ベビーシッターのマッチングアプリ「キッズライン」を利用して、利用者から預かった男児の下半身を触ったとして、元保育士の男が逮捕されたという報道がありました。
〇男児にわいせつ容疑、シッター28歳男逮捕 両親、アプリで依頼 警視庁|朝日新聞デジタル https://www.asahi.com/articles/DA3S14453729.html
第一報ではこのアプリ名や運営会社の報道はありませんでしたが、やはりと言いますか、その後の追加報道で経沢香保子さんの経営する「キッズライン」であると名指しで記事になりました。
〇シッターアプリ大手「キッズライン」で起きた ベビーシッター男児強制わいせつ事件の全容|AERA dot. (アエラドット) https://dot.asahi.com/dot/2020050300008.html
当サイト「ベストタイムズ」の本連載でも、この経沢香保子さんのキッズライン社については違和感を記事にしておったわけですが、ボク言いましたよね。また、社会活動家の駒崎弘樹さんもご自身の『note』で懸念点について論じられています。
〇【緊急特報】コロナウイルスで「キッズライン」や「ナビタス」など微妙業者が「便乗商法」花盛り問題】 | BEST T!MESコラム https://www.kk-bestsellers.com/articles/-/11360/
〇キッズラインのベビーシッターが子どもへの性犯罪で逮捕 ~性犯罪者を保育現場から排除する仕組みをどう作るか?~ https://note.com/komazaki/n/n4860c7f274a3
本件については、朝日新聞が記事掲載を行った後の4月29日に「当該人物だけでなく、起きているマッチング先でのトラブルを精査し、現状で行われているオンラインでのシッター登録を改めるなどの再発防止の改善計画を組まれるご予定はございますでしょうか」と質問をお送りしていたのですが、プレスリリースが行われた旨の回答が一文返答としてあったのが5月8日になってからでした。
いままさに、男児わいせつ事件というシッターの信頼に関わる事件について当事者であるキッズライン社の再発防止策を含めた対応や考え方を知りたい状況であるにもかかわらず、あたかも自社だけが問題だったわけではないと言いたそうな返答をしてくるというのはどういうことなんでしょう。
また、駒崎さんも書かれていますが、キッズライン社の問題については、この問題をベストタイムズで記事にした直後にも、また今回の男児わいせつ事件が報じられた後も、類似の被害を訴え出るツイートや匿名での連絡も相次ぎました。また、実際にキッズライン社にお勤めの方から「もはやキッズラインは離職者が増え、内部崩壊同然である」との告発まで寄せられる始末です。
また、キッズライン社はようやく対策について発表をしましたが、警視庁は「被害者のプライバシー保護のために公表を控えるよう要請」などしていないそうです。当たり前ですね、確かに被害者一家がそのまま報じられればプライバシー保護のためにも隠匿すべきですが、警視庁記者クラブで「キッズラインで事件があった」と名指しでレクをしているようで、関わった事業者の公表がプライバシーで問題になるなんて聞いたことがありません。実際に朝日新聞は報じています。どうしてこの段階でなお、キッズライン社は嘘くさい弁明をする必要があるのでしょう。
●一部報道に関しての報告および弊社の対策につきまして- キッズライン https://kidsline.me/contents/news_detail/584
■「登録の簡素化」で生じた野放し状態と危うさキッズライン社がこれらのトラブルに見舞われやすいのですが、いまや本社六本木でのシッター登録面接もせず、オンラインで済ませられるよう「登録の簡素化」をし、コロナウイルスで在宅となりヒマな人たちの登録拡大に打って出る方針も理由のひとつでしょう。
シッタートレーニングについても、練習のためシッター派遣されるトレーナーの女性には、現金ではなくなぜかキッズライン・ポイントなる自家発行のポイント(商品券的なもの)でしか報いることなく、他の事業者に比べて派遣仲介料が高く設定されているうえに契約している損害保険以上の補償はありません。
キッズライン社のマッチングを通じて派遣されたシッターから被害を被ったとされる家庭がどのくらいいるのかについては、捜査の進展を待ちながらキッズライン社による改善計画の発表とその進捗について見守りたいところではあります。ただ、これらのシッター事業については、いまでこそ無認可で野放図に斡旋された見ず知らずの人をそのまま自宅に上げ、自らの子どもをシッターとして預けている形になっています。もちろん、共働きの家庭や、緊急の外出時あるいは子どもが傷病中で保育園に行かせられないなどの状況であれば、シッター代金以上に心強い存在であることは確かです。
一方で、本件に対する役所の対応はあまり熱心とは言えません。所管である厚生労働省は「報道の内容までは承知しているが、個別の事案については現段階では応えられない」。また、内閣府子ども・子育て本部児童手当管理室は「あくまでも(シッターの)『割引券制度』にまつわる事案に関しては対応するが、シッター制度そのもの、個別の取り扱い事業者などに関しては、児童福祉法に基づき、都道府県への届出、所管は厚労省」であるとして、こちらも個別の事業者の事情には答えられない状況です。きちんとしたベビーシッターも含めた家政婦派遣には統一された法律もなく認可業務でもないため、役所が事件ごとに対応について答えられないのもまた致し方ないところかなとは思います。
しかしながら、女性の社会進出が是とされ、共働きが当たり前になる中で子育ての手段のバラエティを増やしていくことが必要な世の中になってきているにもかかわらず、シッター派遣の最大手を自認するキッズライン社がこのような対応であるというのは非常に残念なことです。さっそくキッズライン社内からは「キッズラインの株式上場のために、この問題はキッズラインだけの問題ではないと広報せよと経沢さんから言われている」と、釈明文面検討案つきで告発まで出ています。
単なる悪質業者としての「キッズライン叩き」に堕する必要はないと思いますが、さりとてまともに被害状況の社内確認すら真摯に公表せず、再発防止策について積極的に情報開示するようにも見えない状況ではせっかく高邁な理念を経沢香保子さんが説いても実態が追い付かないのはもったいないのではないでしょうか。