(本紙主幹・奥田芳恵)
●最悪の状態で引き継いだ老舗立て直しに、あえて選んだ遠回り
奥田 2026年で創業120周年という製缶会社をお父様から引き継がれたわけですが、最初はとても大変だったとか。
石川 父が体を壊して、急きょ、継ぐことになったんです。ところが、会社の中は悪口の言い合いばかりで空中分解目前。業績も最悪でした。売り上げが4億9000万円で赤字が4000万円。赤字は3期連続です。
奥田 胃がキリキリします。やるべきことは山積みだったと思いますが、どこから着手したんですか。
石川 まずはデジタル環境を整えるところから始めました。実は、給与も経費精算も、金庫からお金を出して現金で支払っていたんです。
奥田 本当ですか。時が止まっているような……。
石川 令和の実話です(笑)。営業の人は始業から10分くらいボーっとしている。PCが立ち上がるのを待っているんですね。10年選手の古いロースペックのPCだったんです。
奥田 社員の方々も仕事が楽になって喜ばれたでしょうね。
石川 普通なら「便利になってうれしい」だと思うんですが、今までのやり方が楽だった、という声もあったんです。世の中的にいいと言われる先端システムを入れても、結局、軸がないんです。何をやってもパッチワーク。必ずしも、みんなにとっていい人生につながるわけじゃないんですね。
奥田 歴史のある会社ですから、軸になる経営理念はしっかりお持ちだったんじゃないんですか。
石川 ないみたいなんです。めっちゃ頑張ってみんなに聞いて回ったんですが、結局見つからなかった。「速く安くたくさんつくれ」以外のことは言われたことがない、と。
奥田 会社は切羽詰まった状況なわけでしょう?1円でも多く利益をあげなきゃならない。遠回りするには勇気が必要だったのではないですか。
石川 そうなんですが、みんな毎日一生懸命仕事をしていても、どんどん業況が悪化する。昔と同じように、目の前のことを毎日こなしていても報われない。時代に置いて行かれた状態です。給与が減り、ボーナスが減り、犯人捜しで悪口を言いあって。それで溜飲を下げて自分の心を何とか納得させて働く、これでは前に進めません。
奥田 それは何とかしなければいけませんね。
石川 ちゃんと現実を受け止め、自分たちで大事にしているものを自分たちでしっかり言語化したら、もっといい会社になるんじゃないか、と考えたんです。
奥田 言葉になっていなくても、会社を貫く何かはあるはずですよね。
石川 軸を探していく中で、お客様の思いに応えたいという「誠実さ」「真面目さ」「愚直さ」みたいなものがDNAだと分かりました。うちは中堅の缶メーカーなんですが、ちっちゃいからとか、かたちが面倒だからとかいう理由で、大手で断られたお客様が多いんです。難しい要望でも、しっかりとお応えしながら、できることを増やしてきました。結果的に設備も充実し、本当に何でもつくれるようにしたんです。そこから「世界にcanを」というミッションが生まれました。「缶」と「できる」のcanです。
●みんなの思いを凝縮してできたミッション、ビジョン、バリュー
奥田 どんなプロセスでつくっていかれたんですか。
石川 最初は僕一人で考えて「これでどうだ」と発表したら「シラー」って感じ。誰にも響かず、全然だめでしたね。それから、とにかくみんなに聞きました。
奥田 全部お一人で?
石川 最初はそうなんですが、できたものはみんなに見せて意見をもらいました。そこで「あー、いいじゃん」ということになって、それを起点にみんなでバリューづくりです。みんなが大事にしている価値観とか行動規範を見えるようにしていきました。それを軸に仕事をしていこうということです。
奥田 主役は社員のみなさんということですね。
石川 僕はあくまでもファシリテーターとコピーライターのような役割に徹しました。素人なんですけどね。みんなが言っていることを、全部分解して組み立てるとこういうことだよね、と思いました。
奥田 社員のみなさんとは、とてもフラットに接してらっしゃるようにお見受けします。
石川 僕はマスコットみたいなものです(笑)。登記上は代表取締役ですが、社長という肩書は一切使っていません。みんなからは、貴也くんとか貴也さんとか言われています。ビジネスでは自分のことを「私」と言わなきゃならないとか、よく言うじゃないですか。本当にそうですかね?「僕」でいいじゃん、と。僕のことをみんなが毎日社長と言い続けていると、あの人には逆らえないんだと勝手にマインドセットされていく。そういうことは一切ないように気を付けています。自然体です。朝出社した瞬間に仮面をかぶって、というのは歪んでいませんか?みんな、ありのままの自分でそのまま仕事に入れるほうが健康的ですよね。
奥田 社員のみなさんは、最初からウエルカムだったんですか。
石川 とんでもない。最初は超四面楚歌でした。「みんな嫌だって言っていますよ」と言われたこともあります。あれは辛かったなぁ。(つづく)
●書籍『アートオブラビング』(愛するということ)/エーリッヒ・フロム 著
愛とは信念の行為であって、愛し続ければ相手に愛が生まれるはずだ、という希望に全身を委ねること。この本にはこんな趣旨のくだりがある。石川さんの経営姿勢そのものだ。社員のことを「みんな」と呼ぶのにも何か関係がありそうだ。「みんなのことを信じて託す。時にうまくいかないこともある。でも立ち止まって振り返ると、相手のことより自分がどうありたいかが全てだ、と気付く。そういうヒントをたくさんもらった」。石川さんは穏やかなまなざしでそう語った。
心に響く人生の匠たち
「千人回峰」というタイトルは、比叡山の峰々を千日かけて駆け巡り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借したものです。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れたいと願い、この連載を続けています。
「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。
奥田喜久男(週刊BCN 創刊編集長)
<1000分の第387回(上)>
※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。











![[USBで録画や再生可能]Tinguポータブルテレビ テレビ小型 14.1インチ 高齢者向け 病院使用可能 大画面 大音量 簡単操作 車中泊 車載用バッグ付き 良い画質 HDMI端子搭載 録画機能 YouTube視聴可能 モバイルバッテリーに対応 AC電源・車載電源に対応 スタンド/吊り下げ/車載の3種類設置 リモコン付き 遠距離操作可能 タイムシフト機能付き 底部ボタン 軽量 (14.1インチ)](https://m.media-amazon.com/images/I/51-Yonm5vZL._SL500_.jpg)