤレスで送信するトランスミッター。テレビのヘッドホン端子にcocoe Linkをケーブル接続すると、cocoe Earのボタン一つでテレビの音声が耳元で聞こえる。
 テレビのボリュームを上げなくてもcocoe Earのボリュームボタンかアプリの操作で、周囲を気にすることなくテレビ番組を自分に合った最適な音量で楽しむことができる。

 また、cocoe Linkは内蔵マイクを搭載。テレビとケーブルで接続せず、テレビの近くに置くだけで内蔵マイクがテレビの音声を拾ってcocoe Earに音を届ける。
 「オーディオケーブルで接続してもらうほうが確実に音質はよいのですが、聞こえに困っている方々を誰1人として取りこぼさないようにしたい。そんな思いがcocoe Linkの設計には込められています」と中野プロダクトマネージャーは解説する。
 テレビとcocoe Linkを接続すると、どのように聞こえるのか体験してみた。テレビの音声が耳のすぐそばから聞こえ、音質も非常に明瞭。しかもオープンイヤーだから周囲の音も自然に聞こえる。テレビのスピーカーからも音声は出ていたが、レイテンシーは全く感じない。
 試しに物理ボタンを操作して音量を上げてみると、テレビの音声だけ大きく聞こえ、周囲の音に変化はない。これならテレビのボリューム問題は解消できると実感した。
 余談だが、スマートフォンとcocoe EarはBluetoothで接続中、通話音質の高音増幅はできない。ただし、接続を解除し、スマートフォンのスピーカーから音声を出してcocoe Earで集音すれば、対面会話と同様に高音を増幅することができるとのことだ。

●販売はGREEN FUNDINGのプロジェクトとしてスタート
 紹介してきたcocoe Earとcocoe Linkは、12月23日からクラウドファンディングサイト「GREEN FUNDING」のプロジェクトという形で展開がスタートした。
 一般販売予定価格はcocoe Earが3万9600円、cocoe Linkは1万500円だが、同プロジェクトではcocoe Ear単独やcocoe Linkとのセットを割引価格で提供する。数量限定のため、早めに同プロジェクトページをチェックしよう。
 先行発売の場にGREEN FUNDINGを選んだ理由は、同サイトでの集音器の扱いが多いことと、支援者=ユーザーの声を直接聞くことができるためという。いわゆるテストマーケティングのような形で、ユーザーの声を製品の改善に反映して本格販売に進むというロードマップだ。
 支援者の声を反映した改善点として考えられるのは、音声処理のチューニング。坂井社長は「外観も含む形状や装着感については、相当数の意見を聞いてきました。音のチューニング処理や周波数帯のバランスなどは、ユーザーの声を聞いたうえで判断したいと考えています」と話す。
 本格販売は来年春以降の予定で、坂井社長によると「クラウドファンディングで支援者に製品をお届けできるのが2026年の3月以降。その後、ECで販売することは間違いありませんが、店舗としての販売チャネルは未定です」という。音を聞き取りにくい人がターゲットのため、どのような販売チャネルが最適なのかを検討している段階のようだ。
 販売はまだ先だが、cocoe Earは聞こえにくさという問題を解決する機器であることから、一部のドコモショップで店頭対応トライアルを実施している。
12月31日まではドコモショップ丸の内店(東京)、札幌店(北海道)、六本松店(福岡県)でトライアルを実施し、そのほかのエリアにも拡大していく計画である。
 ドコモショップには契約や相談などで、さまざまな人が訪れる。対面接客のため、高齢者も多く訪れ、中には難聴者や聞き取りに不安を持っている人もいるかもしれない。そのようなお客に対してcocoe Earを使ってもらい、コミュニケーションの改善に活用するのが狙いという。
 また、東京の蔦屋家電+とSHIBUYA TSUTAYA、福岡の福岡天神 蔦屋書店でも2026年1月22日まで製品の展示が行われる予定だ。
 五感の一つである聴覚の問題にフォーカスし、聞こえにくさの課題解決に挑戦した新ブランドcocoe。年末年始の帰省で久しぶりに親と対話して、耳が遠くなったことに気がつく人も多いのではないだろうか。また、親だけでなく自分自身で聞こえにくさを感じるようになってきたのであれば、前述のGREEN FUNDINGのプロジェクトページや展示店舗で、製品の詳細を確認してみよう。(BCN総研・風間理男)
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